07話

 十二月になった、いやそれだけじゃなくテスト本番がやってきた。

 あの日からは夕貴がすぐに寝るなんてこともなくてちゃんと一緒に勉強ができた、しっかりやっていたおかげで特に不安な点なんかもない。

 早々に解き終わって見直しなんかをしてからいつものように頬杖をついてぼうっとしていた。

 うるさいというわけじゃないが授業中だろうが関係なく喋っている彼ら彼女らが静かな点が気になる、テスト中なんだから当たり前だと言われてもだ。

 あとはテスト中に見られる位置に夕貴がいないというところか、だからいつもの友達云々と盛り上がっているとか分かっているのは俺が意識して見ているってことなんだよな、と。

 友達なら普通か? それとも異性にやるのは異常なのか。


「はい終わりだよー」


 答えが出る前にテストが終わりとなった。

 普段通りのことをやって解散になってからも席に張り付いたままだ。


「お疲れ様」

「そっちもな」


 普段と違ってまだまだ時間がある、外も明るいしいま出れば暖かいだろうが動く気にならない。

 直前のそれが気になっているからじゃなくてテストが終わったということでやる気がなくなっているんだ。


「これで寝なくて済むな」

「うん? あ、ふふ、そうね」

「まあ座れよ、もうちょっとここで過ごしていこうぜ」

「ええ」


 前の席の主はもう出て行ったから問題ない、というか前の主だけじゃなくてほとんどの人間がこの教室から去って行った。

 少し黙っている間にとうとう俺ら以外の全員が出て行き静かになる、前に座った夕貴は窓の方を見てぼうっとしているだけだ。


「俺と夕貴の席って離れているよな、でも、不思議と時間は減っていないんだ」

「私が行っているもの、あなたが来てくれないからそうするしかないわ」


 彼女の周りは女子ばかりだから行きづらい、そのうえでイケメン男子君なんかもいるから駄目なんだ。

 なにもなくても見られただけであ、いいですと逃げる自信しかなかった、だというのに彼女はいてくれている。


「なんでだ?」

「なんでって……友達だからでしょう?」

「そうだよな」

「なによそれ」

「はは、俺は柚や遊歩ってわけじゃないからだよ」


 物理的にはできても精神的には無理だなんだと考えていた自分だがいまは違うような気がした。

 幼馴染というわけじゃないのに、なにもないのにああして甘えてきていたら怖い、鈍感というわけじゃないから流石に分かる。


「なあ夕貴、夕貴は俺のことが好きなのか?」

「もう、今日はどうしたのよ」

「テストが終わって色々と自由になったんだよ」


 なにもないなら別にいいと重ねて黙る、先程の彼女みたいに窓の向こうに意識を向けていた。

 最近はやたらと頑張ってくれている、一瞬でも雨が降るかもなんて考えになることもない。

 風があるのが影響しているのか雲もほとんどないわけで、ちょっとやる気を出し過ぎだろと言いたくなるレベルだった。

 こういうのは反動がきそうでちょっと不安になるときもある、雨も嫌いじゃないし必要なことだとは分かっているが冬に連続して頑張られるのもちょっとな、と。


「お腹が空いたわ、なにか食べに行きましょう」

「行くか、店は夕貴に任せる」

「ええ」


 幼馴染とはいえ後輩である柚には甘えられなかった、というところか。

 まあいい、さっさと腹になにかを入れて適当にのんびりとしよう。

 食後というのは動きたくなくなるからたまには公園なんかに寄って空や他の場所なんかを見て過ごせばいい。

 専業主婦というわけじゃないから母はいないし父もある程度の時間にならないと帰ってこない、だから早く帰っても仕方がないんだ。


