拝啓、ノストラダムス様

 それから一週間。

 ボクは会話が成り立たないなりに、ボディランゲージでやり過ごしてきた。だんだんここでの生活にも慣れてきたとはいえ、とはいえ――


「ワレワレハウチュウジンデス」


 と、草原を眺めつつ物思いに耽っていたら、タコさんがボクに話しかけてきた。久しぶりに聞こえてきた日本語に「わあ!」とその言葉の意味合いより驚きが勝る。会いたかったよ日本語。あとから「宇宙人?」と疑問符がついてきた。


「大王様」


 片足? を床につくタコさん。

 後ろを振り向いても誰もいないから、ボクが大王様ということらしい。


「ボクが?」


 答えてくれそうなので確認すると「ハイ」と返ってきた。すごい。タコさんと日本語で会話できている!

 それじゃあ、ここまでの意味不明な言語は、宇宙人同士の会話だったってこと……?


「キミたちは宇宙人で、ボクは大王様」

「ハイ」

「ここはどこ?」


 現在地を聞けば「ドコ……?」と返事に困っている。

 聞き方が悪かったかな。


「ここは地球ではない星なんだね?」

「ハイ!」


 ボクは一週間とちょっと前には地球人だったけど、今は宇宙人の大王様としてここにいる。

 ……おお、急に情報が増えた!


「我々は、地球を侵略し、領地を増やす」


 不穏な単語が入ってくる。


「侵略?」

「この星のエネルギーは乏しい、他の星のエネルギー、ほしい」


 お、おう。

 タコさんがその姿のまま地球に乗り込んだら、もう大騒ぎになるのは容易に想像つく。


「我、地球へ乗り込む。大王様のパワー、必要」


 ボクに惑星間を移動させる力があるのかと、自分の手のひらを見てみる。

 地球にいた頃とそう変わらない。


「タコさんだけで?」


 他の人たちもあれだけ会議しまくっていたし、あの人たちも行くんだろうか。

 この見た目だから、誰が行っても地球では大騒ぎになりそうか。


 ボクはもう慣れちゃったよ。


「ハイ」

「タコさんだけで乗り込むのか……」


 やだな、それ。

 タコさんにはここに来た初日からお世話になっているから、もしタコさんの身に何かあったらと思うと。


 毎日食事を用意してくれているタコさん。

 会議の間に担いで連れて行ってくれるタコさん。


 現時点で唯一日本語による交流ができているからってのもある。


 平和的に。

 地球側からの攻撃を最小限に食い止められる手段。


 ボクは閃いて「こっちからお手紙みたいなのって出せない? テレパシーみたいなのでも」と提案してみる。


 前もってをとっておくべきだよ。

 急にやってきて「地球のエネルギーをよこせ」って言われて「はいどうぞ」とはしてくれない。


「やってみます」

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