第12話 王妃とラミア
王妃の部屋で、ラミアはレイア王妃と向かい合って座っていた。
メイドは二人へ紅茶をだすと逃げるように部屋を出て行ってしまった。王妃と二人っきりになったのは初めてだった。そもそも王妃とラミアは話すらしたことない。すれ違っても王妃はラミアを無視し、目を合わせることもなかった。
「しばらく見ないうちに、美しくなりましたね」
王妃は満面の笑みでラミアへと話しかけてきた。
それが全部偽物であることをラミアは知っている。王妃はラミアに殺意を抱くほど暗い感情を抱き、彼女を殺そうと裏で手をまわしているのだ。
「その銀色の髪に、褐色の肌。本当に、貴女の母親にそっくりですね」
ラミアの母親は奴隷だった。容姿に恵まれ、王に見初められた。
(奴隷の癖に、王様を寝取った憎い女。そして私は憎い女の娘。というのが王妃様の認識なんでしょうね)
綺麗な笑みを作ってラミアも話しかける。
「王妃様には敵いませんよ。いつ見ても美しい」
その言葉に偽りはない。50歳は超えているはずなのに、まるで20代前半のように若々しい。王妃は3人の娘を生んでいる。彼女達母娘が4人並ぶと姉妹にしか見えない。
「ふふふ。これでもワタクシは努力をしているんです」
クスクス笑った後、王妃が紅茶を一口飲んだ。
紅茶を置き、王妃は微笑みながら切り出した。
「何故、ワタクシが貴女を呼び出したのか、疑問に思っていますよね?」
「私を殺すためですか?」
冗談交じりにラミアが返した。
王妃は首を振った。
「いいえ。ワタクシにそんなことできるわけないのです。ワタクシは貴女を今すぐにでも殺したいと思っていますが」
「母が王様を奪ったことを憎んでいるんですよね。だから、王妃様は私も殺したいほど憎いということですか?」
「貴女も、貴女の母も憎んでいませんよ」
王妃が即答した。
ラミアはきょとんとした表情を見せてしまった。
「もともとのシナリオでは、王と結婚するのは、貴女の母親でしたもの。美しい奴隷と王子の恋物語がオリジナル。それを無理やり変えて、王を奪ったのはワタクシの方。本来、憎む権利があるのは、貴女にあるんですよ。ラミア」
「何を言っているのですか?」
「『予言書』を知っていますか?」
「はい。この世界の過去と未来が刻まれた『神の王』が創った『神器』ですよね」
「『予言書』には、貴女の母親が王妃になると刻まれていました。それをワタクシが変えたのです」
「ありえません」
「そうですね。『予言書」の流れは例えるならば、大河。非力な人間では大河の流れに逆らえない。ですが、『予言書』に選ばれた予言者には干渉することが可能なんです。実を言うと、ワタクシの知り合いに予言者の部下がいまして、その知り合いを通して、ワタクシが王妃になるシナリオに書き直していただいたのです」
「どうして、そんなことをしたのですか?」
「ワタクシが生存するための選択肢がそれしかなかったからです。もともとのシナリオでは、ワタクシは貴女の母親に殺される運命にありました。生き残るためには、ワタクシが王妃になるというシナリオ以外なかったそうです。それでまぁ、彼女から全てを奪って、めでたしと思っていたら、貴女が生まれた。どうやら今度は、ワタクシは貴女に殺されるシナリオに流れつつあることを知りました。ですから、ワタクシは貴女を殺すシナリオを作ってもらうことにしました」
王妃は優しい表情で笑いかける。
「ワタクシが貴女を殺したい理由も、ワタクシが生き残るためなんです」と王妃は歪んだ笑みを浮かべながら告げた。
ラミアは言葉が出てこなかった。
「ごめんなさいね。貴女はワタクシを恨んでくださいね。貴女の本来の居場所を奪っているのは、ワタクシとワタクシの娘たちだもの。一生懸命、抵抗して頂戴な。でも、シナリオは人間の力では、どう足掻いても変えられません。前回みたいに、神の『化身』が貴女を助けてくれれば別ですが」
「そのことを話すために、私を呼んだのですか?」
「この話をしたのは気まぐれです。貴女を呼んだのは、単純に「ワタクシが貴女と話をすること」が『予言書』のシナリオにあったからです。きちんと台本通りにやらなければ望んだシナリオには辿り着けないことはよく知っていますから。ちなみに、今すぐ貴女を殺さないのも、「シナリオにはないから」です」
「……」
「あら、こんなに長く貴女とお喋りするつもりなんてなかったのに。ワタクシたちはシナリオ通りイベントをこなしました。貴女は戻ってくださいな。早くしないと、貴女の奴隷がイベントで命を落とす時間になってしまいますよ」
即座にラミアは立ち上がり、部屋を出ていく。
「今日のイベントは、3つ。ワタクシとラミアの面談と、ゴルゴーンとラミアの奴隷の決闘。そしてラミアの奴隷の死。可哀想に、ラミアはまた独りぼっちになるのね」
楽し気に嘯きながら、王妃は窓の外へと視線を向けた。
どこからか、小さな青い光の粒が舞い上がっているのに王妃は気付いた。
(こんなことシナリオにありましったけ?)
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