「珍しく遊歩達が来ないな、それともこそこそ見てんのか?」


 消えたと思ったら近いところにいるからゼロというわけじゃない。


「テストが終わってやりたいことをやっているのではないかしら」

「俺達のようにか」

「私達のこれはやりたいことではなくて必要なことよ」

「別に抜いても問題はないがな」


 土日なんかは昼ご飯を食べたりはしない、朝ご飯も絶対というわけじゃない。

 一人でいることが嫌な自分でも誘われない限りは無理で寝て過ごしてきた、自分のためだけにいちいち作るというのは面倒くさいんだ。


「決まった? なら注文をするわ」


 こうして一緒にいられているときでも特別拘りはないか、いつも母が作ってくれているから残すのも失礼で食べているという話でしかない。


「で、そろそろ決めてくれたか?」

「え、なんの話?」

「おいおい、なにか買わせてくれって言っただろ? いやまあ嫌ならやめるが」


 自分が決めたことを破った結果がこれだと堪える、このまま頼まれなければ二度と同じようには言わなくなるだろうな。

 それでもこれはこっちの話で彼女には関係ない、だから余計なことを言わずに必要なことだけを言っておけばいい。


「あ、ああ、そっちの話ね、そのことなら忘れていないわよ」

「それしかないだろ。で、急かすのは違うが頼まれないと気になるんだ、嫌ならここで断ってくれないか」

「嫌とかではなくてなにか買ってもらおうとするのは違うのよ、私はあなたになにかを買ってもらいたくて一緒にいるわけではないわ」

「でもよ、世話になっているんだから礼をしたいだろ」


 他の行為では無理だからこういう形で返すしかないんだよ。


「私も一緒じゃない」

「違うよ、上手く言えないが……それは違うだろ」

「違わないわ」


 しゃあねえから先に料理を食べることにした、このタイミングで運んできてくれたことに感謝しかなかった。




「はい、三千円ぐらいまでなら大丈夫だから選んでくれ」

「なんでこういうときだけ積極的なのよ」

「変な遠慮をするからだ、それとそもそもないかもしれないが返そうとか考えるなよな。夕貴がしてきたら俺はまた返せなくなる」


 平日だろうと商業施設ってのは混んでいるんだな、久しぶりに来たから思わずうへぇと言いたくなるぐらいだ。

 でも、なんか学生らしい感じがする、寄り道をするというのもたまにはいい。


「そうねぇ、いま私が欲しい物は……」

「夕貴ちゃん大好きっ」

「僕はそういう意味じゃないけど吉原先輩のこと好きだよ」

「「ん!」」

「え? つかやっぱりいたのかよ」


 俺らが飲食店を利用している間も律儀にどこかで待っていたということなのか? それなら普通に来いよもう。

 二人きりに拘っているわけじゃない、ただ柚にもこの際にと動けるからそう悪いことばかりでもないがな。


「「はあ~!」」

「これまでどこにいたの?」


 この反応的に気づいていたというわけじゃないだろうがもう驚けるようなことじゃないのか彼女も普通に対応をしていた。


「「こそこそ隠れて尾行していましたっ」」

「ふふ、それなら来なさいよ」

「「邪魔をしたくなかったんだけど流石にこうなってくるとちょっとね」」

「私達よりもあなた達の方が怪しいわ、ねえ諒平、あなたもそう思うでしょ?」

「いや、遊歩がはっきり言っていたからそれはないな」


 相手のことを気にしている人間ならどうしたって隠そうとしていても表に出る、だが、彼の場合は……いや、彼らの場合は全く出ていないから本当にないんだ。

 たまに来るが柚だって意識をしているのは彼女のことばかりだからな、ただ友達としているだけだろう。


「あらそうなの? でも、本当のところは分からないじゃない」

