第5話 恋のライバルの鉢合わせ
***裕星のマンション***
裕星は本来なら一切見ることも無いネットの週刊誌の記事を読んでいた。
そこには、例の女性と裕星が出会った経路から今に至るまで、誰が二人のやり時を、どこでどうやって見ていたのかと思う稚拙(ちせつ)な妄想を
「なんだって? 俺が昔、お忍びで合コンに行ってお持ち帰りしたモデル美女? 今は俺のマンションに半同棲だと? はぁ~! 合コンなんて一度もしたことないし、なんなら、ここに来て、そいつがここにいるか探してみたらいいんだ!」
裕星はパソコンをバタンと閉じた。
すると、その時ケータイにタイミングよく電話が入った。浅加からだった。
<裕星、例の映画の主演が決まったぞ。明後日10時に宝映の事務所に行ってくれ。監督は……、こりゃ外人か? ヴァレンティノ? まあ、いい。
タイトルは『Better Half(ベターハーフ) 魂の片割れ』だそうだ。ま、ラブストーリーだな。ん? ありゃ、これは……>
「なんですか?」
<裕星、こりゃ、仕組まれたな。そういうことだったか……>
「何なんですか、ハッキリ言ってください」
<あの記事の熱愛相手のモデル覚えてるか?
「なんだって? あのガセの相手が俺の相手役なんですか? それじゃ、むしろガセの被害者同士でお互いやりづらくなる」
<普通はそうだな。しかし、女の事務所側がわざと出したガセならどうだ? このモデルはまだペーペーで無名だ。世間に一気に知名度を上げるには、お前との熱愛がもってこいだ。
それにそのお蔭で映画が売れれば、もっと知名度は上がり、彼女は短期間にトップスターの座にのし上がれる。
それにしても、俺もこの世界が長いが、こういうやり方は初めてだ。このモデル、いや今は女優か、事務所は大手じゃないようだからな。だからこれは大々的な博打(とばく)に出たとしか思えんな。
このヒロイン役も相当な金をつぎ込んで
「俺がこの映画の主演になったのを純粋に喜べないですね。なんだか不純な匂いがプンプンする。一気に気が重くなってきた」
<ん? ちょっと、待てよ、今、秘書の大沢が追加のキャストを持ってきたんだが……なんだこれは!>
「なんですか」
<裕星、驚くなよ……美羽さんだ>
「え? どうして美羽が映画に?」
<一般からオーディションで選出したと書いてあるが、美羽さんがオーディションなんかに行くわけがないからな。たぶん無理やり
「そんな……このキャスティングだと、あの記事は映画会社が仕掛けたんですか? それとも、やっぱりあの女の事務所なのか……もう何が何だか分からなくなった」
<まあ、どっちにしろ美羽さんが出ることは決まったようだ。二人の仲を知られないようにしないと、もっとややこしいことになるぞ>
「わかってますよ。週刊誌のもう一つのやり口は、どっかの女を
<よくわかってるじゃないか。まあ何度もやられてるうちに、こっちにも事前対策が出来てきた訳だな>
「喜べないですけどね。ファンにとってはどんなスキャンダルも一大事だと騒ぐだろうから」
裕星は電話を切ると、明後日映画のキャスト顔合わせで会うはずの美羽に電話を入れた。
しかし、どうもつながらない。ケータイの電源が入っていないというアナウンスが流れるばかりだった。
「まあ、いいか、明後日の仕事の事は美羽は分かってるだろうし、俺が来週の予定を書いたメールは届いているはずだからな」
裕星はもう一度メールに書いた『来週14日、11時、恵比寿ガーデンプレイスタワー39階のレストランの個室で』という文字を再確認しておいた。
よし、と裕星は一人
***二日後、映画撮影所にて***
宝映の《ほうえい》撮影所にて初顔合わせが行われた。
「こちらが監督のロベルト・
あ、ちなみにジャストインフォですが、監督は実はあのバレンタインデーで有名なヴァレンティノさんの子孫です。史実ではヴァレンティノさんは司祭なので妻子はいなかったのですが、彼の兄弟の子孫は続いていたそうです。(※)
僕はキャスティングディレクターの
まず、映画のタイトルは『Better Half 魂の片割れ』で主役の
キャスティングディレクターの東が役名と役者名を紹介していき、それぞれ役者達が軽く頭を下げて挨拶をしていくと、やっと最後に美羽の名前が呼ばれた。
「最後は主人公の悟が通うカフェの店員、理香役の天音美羽さんです」
「よ、よろしくお願いします!」
美羽が元気よく立ち上がって頭を下げた。
すると、周りからクスクスと小さな笑い声が漏れたが、
監督が映画のあらすじや役柄について説明をしている間、美羽は長テーブルの向こう端から裕星を見つめていたが、裕星はまったく美羽の方へ視線を返すことも無く監督の話を聞いているようだった。
しかし、あの熱愛記事の相手として書かれていたヒロインの高瀬は、ちゃっかり裕星の隣に座り、時折監督のジョークに笑いながらも裕星の方を何度もチラチラと見ていたが、当の裕星の方は美羽からの視線同様、高瀬の視線にも応えることはなかった。
(※)あくまでもストーリー上の設定であり、史実とは関係ないフィクションですのでご了承くださいませ
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