08話

「諒平、寒いのに外でなにをやっているのさ」

「月を見ていたんだ」

「えぇ、そんなの明日でもいいじゃん」


 いやぁ、クリスマスの夜に静かに月を見るというのもいいだろう。

 なんかしんみりとした気持ちになる、当日にではないが色々と形が変わるのも面白い。


「なあ、月が奇麗ですねでなんで告白になるんだ?」

「奇麗って言っているからじゃない?」

「だったら〇〇さんは奇麗ですねでいいだろ」

「まあまあ、それより隣に座らせてもらうね」


 敢えて女子組とじゃなくて野郎と過ごしてどうするんだよ。

 屋内にいれば暖かいうえになにかを食べつつ仲を深めることができるというのにこれだ、逆張り精神なのだろうか? 天邪鬼なのだろうか?


「誘ってもらえて嬉しかった」

「プレゼント交換会なんてものはないがな」

「いいんだよそんなの、諒平達と一緒にいられればそれでね」


 つか今年も当たり前のように他の誰かと過ごせてよかったと言える。

 彼は正直、自力で作れた友達というわけじゃないが女子組二人だけじゃないというのも大きい。


「ちょっと寝転んでいた柚を連れてくるね」

「寝かせておいてやれ、あれだけ食べれば眠たくもなる」


 購入してきたご飯の八割を柚が食べたからそりゃそうなるよなという話だ、あと仮に眠たくなくても動きたくなくなるだろう。


「じゃあ読書をしていた吉原先輩を連れてくるね」

「気にするな」

「むぅ、せっかく僕が空気を読んで協力してあげようとしているのに」

「そういう意味で誘ったわけじゃないからな」

「だけど我慢できないから連れてくるっ」


 と言って戻った割には出てきたのは柚だけだった。

 はは、寒くて耐えられなかったのか、屋内の温度に合わせて薄着だったからそれも仕方がないのかもな。


「ねえ見て、お腹がぱんぱんなんだよ」

「食べすぎだな、体重計には二日ぐらい乗らない方がいいぞ」

「ははは、そもそもこういうときは乗らないから大丈夫だよ、現実逃避が得意なんだよね私」

「それは嘘だな、なにか嫌なことがあっても逃げずに頑張ってきただろ、だから俺もこう……さ」


 あれか、思春期だったからとにかく異性に触れたかったってだけか。

 あのときの俺死んでくれとか言ってもなにも変わらないからやめておこう。


「諒平君にそうしてもらいたくてしていたわけじゃないけどね、いやほら、逃げても問題が解決するわけじゃないからさ」

「そりゃそうだろ、俺のそれを求めて頑張っていたら怖いよ」

「ま、完全になかったわけでもないけどね。さてと、凄く寒いからそろそろ中に戻るよ、諒平君も――ふふ、後は二人でごゆっくりー」


 珍しい、読書をやめてまで出てくるなんてな。

 彼女はなにも言わずに横に座って顔を上げた、俺もなんとなくそっちに意識を向けると「月が奇麗ね」と呟くようにして吐いた。


「満月だったらよかったのにな、そうすりゃもっと迫力を感じられるだろ」

「これでも十分よ」

「ちょっと歩くか、付き合ってくれ」

「ええ」


 都会というわけでも家の近くにはりきっている家や店があるというわけじゃないからきらきらはしていなかった、それどころかこうして夜道を歩いていると今日がイブとはいえクリスマスだということを忘れてしまいそうなレベルだ。