「ない、少なくとも遊歩はそうだ」

「「ふーん、遊歩君のことをよく分かっているのね」」

「似ているな二人は。さあ、とりあえずそれより色々見て選んでくれ」

「「分かったわ」」


 二人が見ている間、遊歩と会話をして過ごしていた。

 ただどうしたって女子ってのは見るのが好きで正直、あまり前進しているようには見えない。


「遊歩にもなにか買ってやろうか?」

「なにも買わなくていいからこれからも友達でいてよ、残念ながら同じ学年には柚しか友達がいなくてさー」

「偉そうだがいいぞ」


 残念ながらというかこっちにばかり来ているからだと思う、年上相手にこうしてできるなら同級生の友達を作るぐらい余裕のはずだ。

 でも、おまけであってもそれだけの価値があるということなら嬉しい。


「ありがと。それでなんだけどクリスマス、もちろん吉原先輩を誘うよね?」

「ん? ああ、去年も一緒に過ごしたしな」


 友達という話からどうしてそうなるのかは分からないが俺らは毎年一緒に過ごしているからこちらとしては別の人間と、とはならない。

 唐突に無理になっても寂しいとかそういうこともないものの、できれば一緒に過ごせた方がいい。


「イブは四人で集まるか」


 両親は外に食べに行くからその場合は俺の家だな、いやこれだって毎年そうだからなにか気にしているとかじゃない。


「それって誘ってくれているの?」

「それしかないだろ、ここにいるメンバー以外の友達はいないぞ」


 俺も遊歩と変わらない、同級生の友達は夕貴一人だけだ。

 余裕があるときでも新しい友達が欲しいなんて考えになったことはなかった、意識をしなくても勝手に夕貴や柚が来てくれたからな。


「僕もいていいの?」

「だからいいって、なにを気にしているんだよ」

「嬉しいよ、諒平って――」

「「これがいいわ」」

「じゃあ会計を済ませてくるわ」


 済ませたら二人に渡して……あ、一応礼を言いつつ渡して商業施設をあとにする。

 遊歩のやつがやたらと気にしていたのはこれ関連のことで微妙なことでもあったんだろうかとそっちの方が気になっていた。


「わーい、初めて諒平君に買ってもらえたー」

「初めてということはないでしょう?」

「でも、こういう形では初めてじゃない?」

「ふむ……あ、確かにそうかも」

「でしょ? だから嬉しいなって」


 細かいことはどうでもいい、これで終わりというわけじゃないが礼ができたというだけで満足できた。

 とはいえ金も尽きたから後は家でのんびりとしたい、テストが終わったその日ぐらいはそう焦って遊んだりしなくていい。

 なんて連れてきたのは俺だがな、だってとかでもとか言うからもう連れて行ったろという考えしかなかった。


「遊歩も家に来いよ」

「行くよー」


 それで昼寝をすればいいだろう。

 ちゃんと体や脳を休めておく必要があった。




「は……もう真っ暗だな」


 ポケットにしまったままだったスマホを確認してみると十八時だった、本格的に寝すぎたというやつだ。

 これでは夕貴のことをどうこうと言えない、まあ、向こうはこれぐらいの時間から二十二時まで寝たわけだからレベルが違うか。


「おはよう」

「柚か、あの二人はどうした?」

「夕貴ちゃんはお腹が空いたからということで帰ったよ、朝隅君はなにも言わずに荷物を持って出て行っちゃった」

「そうか」


 喉が渇いたから柚を連れて一階へ、どうやら両親は帰ってきていないみたいだ。

 これぐらいの時間には帰ってきて「ご飯を作るね」なんて言っている母ばかりだったというのにかなり珍しい、事故とかじゃなければいいがせめて連絡なんかはしてもらいたいところだった。


