妹の友達

 夕食を終え美咲の部屋に戻ってきたら、彼女の携帯に電話がかかってきた。

俺は静かにしないとな。


「もしもし、ゆうきちゃん」

美咲はベッドの上に移動し、電話を続ける。


友達の名は、ゆうきちゃんか。ちゃん付けだから女子だよな?

…って、そんな事はどうでも良いじゃないか。


男子だろうが女子だろうが、俺の存在は絶対にバレてはいけない。

話が面倒になるからな。これぐらいは、容易に想像できる。



 そういえば、宿題をやるために美咲の机を借りたいと思っていたんだ。

本人は電話中だし、許可をもらわなくても問題ないよな。


俺は布団の上にあるカバンから宿題と筆記用具を取り出し、布団から降りようとする。その際、布団と何もない床との段差でよろめいてしまった。


よろめいた時に、美咲のタンスの角に足の指をぶつけてしまう。


「いって~!!」

つい叫んでしまうほどの痛みだ。


普段は、こんな凡ミスしないんだがな…。

静かにしないといけないプレッシャーのせいかもしれない。


「…何でもないよ。気にしないで」

美咲の表情的に、必死にごまかしてる感じだ。


マズイ。俺の声が電話相手のゆうきちゃんに届いてしまった。

高1にもなれば、部屋を兄妹共用で使う事はない。


つまり、俺の声が聞こえる状況は普通とは言い難いのだ。


美咲頼む。うまくごまかしてくれ。まったく知らない人に、俺の罰のことを知られたくない。それは美咲も同じ…はず。


美咲の言っていることは聴こえるが、ゆうきちゃんが言っていることは聴こえない。美咲は罰のことを言わずに、説得しようとしているが…。


「…わかったよ。代わるね」

美咲が意味深なことを言う。


代わるって何だ? 俺に代わるってことで良いんだよな?

意味不明な展開についていけない。


「お兄ちゃん。私の友達のゆうきちゃんが、お兄ちゃんと話したんだって」


「何で?」

ゆうきちゃんには、一切心当たりがない。なので話す理由がないんだが…。


「私の電話を盗聴しようとしたお兄ちゃんに興味を持ったんだって」


「盗聴!?」

何でそんな流れになる? 理解不能だ。


美咲が携帯を俺に差し出す。…仕方ない。俺がまいた種だ。

俺が何とかしないとな。


美咲から携帯を受け取り、ゆうきちゃんと話すことにした。



 「もしもし」

美咲の友達なら年下のはずだが、めちゃくちゃ緊張するぞ…。


「あ、みさちゃんのお兄さんですか?」


アイツ、って呼ばれてるのか?


「そうだが?」


「あたし、みさちゃんの友達の篠原優希しのはらゆうきです」


やっぱり知らない子だ…。


「そうか…。それで、俺に話したいことって何だ?」


「お兄さん。みさちゃんの電話を盗聴しようとしたよね?」


「何でそうなる?」

言いがかりなら、年下相手でもキレるぞ。


「盗聴しようと、部屋の出入り口で聞き耳を立ててたんでしょ? それに気付いたみさちゃんが、お兄さんを懲らしめたんだよ。その痛さでお兄さんは『いって~!!』って言った。… 違いますか?」


理由を聴くと、筋は通っている気がする。だが不正解に変わりない。


「違う! タンスの角に足の指をぶつけたんだよ」


「タンスの角に? お兄さん、みさちゃんの部屋に入るんですか?」


「…たまにな」

今はこう言うしかないと思う。


「そうですか…。ならおかしくないのかな~?」


「ああ。おかしくないだろう」

頼む。これで納得してくれ。


「そうなると…、お兄さんがみさちゃんの部屋に入った理由が気になりますが」


そうなるよな…。だが言い訳が全く思い付かないぞ。どうすれば良い?



 言い訳を考えている中、電話口から『ドンドン』という音が聞こえる。部屋の扉を叩かれているのかな?


「すみません。お母さんの『早くお風呂に入れ』の合図です。そろそろ電話を切らないと…」


「そうか…」

何とかなった感じかな。助かったぞ、優希ちゃんのお母さん。


「あたし、お兄さんに興味を持っちゃいました。詳しくはみさちゃんに連絡するので、後はよろしくです」


「後って何だ?」

言ってる途中で電話が切れたので、携帯を美咲に返す。


「お兄ちゃん。優希ちゃんはなんて?」


「詳しくはお前に連絡するんだってよ。すまんが、後で教えてくれ」


「うん、わかったよ」


バタバタして疲れたが、やっと宿題を始められるぞ…。気を引き締めて頑張ろう。

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