「寒くないか?」

「少し寒いわ、さっきまで暖かい場所にいたから余計に気になるの」

「ちゃんと着させてからにすればよかったな、悪い」


 なにをどうやってもイケメンになることもイケメンムーブをすることも不可能だということが分かった日となる。


「気にしなくていいわよ、だけどなんで一人でいたの?」

「別になにも理由はない、こうして夕貴と歩いているのも同じだ」

「だったらこうして敢えて外に出てきた理由を作るわ」

「ん? お、おいおい、なんか攻撃でも仕掛けてくるつもりか?」


 物理的に倒されるんじゃないかとひやひやする、だって明らかにポーズが攻撃を仕掛けようとしているそれだからだ。

 屋内で、それこそ部屋なんかで押し倒されるならまだいいが……。


「そうよ? だからあなたは固まっていなさい」

「なんだよその発言、あと抱きしめられたって固まらないぞ」

「柚ちゃんじゃないから?」

「違うよ、なんか耐性があるんだ」


 あと外でなにをしてんだ家でやれよという常識が働くからだろうか。

 でも、乙女の彼女からしたら俺の反応は最悪だと思う、だからそのまま流したりはしない。


「俺だからするんだよな?」

「当たり前じゃない、複数の男の子に対してするのだと考えられているのなら流石に怒るわよ」

「でも、この前俺が好きなのかと聞いたとき話を逸らしたよな?」


 確かに腹を満たすのは大切かもしれないが少なくとも答えてからにするべきだ、そうすれば俺だって今日こんな対応をしなかった。

 四人で集まるという約束をしていたから露骨にはできなかったものの、流石に夕貴を優先していた。


「はぁ、あのまま好きだと言えるなら昔の私が告白をしていたわよ」

「いつからなんだ?」

「中学一年生の……って、なんでこんなことを言わなければならないのよ」

「一年ってやべーだろ、俺らが出会った年じゃねえか」


 って、これは間違いなく嘘だ、だってその割にはそれ関連のことがなさすぎだ。

 好意を完璧に隠せる人間なんかはいない、それこそ柚なんかがよく恋バナというやつをしていたのに彼女は普通だった。

 となると高校一年生、つまり去年に好意を抱いたということだ。

 去年か、バレンタインデーや誕生日、祭りなんかにも一緒に行ってクリスマスも一緒に過ごしたがそれにしたって俺が得したことばかりだからな。

 まあ、柚が学校にいなかったということでいまよりも夕貴といたのはあるが、ただ会話をしただけで好きになってしまうというのは……。


「だってあなたが優先してくれるから、頼めばなんでも受け入れてくれたし……」

「不思議だな、無欲だったのがよかったのか?」

「一日目とか一週間目とか一ヶ月ぐらいの時間でがっついていたら微妙だったけどそうではないなら別に……」

「じゃあ夕貴を攻略するには二ヶ月でいいってことか」

「むかつくわ、本当に倒してしまおうかしら」


 まあまあと落ち着かせてちゃんと意識を向ける。


「ありがとよ」

「……それだけ?」

「いや、求めてもらえて嬉しいよまじで」

「どうだか、それにどうせ柚ちゃんから言われても同じことを吐いていたわよね?」

「まあな、だが実際はそんなことにならなかったんだから意味がないだろ」


 究極的に変な選択をする少女が一人でよかった、それだけしか言えない。

 でも俺は幼馴染の夕貴を守ろうと行動するんじゃないかと考えていたんだがな、実際は違って協力しようとしてくれるだけだった。

 自分のことより大切で大好きな幼馴染が幸せそうならいいというやつか? 好意というやつを早くから本人から聞いて分かっていたからこその行動かもしれない。


「っくしゅ」

「そろそろ戻るか」

「ええ」


 彼女にだけ頑張らせるのは違うということで帰りは手を握ってみたりなんかもしたが違和感しかなかった――あ、彼女とこうすることじゃなくて自分からやっていることについてだ。

 やっぱり俺は求められたら応えるぐらいが丁度いい、告白だって結局相手にさせているわけだからこんなところだけ頑張っても格好がつかない。

 なによりこういうのはばれるだろう、彼女の場合は鋭いから間違いなくそうだ。


「ただいま……って、二人揃って仲良さそうに寝ているな」

「起こさないであげましょう、布団を掛けてあげてちょうだい」

「分かった」


 布団を掛けてこちらも近くの床に寝転がる、暖房が効いているのもあってこれでも寒くはない。

 残念ながら立っていた彼女を誘っても「嫌よ」と断られてしまったが普通のことなのにソファに座ったのを見て安心した。

 精神状態が少しおかしいのかもしれない、それかもしくは浮かれている……というところか。


「って、はは、また読書かよ」

「ふふ、だって途中だったもの」

「夕貴はそれでいい、そのままでいてくれ」


 目を閉じて休もう。

 先程まで寒いところにいたからまじで屋内が幸せ過ぎたのだった。

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