060 ウミユリ幻想 

    ◆2023年7月11日

ウミユリ

美しい響きの名

けれど息だけでささやかねば

光射さない海底の花がゆらめきださぬよう

付着していたしじまを不意に犯された驚きにあわて

実は棘皮動物だった彼が無様ぶざまにもがき泳ぎだしてしまわぬよう、ひっそりと



──なあんて妄想に過ごしてたボロロプレハブ内は、朝から気温35度。

海底生物の海百合ウミユリなら、たちまち昇天しそうな蒸し暑さでした。


なのに海月クラゲ婆さん、ぐうたら病悪化でこもってました。

しいんと冷たい海の底にいるつもりで、おこもりしっぱなしでおりました。


だって、扇風機出すさえ面倒くさかったのよ(電気代かさむのも困るしで)。


それでコップの百合の花が海星ヒトデの腕みたいに開いてるから海百合も思い出してね、暑さしのぎすることにしたんです。心頭を滅却すれば火もまた涼しってね。

海星ヒトデは照りつける磯浜の波の下に散らばり光ってるイメージ。

けども海百合なら、古生代からひいやり静まりかえってる深海まで想像できて──。





昨晩は下弦の月が見られたのに、…今夜はまだ。


海月山から見はらせる近海にも、海百合は生息するとか。

月の光など届きようがない闇に、ひっそり沈み揺れ咲いてるだけではないのかも。



時間の速度は、重力が増すほど遅くなるそうですね。

となると海抜300mを超す海月山に棲む私と、海底で揺らいでる海百合の時の流れはどれほど違うんだろう……。

その億万年の水圧に耐え咲く、時の長さも──。


漆黒の窓外から吹いてくる風の心地よさに想うばかりでいます。


もう21時。気温は28度まで下がりました。





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