罰の告白

 放課後。俺は覚悟を決めて、校門に向かう。

優希ちゃんの疑惑に、終止符を打つためだ。


昨日と今日の朝は、外部の影響で中断されたが今回はそうならない。

ズルズル引きずるのも気分が悪いし、決着をつけてやるぞ。



 校門に着いたところ、美咲と優希ちゃんは俺を待っていた。


「…あ、お兄ちゃん。やっと来てくれた」

美咲は嬉しそうだ。


「お兄さん遅~い。逃げたかと思いましたよ」


「校門を通らずに、どうやって逃げるんだ?」

ずっと校内で過ごせってか?


「えへへ。そうでした」

照れ笑いをする優希ちゃん。


君のほうがドジっ子なんじゃないの?


「篠原さん。俺と別れてから、美咲から何か訊いたか?」

俺が言わなくても、美咲が既に説明した可能性がある。


「訊いてないですよ。あたしは、お兄さんから聴きたいんです。…ていうか、みさちゃんに説明を押し付ける気だったんですか?」


ジト目をする優希ちゃん。


「…お兄ちゃん。そうなの?」

美咲までもジト目に…。


「違うって! 2人は友達だし、話す機会があるって思っただけだ!」


「…そういうことにしときますか」


優希ちゃんの態度に納得できないが、仕方ないか。



 「さて、お兄さんがみさちゃんの部屋に入った理由。教えてください」

優希ちゃんが俺を観る。


「美咲。罰のこと、話して良いか?」

ごまかせる自信がないし、いつ矛盾点が出るかわからん。


なら、正直に話したほうが楽なはずだ。


「お兄ちゃんが良いなら…」

よし、美咲の許可をもらったぞ。


「罰って何ですか?」

優希ちゃんは首をかしげる。


「実は俺、母さんから与えられた罰のせいで、いつも美咲の部屋で過ごしてるんだ」


「過ごす? どれぐらい過ごしてるんです?」


「俺が自分の部屋で着替える時と、部屋の私物を美咲の部屋に持ち込んだりしまう時以外ずっとだ」


「…ちょっと待って下さい。それ、みさちゃんの着替えを目の前で観られるって事じゃないですか!」


「優希ちゃん、恥ずかしいから声を抑えて!」

美咲が優希ちゃんをなだめる。


「もちろん俺もそれは気にしたさ。でも美咲がOKしたから、罰は実行されたんだ」


「みさちゃん。本当なの?」


「……うん」

顔を赤くしながら答える美咲。


「あたしは赤の他人だし、家庭の事情に首を突っ込むべきではありませんが、その罰みさちゃんの負担が多すぎません? プライベートがないですよね?」


「母さんは俺と美咲が一緒に過ごすことで、俺の生活態度を矯正させるのが狙いなんだ。美咲だって、それをわかって承諾したんだぞ」


「…なるほど。あたしがバカ兄貴と同室になったら、気が狂いますね。絶対」


やっぱり、同室を歓迎した美咲は特殊なんだな…。


「そういう事情なら、話しにくいですよね~。今なら納得です」

優希ちゃんの顔を観る限り、本心だと…思う。


「俺は常日頃、美咲の部屋にいる。だから美咲の部屋のタンスの角に指をぶつけてもまったくおかしくないんだ。…これなら問題ないよな?」


「そうですね」


よし、優希ちゃんを説得できたぞ。障害はこれでなくなった。



 「しかし、高2と高1の兄妹が同室ですか…。間違いが起こらなければいいんですが…」


血が繋がっていない他人ならともかく、兄妹でその心配は無用だろ。

優希ちゃんが心配する理由がわからん。


「何言ってるの? ありえないだろ。…なぁ、美咲?」


「……」

彼女は何故か黙っている。


「美咲? 何でなにも言ってくれないんだ?」

俺、無視されてるの?


「え…、ゴメンね。考え事してたよ」


考えるような事、話したっけ?


「あたしはモヤモヤがなくなってスッキリしたので帰ります。兄妹仲良くしてくださいね~」


そう言って、俺達から離れる優希ちゃん。俺と美咲の2人きりになった…。



 「ふう。疲れたな…」

つい独り言を言ってしまう。


「そうだね…。優希ちゃんがこんなに興味を持つなんて思わなかったよ」

美咲も疲れた様子を見せる。


「よし、今日はさっさと帰ろうぜ」

部屋に戻ってゆっくりしたい。


「お兄ちゃん。今日は一緒に帰ってくれるの?」

ワクワクした様子の美咲。


「寄り道して遅くなったら、母さんに怒られるかもしれないからな。不安要素はなるべくなくしておきたい」


「そっか…。それでも嬉しいよ」


美咲の笑顔を観た後、俺はゆっくり歩きだす。

彼女も俺の隣に移動するのだった…。

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