「はい」

「ありがとう」

「だが柚も帰ってよかったんだぞ? あ、でも暗い状態だと危ないか」


 遊歩って遠慮なく連れて行くくせに送るってことはしないんだな。

 というか遠慮しないで起こせよ、なんか変な遠慮をしているよなあいつ。

 俺に云々と考えたが女子に対してもしているから話にならない。


「いや実はさっきまでぐーすか寝ていてね、本当は起きたばかりなんだ」

「そういうことか、じゃあ送るよ」


 あんまり遅くまで家以外の場所にいさせると彼女の父が特に不安になってしまうだろうから避けたい、相手が誰だろうとそっち方向の顔は見たくないんだ。

 それにこれは意識して残っていたわけじゃないみたいだし……って、じゃあなんで夕貴や遊歩が出て行ったことを知っているのか……。


「た、たまには泊まってもいい?」

「なら着替えとかを取りに行かないとな」


 まあいいか、泊まりたいということだから早く移動しよう。

 遅くなれば遅くなる程寒くなるから早めに行動をした方がいい、俺も彼女も寒さ耐性は変わらないからきっと同じだ。


「え!? 夕貴ちゃんがいないのにいいの!?」

「は? ああ、泊まりたければ泊まればいいだろ、不安ならその夕貴を誘ったっていいんだぞ」

「最近の諒平君はなんか凄く変わっちゃったね……」


 どうせそうしない内に帰ってくるから二人きりにならないのがいい。

 これが夕貴と柚で露骨に態度を変えていないという証拠だ、泊まりに行かなくていいならこんなもんだ。

 とりあえず固まったままの柚の腕を掴んで外へ、「積極的ですね」などと馬鹿なことを言っていたがスルーして家の外で待つ。


「あら、起きたのね」

「偶然……じゃないよな」


 ゲーセンとかそういう場所じゃないからそういうところよりは可能性があるがそれにしたってピンポイント過ぎる。


「ええ、だって急に変な話になったから気になって出てきてしまったのよ」

「それよか夕貴はすぐに腹が減る少女になってしまったな」

「最近はそうなのよね、だから体重計に乗るのが怖いわ」

「食べたきゃ食べればいいんだよ。それと柚を呼んできてくれないか、全然出てこないんだ」

「任せて、必ず柚を連れてくるわ」


 今日は冷えるな、だがもうすぐ年も終わるというところまできているんだから当たり前か。

 つか、先程のあれをクリスマスプレゼントということにできないだろうかと情けない自分がいる。

 残念ながらそこまで余裕がないんだ、どかんと大きな買い物をしているわけじゃないのになんでこうなのか。


「待たせちゃってごめん、お風呂に入ってきたんだ」

「そうか、じゃあ早く湯冷めしないように行こうぜ」

「うん」


 でも、家に着くなりすぐに読書を始めた夕貴には呆れた。


「おお、暖かい」

「もっとよくなるから待っていてくれ」

「大丈夫だよ、ありがとっ」


 だがこうして連れてきたのはいいがどうしようか。

 母がいる前提で連れてきているから早く帰ってきてくれないと困る、二人的にも同性の大人がいてくれるというのは大きいはずだ。


「「ただいま……」」


 なんかやたらと弱っている、どちらかの親に誘われたというところか。


「「おかえりなさい」」

「「お、いやでもこれはいいのだろうか……」」

「「え?」」

「「な、なんでもないよ、ちょっと諒平」」


 呼ばれたので付いて行くと二股をかけるのは駄目だとか馬鹿なことを言い始めて呆れた、そんなのじゃなくてもっと平和なやつだ。

 逆にこちらが聞いてみると夕貴の母に捕まってしまったという話だった、あの膝枕をした日から止まらないらしい。

 その娘はこの家に泊まろうとしているのにな。


「ちょっと部屋に行ってくるからあの二人の相手をよろしく」

「「はーい」」


 物理的にも精神的にも疲れているというわけじゃないが今日は珍しく部屋に戻りたいという気持ちが強く出てきた形となる。

 どうせすぐに戻ることになるからと電気も点けずに寝転んでいたら入っていいかと聞かれたからおうと答えたら入ってきた。


「ここだと寒いだろ?」

「ううん、お風呂だけじゃなくてご飯も食べてきたからもう眠たくて」

「それなら一階に布団を敷いてやるよ」

「どうせ夕貴ちゃんはここで寝るんでしょ? 邪魔はしないから私も一緒がいい」

「あ、言っておくがベッドで寝たこととかないからな?」


 本人も求めてこなかった、とにかく変なことをしていないと伝わればいい。


「ふふふ、いちいち言うところが怪しいですなぁ」

「やめろよ、本当にないから勘違いしてくれる……お、おい、なにをしている?」

「んー? ただベッドの上に立っただけだけど」


 電気を点けていなくてよかった、長いスカートというわけじゃないから下手をすれば見えていた。

 まあ、一応違う場所を見ておく、そもそも足が冷えそうで見ていられないのもあったのだ。


「スカートでやるなよ、誘惑でもしたいのか?」

「ううん、他の人のベッドってどうなんだろうって気になっただけ。それとこうして家にいる限りちゃんと協力をするからね」

「いや、普通にゆっくりしてくれ」


 一人でなにもできないというわけじゃない、求めてくれればちゃんと動く。

 こういうことぐらいは誰かに頼らずに頑張らなければならないだろう、しかも女子に協力してもらって女子と仲良くするなんて変だ。


「むぅ、だってそうでもしないとなにも進まないじゃん」

「夕貴だってこの家に来ているんだから違うだろ」

「そっか、連絡をしたのは私だけど確かに嫉妬的なそれもあるよね」

「嫉妬かどうかは知らないが柚が理由であることには変わらないな」

「ははは、そっかそっか、無駄ではなかったということだね」


 というかそういう理由でじゃなくて自分の意志で来てくれよ。

 それ以外の理由では行きたくないように見えて微妙な気分になったのだった。

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