第11話 神の王の使徒
「『神の王の使徒』ってなんですか?」
ゴルゴーンに剣を向けられたまま、ヒルコは訊ねた。
馬鹿にしたような表情でゴルゴーンが言う。
「そんなことも知らないのか? いや、君は奴隷なのだから教養が無いのは当然か。『神の王の使徒』は神の王の『神器』を与えられた者達だ。彼等は神の王がお創りになった神聖な『予言書』を遵守し、その『結末』を実現させる役目を担っている」
『予言書』とは世界の運命の全てを記した書物。そこには世界の始まりから、世界の終わりが記されている。世界の終わりのシナリオは人が救済される『結末』で締めくくられる。『神の王の使徒』が欲するのは、『予言書』の『結末』である。
『神の王の使徒』達が『予言書』を遵守するために活動した結果、今を生きる人間を窮地から救う逸話はいくつもある。無償で人を助ける『神の王の使徒』は、吟遊詩人に英雄の如く歌われ、人々の憧れの対象だった。
「『神の王の使徒』、『魔鏡』がお前はリビュア王国を搔き乱す悪で、私は悪を裁く正義の者であると断言した。それだけで貴様を斬る理由になるのは常識だろ?」
「俺の祖国の言葉だと、「カルチャーショック」って言葉が近いのでしょうね。やっぱり、異界の常識を理解するのは難しい。「二ホン」の知識や経験だけでは生きていくのは難しいなぁ」
ヒルコはバツの悪そうな顔をして、小さな声で言った。
対峙する二人の周囲に、絵が描かれた紙が舞っている。黒い子供と黄色の髪の子供が剣を構えている。
「シナリオ通りに! シナリオ通りに! ゴルゴーンよ。シナリオ通りに、卑怯な奴隷を討取り、君が主人公になる時が来た。さぁ、斬り殺せ」
真上から男の声が降ってくるのをヒルコは確かに聞いた気がした。
「奴隷は人ではない。人権は無く、ただの物でしかない。私が物を壊したところで誰にも咎められないのよ」
ゴルゴーンは一瞬で間合いを詰めた。剣を上段から振り下ろした。
ヒルコは瞬時に反応し、左腰の剣へと手を伸ばす。真上から迫る剣に対して、斜め左下から右上へと剣を振るった。
キイン。
ゴルゴーンの剣が弾かれ、流された。彼女の上体と剣が地面へと崩れ落ちそうになる。
瞬時にゴルゴーンは態勢を整え、ヒルコの追撃に備えようとした。
しかし、ヒルコはゴルゴーンに対して剣を抜かなかった。そのかわり、剣を鞘にしまい、間合いをとっていた。
「俺は奴隷で、ゴルゴーン王女様からすれば何の権利も持たない、道端の石みたいなものでしょう。ですが俺の祖国では、権利ってのは掴み取るのものだって教えられてきました」
ヒルコが肩をすくめながら言う。
ゴルゴーンはヒルコの一太刀を見て、相手が油断ならない相手であることを確信した。今度は、全身全霊の一撃を放った。
金属音が響く。
ゴルゴーンの剣は受け流される。
「攻撃を受け流すのは俺の唯一の特技なんです」
ヒルコは剣を鞘におさめながらも、ゴルゴーンへと近づいた。
「ねぇ、王女様。奴隷の俺に教えてください。俺も権利ってのが欲しいんですよ。権利ってのはどうやったら手に入りますか?」
どうでもよさそうな口調でヒルコは質問した。
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