第4話 女優に抜擢された天使
「はあぁ、何がお揃いだ! 俺はこんなやつとお揃いなんてしてないぞ。ケータイが同じ機種だからだと? こんなの人気の機種だから不特定多数がもってるやつだろ。よく考えたら分かるだろうが! バカかっ! 付き合ってられんわ」
独り言が大きくなり、裕星はこれ以上はテレビを観ていられないというように、ぶちっと電源を切ってリモコンをベッドの上に放り投げた。
裕星はシャワーを浴びると、シャツとジーンズを無造作に
「あ、もしもし、俺です。今観ました。何ですか、あれは? 今度はこれにどう対処するんですか? まったくのイカサマガセなのに」
<やっぱりか。俺は、お前が血迷って浮気心が湧いて若い女に手をだしたのかと思ったよ>
「冗談も休み休み言ってください! 俺が他の女には全く関心がないのは分かるでしょ? どうやって美羽を守れるかと、それだけをいつも考えてるのに」
<ああ、それはよく知ってる。分かった、真実でないなら、こっちもまたスルーでいくしかないな。あいつら、いつまでこんな不毛の記事ばかり書きやがるんだ! しかし、こんな
「もういいですか? 今日は俺、ちょっと買い物に行きたいんで……」
<ああ、構わんが、気を付けろよ、その辺に記者や記事を信じた奴らがゴロゴロいるぞ。お前を見つけて取り囲んでくるかもしれないからな>
大丈夫ですよ、と裕星はフンと鼻を鳴らして電話を切った。
しかし、裕星の考えは甘かった。そう後悔したのはすでに街に出た後だった。
裕星が行きつけのブランド店に行くと、すでにそこには大勢の記者が待ち構えていた。一体どこで調べて来るのか、
車の中から、店の前の様子に気付いて、裕星はそのまま止まらずに通り過ぎることにした。
――くそ、せっかく美羽へのプレゼントを買おうと思ったのに。
今度は別の店に向かって車を走らせた。そこは地下駐車場を持っており、普段の買い物客からは見られない高級店だ。
裕星がスイと地下駐車場に滑り込んで店の駐車スペースに停め、サングラスを掛けてエレベーターに乗り地上3階へと上って行くと、途中1階で一旦エレベーターが止まり扉が開いたので、裕星はエレベーターのパネルの陰に身を寄せて隠れた。
しかし、扉が開いてチラリを見えた正面扉には、大勢のファンと共に記者達が待ち構えていた。
なぜそうだと分かったのかというと、そこで待っている人達の数名が手にしていたのは、裕星の記事をトップに出してる週刊誌だったからだ。
――こいつら、俺のスケジュールや行き先をここまで把握してるとは……。
裕星は急いで扉を閉じると、地下のボタンを押し直して3階のボタンを消した。
――ここももうだめだな。しかし、どれだけ俺のことを信じられない奴らがいるんだ?
今日はもう一日家に
裕星は駐車場で車に乗り込むなり、収穫なくまたマンションへと戻ったのだった。
***美羽の大学寮***
美羽は裕星に電話を入れていた。しかし、また裕星に繋がる前にいつものアナウンスが流れるだけだった。
「もう、裕くんはどうしちゃったのかしら? さっきは繋がったのに」
するとその時、ドアがノックされ外でシスター伊藤の声がした。
「美羽、事務室の方に電話が入ってますよ」
「裕くんかしら?」
美羽は急いで階下にある事務室へ走った。
「美羽、廊下は走らないように! ほら、気を付けなさい」
シスター伊藤の声も耳には届かなかった。
「はい、もしもし、お電話代わりました。裕く……?」
<もしもし、天音美羽さんですか? 私は宝映のディレクターをしています
天音さんが以前テレビにお出になっていたことを存じております。監督が、役のイメージにピッタリな方を探しておりまして、天音さんのお名前が挙がったのです。
どうかお引き受け願えませんでしょうか?>
「あの、でも私は学生で、女優でもないですし……」
<もちろん存じております。しかし、前回出演された『独身貴族』の
「え? 裕星さんも出演するんですか?」
<はい、彼を主演に抜擢しております。ヒロイン役は別の方なのですが、天音さんの役は脇役の中でもとても重要な役なのです>
「でも、父に相談しなければ……」
<はい、実は先程、天音神父さまには承諾をいただいておりまして……どうでしょうか? 後は天音さんのご判断だけなのです>
え? と振り向くと、シスター伊藤が美羽に人差し指と親指を丸めオッケーサインを出して歯を見せて笑っている。
「シスターっ!」美羽が小声で叫んだ。
「せっかくですから、お引き受けなさいな。神父さまも承諾されましたし、それに海原さんも出られると聞きましたよ」とまだニコニコしている。
<……あのお、それではお引き受けしてくださるということで、よろしいですかね?>
東の明るい声が電話の向こうから聞こえた。
「は、はい……分かりました」
美羽が小さい声で言うと、<良かった〜! ありがとうございます!
それでは早速ですが、明後日、事務所で待っております>と電話が切れた。
「映画なんて、どうしよう。私、何もお芝居のこと分からないのに……」
美羽が電話を切ってからオロオロしていると、シスター伊藤が美羽の側に来て言った。
「美羽、人生は何でも挑戦ですよ! 普通の大学生でも女優をしたっていいじゃないの! 私が若かったら、代わりにやりたいくらいだわ」とからかうように笑っている。
「シスター……」
この時の美羽は、この映画撮影が人生にどれほど大きな衝撃をもたらすかまだ予想だにしていなかった。
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