リフォーム6/今度こそ間違わない為に




 絵馬と狂夜と加え、餃子パーティ化した昼ご飯は和やかにスタートした。

 初対面の二人は馬があったようで会話は弾み、焚き火コンロで仲良く餃子を焼きながらビールを呷る。

 反対に口数少ないのは、家主である五郎とシャロンだ。


(本当に……お見合いするのシャロン?)


(五郎、そんな、――合コン、するんですの?)


 分かれて親友に戻っても、同居を選んだのだ。

 そして、新しく好きな人がどちらかに出来るまで、と決めたが。

 まさかこんな早くに、相手が動くと思っておらず。


(相手を……聞いて、いや聞けないでしょそんなのっ!! いったい誰がシャロンと――)


(くッ、何処でするんですの合コンなんてっ!! 私から五郎を……)


((でも))


 分かれてしまったのだ、もう二人は恋人でなくなってしまったのだ。

 だから、聞く権利が無い。

 むしろ状況から考えてみれば、応援しなければいけないとすら二人は思って。


「あー、その、良いヒトとお見合いできるといいね?」


「ッ!? そ、そうですわねっ、おほっ、おほほほほほほっ!!」


(ああああああああっ、同意した!? シャロンがそうですわねって、それってマジでお見合いするって事!?)


(良いヒト!? 良いヒトと来ましたか!? ――あわわわわわッ、不味い、これは不味いですわ、応援されてしまってますわ~~~~っ!?)


 シャロンは動揺して、手に持った皿の上にある餃子を上手く箸で掴めない。

 その光景を五郎は気づく余裕もなく、彼女がお見合いに前向きであると誤解して。


(クソッ、僕以外に恋人を作る気かシャロン――って、ああもう別れたんだから言う権利ないよね僕ってばさぁ!!)


(ど、どどどどどーするんですのよおおおおおおおおおおおお!! 誤解されたままじゃッ、で、でも……今の私に何かを言う権利は)


 独占欲、そんな言葉が未練という単語より早く二人の脳裏に思い浮かんだ。

 それは五郎にとっても、シャロンにとっても、忌諱すべき事で。

 だってそうだ、親に立ち向かう事をせず、ただお互いを独占する為に逃げ出した結果が駆け落ちでした今で。


(今度こそ――)


(……間違う事は出来ませんわ)


 応援してると、確かに言葉にしなくてはならない。

 だからシャロンは餃子を手づかみで食べ、ビールで流し込み勢いをつけ。


「合コン、するって言いましたわね。――どなたかお似合いの方に出会えればいいと祈っていますわ」


「!? あ、ありがとうシャロン、さっすが僕の親友だね!!」


「おほっ、ほほほほっ」


「はははっ」


 乾いた笑いが響く、賑やかに談笑しているフリをして狂夜と絵馬は二人をじっくりと観察していて。


「(最悪の時は、――分かってますね狂夜さん)」


「(勿論ですとも絵馬さん、無理矢理にでも会話に割って入ります。五郎は俺が、奥間さんは任せました)」


 そんな風に見守られてるとは知らず、二人はお互いを探るように視線を向ける。

 いくらなんでも別れてすぐ、もしかして自分に未練など少しも無いのだろうか、と。

 だがそんな事など口には出したくない、出せない、でも、でも、でも。


(勇気を出して、……聞かなきゃ。うん、これは間違えない為に、今度こそ間違わない為にだから)


 銀色の缶ビールをぐいっと、五郎はまっすぐにシャロンを見つめた。

 そして。


「――――ねぇシャロン、僕に未練はあるかい?」


「……」


(おい五郎!? いきなりぶっこんだなお前!? というか未練があるのはお前だろうが!! だが……俺の目が確かなら奥間さんも、同居を選ぶぐらいだから――)


(クソ男にしては、いやこれをハッキリ言えるのがこの男!! はー、お嬢様も流石にこうもストレートに言われたら……さぁチャンスですよ復縁チャンス!!)


