006 風に乗ってくるもの

 ◆2023年1月12日

昨晩。もう真夜中といっていい刻。数人らしい人声が聞こえだしました。

まだ起きてた私は人界隔たる山頂ポツン暮らし。こんなところに、しかも真っ暗な深夜、誰もやって来るわけがありません。


耳をすますとマイク越しな話し声だったので、どうやらどこかの人家からみたい。カラオケでもやっててのことかしら。


そして数分も経つと風向きが変わったようで聴こえなくなり、少しして車の低い走行音に変わりました。


これもまた、じきに途絶えたんですけどね。私もそれから寝ることにしたし。




海月山から見下ろせる麓の集落は遠く、海べりの国道はさらに離れてて、しかも標高差もあるというのに、たまにすぐ近くみたいな人間の生活音が聞こえだします。

それを私は仙人というか山ん姥の心地で、耳にしているわけです。


そしてそれは風の強い日ではなく、まさしくふわりと風に乗ったかのようなおだやかな時間に、耳元へと届くんでした。



遠い遠い国の戦争や殺戮から、ここはさらにはるかなのにです──。

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