妹との距離が少し縮まる

 妹の美咲の部屋で過ごすことになった俺。当の本人は、風呂に入っていていない。


『風呂上がりの女子はエロい』と相場は決まってるが相手は妹だぞ。

意識しすぎちゃダメだ。いつも通り過ごさないと。



 …扉が開き、風呂上がりの美咲が入ってくる。

予想通り、シャンプーとかの良い匂いがするぜ。


この匂いだけで、メロメロになってもおかしくないな。

妹だから思い留まっているに過ぎない。


美咲は現在俺がいる布団をまたいでから、奥にある学習机の椅子に腰かける。

その後小さい鏡を出して、何か塗り出した。


化粧水とか乳液とか、そういうやつだな…。

遠目で見てるから、何を塗ってるかまではよくわからん。


「お兄ちゃん。どうかした?」

鏡を観ながら塗っている美咲が声をかけてきた。


「いや…、お前もそういうことやるんだなって…」

そういうのは、大人がやるイメージだ。


高1がやるとはねぇ…。


「当然だよ。これぐらいは当たり前」


マジかよ…。女子は大変だな。


「お兄ちゃんは……、やってる訳ないよね」


当たり前を訊いたんだから、そう思われるのは当然だ。


「ああ…」


「やっておいたほうが良いと思うよ。男子だって保湿とかのお手入れしないと、すぐお肌が荒れちゃうって聞いたことあるから」


「そうなのか…」


1歳下の妹に肌のことを教えてもらう俺。ちょっと情けないかも。



 「お兄ちゃんって、いつも部屋で何してるの?」


「突然どうした?」

美咲が俺のプライベートに興味を持つとは意外だ。


「だってお兄ちゃん、ご飯の時以外ずっと部屋に居るんだもん。ご飯中は静かにするようにお母さんに言われているし…。小さい頃みたいに話せなくなっちゃったから、気になってたんだよ」


俺との会話の機会を増やす。美咲が同室を許可したのは、これが理由か?


「今みたいに布団の上に転がりながらタブレットをいじるか、ゲームしたり漫画を読むぐらいだ。…おっと、音楽も聴いているな」


「お兄ちゃんの音楽、私の部屋にも聞こえてたよ」


「マジか!? だったら、遠慮なく言ってくれれば良いのに…」

音漏れしてるとは思わなかった…。


「お兄ちゃんの邪魔をしたくなかったの。それに、困るほど漏れてなかったし」


俺が美咲の立場だったら、文句を言ったと思う。

コイツが俺を気遣っていたとは…。



 化粧水や乳液とかを塗り終わった美咲はタオルで手を拭いた後、本棚にある漫画を手に取り、ベッドの上で読み始める。


…そうだ。漫画のことについて訊いてみようかな?

俺が読んだことある漫画を、彼女も読んでいるからだ。


美咲をチラ見したところ、集中して読んでいる。訊くのはまた今度にしよう。



 「ふわぁ~」

美咲が可愛らしいあくびをする。


「お兄ちゃん。私はもう寝るね」

彼女は漫画を本棚にしまった後、再びベッドの上に戻る。


時間が気になったので、早速チェックする。…まだ21時30分じゃねーか。


夜はこれからだが、俺は美咲に合わせるよう母さんに厳しく言われている。

なので、美咲が寝たいなら俺も寝なければならない。


「わかった。電気消してくれ」


「うん」


部屋は真っ暗になった。全然眠くないし、美咲の部屋にお邪魔している感覚は未だに残っている。…今夜は長くなりそうだぜ。

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