子供扱いしないで

黒川亜美奈

第1話

「はい、もう寝る時間だよ」


後ろから冷たい声が聞こえてくる。


真っ暗な部屋の中、私はベッドの上でスマホをいじり続けた。


足音が近づいてきて、ついにスマホが没収される。


「ちょっと待ってよ」


スマホの画面に照らされた彼の顔は明らかに怒ってる。


「はい、じゃあもう寝てね」


180度体の向きを変えて去ろうとする彼の腕を少し強引に掴んだ。



彼の名前は春斗くん。


数ヶ月前に結婚して、今は一緒にマンションに住んでいる。


幸せいっぱいの新婚生活のはずだけど、最近悩みが出来てしまった。



実は私と春斗くんは年の差カップル。


私が18歳で彼が29歳。


そのせいもあってか彼が私を子供扱いしてるような気がするのだ。


今日みたいに夜更かししているときは特に厳しい。


しかも結婚してからキスすらしてくれないから本当に好きでいてくれてるのか心配。




「スマホ返して」


強引に奪おうとしても、身長差と高く上げられた腕のせいで届かない。


「何でもう寝ないの?」


冷たい視線が私を射抜く。私は無視した。


「しかもこんな暗い部屋で目悪くなるよ」


「わかったよ、電気付ければいいんでしょ」


電気を付けようとする手を彼が掴んだ。


「何?」


「今日はもう寝よ」


私は彼を睨みつけた。


「何その顔」


彼は再び冷たい視線を私に向けた。


「何でもないし」


私は不貞腐れたようにベッドに入った。


彼もベッドに入ってきた。


お互いに背を向けて目を閉じる。




「そんな態度しなくてもいいじゃん」


拗ねたように彼が呟いた。


「だって春くん、私の事子供扱いしてるじゃん」


一瞬部屋に沈黙が満ちた。


「子ども扱いなんてしてないから」


「してる」


「してない」


「じゃあ何でいつも私に厳しいの?」


彼が私の方を向いたような気がした。


「それはごめん」


「今日だって、夜更かししようが何しようが私の勝手でしょ」


「それもごめん、でも本当に目悪くなるから。それに早く寝ないといつも朝起きないでしょ」


確かに朝も起きれない時は布団を無理矢理引き剥がされながら起こしてもらっていた。


「そっか」


「それに子供扱いなんてしてないから」


「私と年齢が離れてるから女として見れないんでしょ」


「だったら結婚してないだろ」


「嘘つき」


お互いに黙り込み、ついには外で走る車の音だけになった。




突然後ろから抱きしめられて、心臓が飛び出そうになった。


彼の手が私の顎を掴んで顔の向きを変えられると、少し強引に口付けられた。


「これでも子供扱いしてると思う?」


うなじに吐息がかかってくすぐったい。


「知らない」


あまりに突然の事で、つい冷たく返してしまった。


「嫌だった?」


激しく鼓動が高鳴る。


「嫌だったら結婚なんてしてないから」


私は彼の方を向くとそっと彼の唇を奪った。


恥ずかしくてベッドの端に逃げようとしたけど遅かった。


気づけば正面から彼に抱きしめられていた。


「こんなんでドキドキしてるなんてまだまだ子供だね」


彼が意地悪に微笑む。


逃げようとしても大きな彼の腕からは逃げられない。


「香菜の事、ちゃんと1人の女性として見てるから」


私は嬉しくなって彼の胸に顔を埋めた。


「こんなんでドキドキしてたらこれから心臓壊れちゃうかもよ」


「大好き、壊してよ」


一瞬彼は驚いたような顔をした。


「俺も大好き」


耳元で囁かれたせいで心臓が暴れ出す。


私達は見つめ合うと何度も口付けを交わして甘くて溶けるような夜を過ごすのだった。



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