リフォーム10/DIYをやればモテる(後)
どう考えても等身大木造は悪手だったとしか言えない、そしてこのまま身を任せてしまえば。
(僕なら出来る筈さ!! 雰囲気なんかに絶対流されないっていうか、絶対に後先考えてないよねシャロン!?)
だからこそ、五郎は流されずに助かった部分もある。
然もあらん、彼女の格好はいつもと同じく芋ジャージ。
もし仮に像と同じくドレス姿で、或いは普通の女の子の格好であったなら。
「――ありがとうシャロン」
「ふぇっ? ――――んんっ??」
「ああ……君を抱きしめるとさ、こんなにも幸せな気持ちになるなんて」
「なっ、なんでいきなり抱きしめるのですわっ!?」
「ごめん、アレを作った時はまだ僕らは恋人でさ。君が不在でも気が紛れるようにって、僕の想いの結晶だったから……喜んでくれるって勝手に思ってたんだ、だから、ごめん」
ぁ、と小さな声と共に、腕の中のシャロンが体から力を抜くのが分かった。
彼女は恐る恐る五郎の胸板に額をくっつけると、少しだけ躊躇ったあとで。
「…………私が喜んでくれると、そう思ったのですか?」
「うん、だけど僕の思い上がりだった。誰だって自分の像を勝手に作られて喜ぶ筈ないのに……」
「でも、私だけを思って、作ってくださったんですわよね。それで……どうしてベッドの脇に置こうと思ったんですの?」
「子供っぽい考えだよ、バカ丸出しって言ってもいい。……好きな人の姿が増えれば幸せかもって、そう思っただけなんだ」
(――――このヒトは)
言葉にしたくない事を、それでもシャロンは言葉として思い浮かべてしまった。
形のない衝動のままだと、暴れるがままにキスしてしまいそうだったから。
逞しい腕に抱かれているのが、泣きたくなるほど嬉しくて。
(嗚呼……呆れるほど、どうしようもないほど、私が好きで、愛しているんですのね)
愛してるからと言って、どうして等身大の人形を作る事をするのだろうか。
彼はその気持ちを子供っぽいと称した、だがシャロンは純粋さと受け取る。
そんな五郎が別れを告げた時、どんなに辛かったか想像に難くない。
「五郎――」
ごめんなさい、とも、ありがとう、とも言えなかった。
今のシャロンには、言う資格がない。
別れてしまった時点で、それを喪ってしまったからだ。
(何となくですが、分かったような気がしましたわ)
どうして五郎は、ベッドをキングサイズにしようと言ったのか。
親友、同居、男と女である二人には、元恋人であるからこそ曖昧な関係で。
少しでも引き留められるように、少しでも繋がっていられるように。
「貴男はきっと……私には勿体ないぐらいのヒトですわね」
「シャロン?」
「ベッド作り、しましょうか……一緒に頑張りましょう」
それは今の大輪の賑やかな花を開くようなモノではなく、しかして昔のように孤独に震えた棘がある花でもなく。
草原に咲く野花のような、穏やかな笑顔で。
「――――ぁ」
「五郎? どうしたんですの?」
「ああ、ちょっとね。……君の笑顔に見惚れていたんだ」
「ふふっ、嬉しいですわ」
五郎は今、初めて後悔と嬉しさを同時に味わっていた。
もし恋人のままだったら、そのまま口づけを交わしただろう。
だが恋人のままだったら、この笑顔は見られなかった。
――後ろ髪を引かれながらも、二人は自然と体を離して。
「…………よしッ、じゃあ作業に取りかかろうか!」
「あー、そういえば設計図とかあるんですの?」
「ふふふ、勿論だよ。――これがそう! 素朴な感じだけど丈夫にするつもり」
「どれどれ……成程、ローベッドにし余計な装飾を省く事で和室にも合うようにとッ!! 完ッ璧な計画ですわーーーーっ!! 私、気に入りましたことよ~~!!」
手応えアリと五郎は小さくガッツポーズ、ならば早速作業に入らなくてはならないが。
とはいえ、モノがモノだ出来るならば。
