リフォーム5/運命のヒト、みーっけェ!!



「待ちなさいッ!! 待ちなさいったら絵馬!! 待てって言ってんだろコノヤロウですわ!!」


「ですわって付けたらお嬢様言葉になると思わないでくださいね!! ああクソDIY野郎、ちょっと話が――」


「おほほほほほほほほほほ!! シャラップ!! シャラーーップ!! お黙りなさいこの下民がァ!!」


「そうか……絵馬、絵馬さんって言うのか。ふむ、この名前は舌によく馴染む、どうだろう五郎、野宇田絵馬というのは」


「うーん。正直それキモいよ狂夜? どうして君は惚れっぽい上にキショくなるワケ?? そうじゃない時は普通なのに……??」

 

 シャロンと絵馬の追いかけっこは無視して、五郎はマウンテンパーカーがよく似合う背の高い男、野宇田狂夜(のうだ・きょうや)の相手をする事に決めた。

 とはいえ火起こしの途中である、大きく育てよぉと余った木材を順番通りに放り込みながらだが。

 


「ふッ、お前には分からんだろう俺の領域はな。ところでコッチの木は使わんのか?」


「あ、触らないで。針葉樹と広葉樹が判別出来なくなるから」


「そう言えば前に言っていたな、針葉樹が先で十分燃えたら広葉樹を燃やして火を維持する、と……ふっ、お前も手慣れたものだな」


「携帯型ガスコンロを使うとボンベ代が勿体ないし、IHはちょっと手が出ないんだ。ガスを通して貰う資金は貯めてる途中…………という状況を半年ぐらいやってればね?」


「その貯まる前にボロ屋の修理で金が飛んでいくからなぁ…………あ、金出すから今日も飯を食べさせてくれ」


「はいはい、んでそれだけじゃないでしょ? 今日は何の用で来たの?」


 狂夜という男はアウトドアが趣味で、キャンプ場でナンパを繰り返すような迷惑男でもあるが。

 とはいえ強引な事はせず、むしろ反対にナンパした女性に騙されこき使われる哀れなピエロだ。

 そんな彼がこの家を訪ねる時と言えば、悪い女にひっかかって助けを求める時、そして合コンに誘う時であり。


「お前も察しているだろう、――そうだ、合コンだ。今回もキャンプ好き女子で打線を組んだ。数会わせでいい……参加してくれないか? いや答えなくてもいい、奥間さんが居るから今回も不参加だろう?」


「数会わせでしょ? 出てもいいよ」


「ほう? どういった風の吹き回しだ? 珍しいな、だがこれで………………んん??」


「狂夜って優しいよね、何だかんだで差し入れくれるし、コッチを思いやってくれるっていうかさ。今日も僕らの様子を見に来ただけだろ? 合コンは建前ってだけで」


「おい? おいちょっと待て? 今お前何て言った??」


「え? 狂夜が優しいって所?」


 首を傾げる五郎へ狂夜は詰め寄る、今、とても変な事を聞いた。

 アウトドアピエロは自分の耳が、フられ過ぎてとうとうイカレたかと疑い。

 だが、木材を火にくべている五郎と言えば実にあっさりと。


「ああ、合コンに参加するって所か。いやね、シャロンとは別れて親友に戻ったんだ、ま、今まで通り一緒に暮らすんだけどね」


「――――――は? はぁ~~~~~~ッ!! え、お前今つった!?」


「いやだからさ、シャロンとは別れたって」


「………………嘘だろう??」


 信じられないと呟き、狂夜は五郎と走り回るシャロンを二度見して。

 だってそうだ、駆け落ちの手助けをした一人が狂夜で二人の馴れ初めなんて十二分に知っている。

 別れる筈なんて天地がひっくり返ってもあり得ない、だから。


「――――そうか、これは俺の夢、か……」


「よく見て狂夜? 僕は現実だよ??」


「もし現実なら――俺は幽霊を見てるという事になるな。…………ああ、死んじまったのか五郎」


「なんて??」


 あまりな言い方に、五郎としては不思議で仕方がない。

 いったい何がそんなに飲み込めなかったのだろうか、そんな疑問が顔に出ていたのだろう。

 狂夜は涙ぐみながら、重々しく告げた。


「いいか五郎、別れたというのが本当なら……お前はもう死んでいるんだ、すまない、俺はお前の親友なのに――お前を助ける事が出来なかったッ!!」


「なんで僕が死んでるのさ??」


「そうか、きっとその時の記憶は辛すぎて消してしまったんだな。だが――親友を成仏させるのも俺の役目か、ああ、そうなんだな」


「おーい、君ね、変な女に騙されて麻薬とか吸ってない? 大丈夫?」


「大丈夫じゃなかったのはお前だ五郎ッ、ああ、俺には分かるっ、きっと別れ話の時にお前は奥間さんに殺されたんだ、彼女は重い女だからな、――必ずお前の遺体は見つけてやる!!」