 メイド見守られ、元恋人が返答を待っている中。

 シャロンはとても激しく動揺していて、然もあらん、それは五郎が己に未練があると言っているようなもので。

 イエスと答えたら復縁がほぼ確定だろう、だが。


(言えるわけッ、ありませんわ!! 私達はそうして間違ったから、だから――)


 今でも明確に思い出せる、高校卒業を目前としたあの日。

 夕日が射し込む教室で、五郎は言ってくれた。


『一緒に逃げようシャロン、僕と君の親の手が届かない所へ一緒に逃げて、二人っきりで暮らそう? …………君の悲しい涙も喜びの涙も、僕だけのモノにしたい』


 それは、シャロンが誘導した結果だった。

 家族からの愛に押しつぶされそうになって、憔悴しきった弱々しい姿で彼に縋った、求めた、決断させた。

 執着するように髪へ伸ばされた手が、何より嬉しくて。


「――――おほほっ、私達ってば穏当に別れましたわよね。それが物語ってると思いませんか五郎? ……未練なんて、ちぃっともありませんわ」


「そう、ならよかった。僕も君に未練なんてない、ごめんね、ちょっと確かめたかっただけなんだ」


(これは……もしや今が割ってはいる時だったのでは??)


(お強くなってお嬢様――じゃっ! ないっ!? 今のは阻止する所だったああああああああああ!!)


 二人が頭を抱えそうになる中、五郎は平然とした顔をしながらも自分自身に関心していた。

 よくもまあ、未練なんてないと言えたものだと。


(未練ないって言ったのシャロン!? ウッソだろマジで!? うわあああああああああああああああああああああああああああ!! 何で聞いたんだよ僕は!! というかさぁ!! だーれが未練ないって?? そうだよ今気づいたよ!! ――――未練バリバリじゃないか僕は!!)


 一方でシャロンもまた、餃子を食べながら心の中で悶絶しており。


(おほっ、おほほほほほっ、終わった……終わってしまいましたわぁ~~~~!! 私・ジ・エンド!! もうこれ復縁ムリですわ!! まぁこのまま復縁しても独占欲でおかしくなるだけですけも!! 何が未練はないですか!! 私が未練タラタラでしてよ~~!! 今まで敢えて言葉にしなかったのに!! 気づかないフリなんてもう出来ないじゃないですか!!)


 こうなればもう、呑むしかない。

 二人は同時に缶ビールの手を伸ばすと、ぐいぐいと飲み干していき。

 飲み終えた途端に投げ捨て、新しい缶を手に取る。


「うっしゃおら今日は呑みますわよおおおおおおおおおおおおおッ!!」


「お、今日はいちゃう気だねシャロン! よーし僕も負けないよ!! いやっほう!!」


「お、おい五郎!? 正気に戻れ!?」


「お嬢様しっかり!? そんな下品な呑み方――ではなくッ、節度! そう節度ですお嬢様!?」


 結果だけ言えば、五郎とシャロンのやけ酒を止める事などできず。

 夕方になり、狂夜と絵馬は二人を煎餅布団の上へ誘導する事に成功して。

 後は野となれ山となれと投げだし帰宅、残るは当然、元恋人達で。


「はぅあ!! いい事を思いついたよシャロン!!」


「ほうほう、お聞かせなさい五郎!!」


「添い寝~~、将来さ、結婚した時に旦那さんと一緒に寝る時が来るだろう? だから――僕と一緒に添い寝しよう!!」


「んん~~、昨日も添い寝しませんでしたか? ま、いっか! 今日も一緒に寝ますわよぉ!!」


 そうして二人は、恋人だった時と同じように仲睦まじく布団の中に入り秒で爆睡。

 朝までそのまま、と思いきや。

 夜半、布団の中からもそもそと。


「ぅぁ~~~~、のど、かわいた……」


 シャロンを起こさないように、起きた五郎は静かに布団から出て。

 朝はまだ少しだけ遠く、冬である故に寒く。

 こんな時は暖かい何かが飲みたい、だから彼は足音に気をつけながら外に出て。


「よかった、まだ薪は残ってる。――狂夜には後で謝っておかないとなぁ……今回は悪酔いしたっていうか…………いや、マジで、どうして――??」


 再び焚き火を起こしながら、五郎はがっくりと肩を落とす。

 穴があったら入りたい、それぐらいの恥であった気すらする。

 だがしかし、自覚した事はあって。


「認めなくちゃね、自分の気持ちを――」


 ぱちぱちと音をさせ燃えつつある薪を前に、五郎は己の心の整理を始めた。


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