撫でる。

柔軟剤

撫でる。

午後の日だまり。

頭から背中に手を流す。柔かな感触とゴロゴロ鳴く声。

幸せの形ってこれかな、なんて思ったり。へへ。


あのお話がすきだった。小さい頃に読んだ、「すき」に生きたかっこいいねこさんのはなし。

今でも、感じるものは変わったけど、変わらず好きなお話。

あの人もあんな風だったら、なんて思ったり。はぁ。


こいつはいつも気まぐれなくせに、隅っこにいたくなるような気分のときだけすりすり寄ってくるんだ。

なんで似てんだよ。いや、そういうのを好きになるだけか。いい加減にしてほしい。


模試が終わって疲れた放課後、電車の時間あるってのに、珍しく握ってきた手が離せなくて。いつもの教室が何でかキラキラしてて。そのときの西日と。

今、ぽっかりした気持ちをハッキリさせるみたく、一人と一匹だけの部屋に射し込んで照らしてるこの西日と。


だらだらと、考えと時間が流れる。

隣でゴロゴロいいながらゴロゴロしてるやつを撫でながら。

あーあ、いつかこうなるってわかってたのにな。

いや、どこかでそんなはず無いって信じてたのかな。

どれだけ考えても、変わらないものは変わらないんだ。ああ言ったあいつが、私の周りに居場所を作るような未来なんて、ない。でもな、もし────


終わりのこない私の思考に呆れるように、いつの間にか空は暮れなずみ始めていた。こいつももう寝ちゃった。小腹も空いたし、晩ご飯にしよう。

何を食べよっかな。そのあとお風呂に入ったら、ちょっと泣くんだ。


今夜は一緒に寝てくれるかな。きっとそうだよね。

じゃあ、また。

起こさないように、そっと背中を撫でる。



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撫でる。 柔軟剤 @junan-zai

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