「君はシャロンを何だと思ってるワケ!? いや僕らちゃんと平和に別れたからッ、ほらちゃんと生きてるって!!」


 隣に立っている狂夜の手を、五郎は強く握った。

 その暖かみに、感触に、狂夜は目を丸くした後で安堵に胸をなで下ろす。


「……生きてる。生きてるのかお前!! ああ神よッ、五郎は死んでいないのだな!!」


「ちょっ、苦しい狂夜!? 危ないから抱きつくな!!」


「うーん、この、常識的な最近のお前も好きだぜ」


「最近って何? 僕は昔から常識的だよね??」


「は? 冗談はよしてくDIY狂い、お前に常識が出てきたのは奥間さんと付き合い初めてからだ」


「マジで!?」


 目を丸くする五郎に、狂夜は昔を懐かしむ目をした。


「成長したな……、昔のお前は無断で学校の壊れた机をDIYで直すどころか、魔改造で教頭の姿に合体変形させて怒られていたのに」


「確かに担任に怒られた覚えがあるけど、教頭先生とみんなからはバカウケしてくれたよね?」


「笑い取れたら全部許して貰えると思うなよ?? お前そういう所は直せ、頭下げてもう一度告白しろ!! 奥間さんに常識を教えなおして貰え!!」


「ごめんね狂夜、たぶん……常識を教えて貰ったからさ、別れるって事にしたんだよ恐らく」


「なんで疑問系??」


 五郎と会うのは一昨日、大学の講義が最後であったが。

 どうにも妙な方向に関係が動いてしまったようで、狂夜としては心配しかない。


(運命のヒトを見つけたというのに、全部吹き飛んでしまった……、これから大丈夫か五郎? お前は奥間さんをあんなに愛して――)


 とはいえ、だ。

 狂夜から見た奥間シャロンという女性は、改善しつつあったとはいえポンコツメンヘラ女だ。

 料理の腕は認めるが、正直な話、五郎にはもっと趣味のあう他の女性が合うのでは、とも。


「…………なら、そうだな。本当に合コンするか五郎」


「さっきから参加するって言ってるよね?」


「別れたって言ってたな、まぁ付き合うまでには行かずとも。他の女の子とデートの一つや二つ、経験した方がいい、――ヨシッ、セッティングは俺に任せておけ! 好みのタイプとかいるか?」


「あー、そうだねぇ……、胸の大きい子かな?」


 お前も男だな、と言い出す直前で狂夜は止まった。

 何か引っかかる所がある、だから確かめなければならない。


「胸の大きさは置いておいて、その、なんだ? 他にあるか?」


「うーん、髪は染めててもいいけど金髪がいいかな?」


「ほう? ギャル系もオッケーという?」


「いやお嬢様系がいいなぁ……」


「お前それ奥間さんじゃないか??」


 未練バリバリじゃん、なんで別れたんだ? と喉まで出かけるが狂夜は必死に我慢した。

 今それを告げるのは、二人の関係を余計に拗らせるかもしれない。


「成程、考慮しよう。念のために聞くが……髪型はロングか? ドリルが付いていた方がいいか?」


「可能なら、というかそんな子ってシャロン以外にいるの??」


「ま、まぁ俺に任せておけ!! ははっ、ははははっ、他に好みはあるか? 」


「料理上手な子で、そうそう、普段着がジャージの子とか?」


(全部、奥間さんの事ではないか五郎おおおおおおおおおおおおおおおッ!! お前さぁ、そんな未練タラタラなら別れてるんじゃあないッ!!)


 思わず叫びそうになったが、狂夜はググっと我慢した。

 五郎の事はよく知っている、考えもなしに別れた訳ではないだろう。

 対して奥間シャロンとの付き合いは浅い、彼女が別れ話にイエスと同意した理由は想像が難しいが。


(多分……俺には分からない何かがあるんだろうな、二人が心から納得しないとダメな何かが。――なぁ五郎、お前は望まないかもしれないが、……俺はお前と奥間さんと復縁させてみせる! 合コンはその手始めだ! ――奥間さんをサプライズで登場させる、これしかない!!)


 拳を握りしめ、狂夜の瞳は焚き火より強い火でメラメラ燃える。


「そうだ五郎、交換条件って言ったら何だが。絵馬さんも合コンに誘うのに協力してくれよ」


「珍しいね、君が誰か個人を指定するなんて。――もしかして、さっきの一目惚れってマジなの? いつも通り有名人に似てるからとかじゃなくて?」


「分からない、だが……今度ばかりはマジな気がする」


「オッケ、なら協力するよ」


 その時であった、猫騙しでシャロンの隙を突いた絵馬が五郎に駆け寄って。


「よーく聞けクソ五郎ッ、お嬢様はお見合いするから邪魔するなよ!!」


「ちょっと絵馬!? 私はそんなのしないって――」


「丁度よかった、俺らは合コンしようって思っててな。五郎と奥間さんは別れたんだろ? なら邪魔なんてしないよな」


「野宇田さんッ!?」


 瞬間、狂夜と絵馬は目と目で通じ合って。

 どうやら、目的は同じかもしれないと。


「ほう、野宇田さんと仰りますか? ――わたしは仙間絵馬、古くからお嬢様にお仕えするメイドでございます。是非とも握手を、それから連絡先の交換を……」


「はい、喜んで絵馬さん!! 貴女は美しい上に気が合いそうだ!!」


(――――シャロンが、お見合い?)


(五郎が合コンですって!?)


 五郎とシャロンもまた、二人と同じように視線が交わる。

 だがその意味合いは違う、お互いを信じられないと言わんばかりの目で見ていた。


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