「合意も得られた所でさ、ちょっと相談があるんだ」
「何でも言ってくださいませ!!」
「材料はあるけど寸法測って切らなきゃいけないし、当然組み立てもあるんだけど、ニスも塗らなきゃだし、量も多いから……」
「ああ、人手が欲しいですわねぇ。寝室も物を退かして大掃除したいですし。――じゃあ絵馬を呼びましょう」
「えっ、いいの!? というかマジで!? いつも通り狂夜を呼ぶよ??」
順調にいって二日三日かかると五郎は踏んでいた、だからその間は狂夜にずっと手伝って貰おうと。
だが今回に限りシャロンは首を横に振った、確かに男手の方がいいのかもしれない。
だが。
「そろそろ……過去を乗り越える時ですわーー!!」
「おおおおおおおおっ!? スゴい!! 前向きだねシャロン!!」
「おほほほほっ、今までの私ではありませんコトよ~~!! ――貴男となら、五郎、私の親友!! きっと新しい境地へ行けますわ!!」
「勿論さ親友!! じゃあ……歓迎の準備をしよう!!」
そして一時間後、呼び出された絵馬は案の定メイド服姿でやってきたのだが。
「あ、あの?? お嬢様?? クソ五郎?? ちょっと圧が強くありません??」
「ははっ、気にするなよクソメイド。――二度は言わない、大人しく僕らに協力しろ、コキ使われろ」
「おほほほほほほ!! のこのこ来たのが運の尽きですわ~~っ!! 絵馬!! 私と五郎の為に……ベッド作りに協力なさい!! キングサイズを作るので人手が必要なんですわ~~!! 野宇田さんなら謝礼を出す所ですが絵馬なら安心のタダ! ですわ!!」
(これクソ五郎もシャロンお嬢様も暴走してるやつじゃないですか!! うわー懐かしいお嬢様の高校時代ぶり……じゃなくて!!)
見た目だけはクールな黒髪ロングメイドは冷や汗をかきながら、応援を呼ばなければと堅く決意した。
だが同じ奥間家に使える同僚達は呼べない、そんな事をすれば大惨事は目に見えている。
ならば残りは五郎の親友であり、つい先日知り合った男性、野宇田狂夜しかおらず。
「では絵馬、そこを押さえておいてくださいな、絶対に動いてはダメですわ!!」
「あっ、はい(早く来てください野宇田さん!! わたしが二人の出すイチャイチャオーラで嫉妬に狂う前に!!)」
「それ終わったらコッチも頼むーー」
「承知しましたクソ男(というか何で買わないんですかね?)」
「――――今、何か言いましたか? 絵馬、言いたい事があるなら素直に仰って?」
「い、いえ!! 何でもないですお嬢様!!」
今までにない気迫を醸し出す二人の姿に、絵馬は下手に口を挟むことも出来ず黙々と手伝うのみ。
倉庫にあった大量の木材に、もしや明日の食費すら危ういのでは。
そもそも今の二人に、キングサイズのベッドマットレスを買う余裕なんてあるのか、など色々と聞きたい事があったがお口チャックである。
「――――では、そろそろ行きますわよ五郎!! アレを用意するのですわーーーーーー!!」
「アレをやるんだねシャロン!! くぅ~~盛り上がってきた!!」
「えっ、えっ??」
「では危ないのでお下がりなさい絵馬!! そして私はゴーグルをオン!! アーンド、ザ・チェーンソーーッ!!」
「うええええええええええッ!? お、お嬢様!?」
五郎がヘルメットとチェーンソーを持ってきたかと思えば、それをシャロンに渡し。
彼女はニヤとドヤ顔で装備、となれば芋ジャージに安全ヘルメットでチェーンソーを構える奇人・金髪ドリルお嬢様の出現である。
困惑しかない絵馬の前で、彼女は叫んだ。
「いざ行かんッ!! 大切断チャレンジですわああああああああああああああああっ!!」
「いえーい!! 大切断チャレンジ!!」
「ど、どういう事です!?」
二人の唐突な奇行に、絵馬は目を白黒させて驚いた。
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