第5話 人喰いアレン
アレンは人の肉を食べるのが好きだった。子供の頃から、人間の肉はどんな味がするんだろう?と思っていた。ある日、我慢ができず死んだ奴隷の肉をこっそり食べてみた。美味だった。
それからアレンは月に一度、奴隷を食べることを決めた。奴隷に人権はない。奴隷は物。奴隷は家畜。どのように扱うかは主人であるアレンが決めることだ。
アレンは領地内で堂々とパーティーを開き、人肉料理を愉しんだ。
「さぁ、ラミア様。今日の奴隷は素晴らしい品質のものです。高級な食材を与え、ぶくぶくと太らせ、滅多に手に入らない酒を飲ませたことで気品のある味になっているはず。殺したのもつい先ほどです。生きたまま焼いたのです。ぜひ、ご賞味ください」
「結構です」
きっぱりとラミアが告げた。
目を吊り上げ、ラミアはアレンを睨んだ。
「人を食べるなど、人の行いではありません」
「人? これは奴隷ですよ? 人ではなく、家畜です」
楽しげな様子でアレンが返した。
「同じ言葉を喋り、意思疎通ができるのですよ? それを食べることに何とも思わないのですか?」
「ええ。もちろん、感謝して食べてますよ。他の家畜と同様に」
「話になりません! アレン。帰りますよ」
ラミアがヒルコの手を引き、歩き出そうとする。
「はぁ。分かってねぇなぁ」
苛立ちのこもった声が響いた。
アレンがため息交じりに、ラミアとヒルコを冷たい目で見ていた。それは家畜に向ける目だった。
「全くもって、趣向を理解していない。一次会は私と私の奴隷を食べるのを楽しむ。そんで二次会で、お前達を食べる予定だったのに」
「私達を食べる? そのために私を呼んだのですか?」
「あぁ、そうだよ。一目見た時から、お前は旨そうだなぁって思っていた。どうにかして食べれないかってな。そんで調べてみれば、お前は王家で嫌われている。しかも、奴隷の子。だったら、私からすればお前も奴隷。つまり家畜。だったら食べても良いよね? って王妃様に言ったら二つ返事でOKをもらえたんだよ。むしろお願いします食べてくださいって頼まれたわ」
アレンの言葉を、ラミアは歯を食いしばりながら聞いていた。王妃から嫌われていることは自覚していた。きっと政略結婚のための道具として使い、結婚相手も酷い相手を選んでラミアに嫌がらせをしようと企んでいるとばかり思っていた。殺意を抱かれるほど嫌われているとは思っていなかった。
「そういうことで、ちょっと早いが二次会を始めよう」
アレンの後にいた大勢の男たちが、剣を持って二人に迫る。
ヒルコが剣を抜き、前に出る。
「ヒルコ?」
ラミアが怪訝な様子で声をかける。
「さて、ご主人様。殿は俺が務めるので、とっとと逃げてください」
ヒルコが言った。
「一人じゃ無理よ。一緒に逃げましょう」
「この数から逃げれるわけないじゃないですか。だから、貴女だけでも」
「貴方を置いていくことはできない」
「意外と頭が固いですねぇ」
二人が平行線の話し合いをしている間に、男たちはヒルコ達に迫っていた。
(もう仕方がない。力を少し使おう)
「『邪な言葉を操る神』よ。我が魂に『邪な言葉』を。我が身体に『邪な文字』を張り付け賜え」
一瞬、ヒルコの身体が青く光った。
ヒルコが男たちに向かって飛び出した。一瞬で間合いを詰め、一閃。
ガードしようとした剣を問答無用で吹き飛ばす。
たった一太刀で三人の男が斬られた。
「さて、時間もないので、どんどんいきましょう」
そう言って『邪な文字』の加護によって強化された肉体で、男たちを斬り始めた。
一人、二人、三人と。だが、雑魚ばかりではない。
中には、ヒルコの斬撃を何とか受け止める者もいた。その隙を突かれて、男たちにヒルコは斬られた。ヒルコの背中から血が噴き出す。
「いって」
ヒルコが蹲った。
(強化して回復力も上がっている。けど、すぐには動けないぞ)
恐る恐る男たちがヒルコに止めを刺そうと集まってくる。
「止めて!」
ラミアの叫び声が響いた。
「ヒルコを傷つけるのはもう止めて。もともと私を食べることが目的だったんでしょ? だったら良いわ。私が食材になる。だから、ヒルコだけは助けてあげて」
懇願するようにラミアがアレンに言う。
アレンは口を吊り上げ、嗤った。
「はん。無理だ。もう私は、その奴隷を気に入っちまった。すげぇ強いな。どんな味がするんだろうって心が奪われちまった。だから、お前ら二人は仲良く食べられろ」
アレンの言葉を聞き、ラミアの元へ男たちがやって来る。
ラミアは呆気なく捕まり、ヒルコのもとまで連れてこられた。
「ヒルコ。ごめんなさい。馬鹿な主人でごめんなさい」
「貴方が死にたがっているのは、何となく分かっていた」
蹲るヒルコが声を発した。
「八方塞がりの状況で、半ば自棄になっていることも。危険かもしれない場所に俺を連れていくことに罪悪感を持っていることも。でも、まぁ、最初に『命を懸けて護る』と約束し、外に出ることを決めたのは俺だ。そんなに気にする必要はない、ですよ」
奴隷の少年が顔を上げる。その表情は痛々しい。だが、その瞳にはとても強い意思が垣間見えた。
「さて、邪な神の《化身アヴァターラ》だけど、神様の真似事でもやってみようかな」
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