妹の気持ち

 母さんが俺に与えた罰。それは妹の美咲の部屋で過ごすことだった。

アイツ、何で反対しなかったんだ?


理由を訊かないと、到底納得できないぞ。



 美咲の部屋に入る俺。最後に入ったのって、いつだったか…?

可愛らしい物は見当たらなく、俺と同様シンプルな部屋をしている。


そのおかげで、過ごしやすくはあるが…。


「美咲。何で母さんが言った事に反対しなかったんだ?」


「だって、反対する理由がないもん」


「反対する理由が…ない?」

俺がこの部屋に居続けるんだぞ。着替えだって見られるし、電話だって聴こえてしまう。それは、プライバシーが筒抜けになることを意味する。


そんな状況を反対しないとか、あり得ないだろ!


「お前、もしかして母さんに弱みでも握られたか?」

現実的ではないが、0ではないと思う。


「ううん。…お兄ちゃん、疑い過ぎ」

ジト目で俺を観る美咲。


「良いか。俺がここにいれば、お前は着替えを見られてしまうし電話の声も聞こえちゃうんだぞ。本当にわかってるのか?」


真面目で優等生の美咲が見落とすはずはないが、一応伝えておく。


「だから、わかってるって!」

俺がしつこく言ったので、美咲は少しイラつきながら答える。


ここまで言ったんだ。もし他の問題が出ても、俺は知らんからな。



 「俺の部屋から、布団とか持ってくるわ」

美咲にそう伝えた後、彼女の部屋を出る。


布団は、美咲のベッドの横に敷くことになる。


俺も以前はベッドだったんだが、寝相が悪くて落ちたことがあるので、それ以降は布団になった。あとはタブレット・充電器・ヘッドホンあたりを持ってこよう。


俺は布団を持って、美咲の部屋に戻る。


「狭くなって悪いが、敷かせてもらうぞ」


「うん」


許可をもらったので敷く。…床の空いてるスペースがほぼなくなってしまった。

学習机付近のスペースは空いているので、勉強の邪魔はしないだろう。


「やっぱり狭くなっちまったな。通る時、踏んでも良いからな」


「わかったよ」


美咲に迷惑をかけるんだ。これぐらい許さないと。


その後再び自分の部屋に戻り、タブレット・充電器・ヘッドホンを布団の上に放り投げる。その時に携帯がないことを思い出し、再度戻る俺。


自分の部屋と美咲の部屋の往復が面倒だぜ。隣同士だから遠くはないんだがな。



 美咲は学習机で勉強中、俺は布団の上に転がってタブレットをいじっている時に扉をノックされる。…母さん、何の用だ?


「2人とも、夕飯できたわよ」


気付けばそんな時間になっていたか。バタバタしてたから、忘れていたぞ。


学習机は部屋の奥にあり、ベッドと布団は中央付近に存在している。

そうなると、俺が先に出ないと美咲が出にくい。


少し面倒だが早々に体を起こし、彼女の部屋を出る。



 夕食を済ませ、美咲の部屋に戻ってきた。まだお邪魔している感覚が残っている。この感覚を消さないと、今日は寝られそうにないぞ…。


「お兄ちゃん。今日ご飯おかわりしてたね」


「ああ、腹減ってな。布団とか必要な物を持ってくるのに、体力使っちまった」

普段しない事って、単純であっても意外に疲れるよな。


「そっか」

微笑む美咲。


アイツ、細かいとこ観てるんだな…。



 風呂に入る時間になったし、入るとするか。


風呂の順番は、最初は俺で2番目は美咲になり、最後に母さんだ。

父さんは単身赴任中なので、家にいない。


俺が最初の理由はただ1つ。さっさと風呂に入れ、という意味だ。

この件も母さんに怒られたことがある。


だったら2人が先に入れば良いはずだが、母さんの怖い雰囲気に圧倒されたので言い出せなかった。脱いだ下着を見られたくない、と解釈したが…。



 風呂から出た俺は、美咲の部屋に入る。

彼女はベッドの上で何かを読んでいた。


…表紙をチェックしたところ、漫画のようだ。

あれ? その漫画、有名なやつじゃん!


美咲にそんな趣味があるとは知らなかったぞ…。


「次は私だね」

漫画を本棚に戻した後、着替えを持って部屋を出る美咲。


…ちょっと待て。この部屋に居るって事は、風呂上がりの美咲が入ってくるよな。

相手は妹だ。意識しすぎるのは変だよな。


俺は何とか煩悩を振り払い、音楽を聴いてリラックスすることにした…。

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