第八世界・「ニュー・カマー」

 ────日付は3月11日、時刻は7時30分。外は日差しが眩しいほど快晴である。

 右半身の頭だけとなった『愛・異門獣ツーナイグング・ゲートモンスター』を含めたひとや達は、カフェ『ViViDヴィヴィッド』に寝泊まりしていた。


 カフェには親切にも二階があり、安っぽいが、かなりふかふかなベッドと風呂がついていた。

 そして何よりひとや達に嬉しいのが、朝食付きのところだろう。

 このカフェのオーナーもヴェントットが務めているので、今回はサービスとしてご馳走してくれたのだ。

 フワフワの分厚いトーストは噛めば噛むほど甘みが増し、その甘さは、このカフェ自慢のコーヒーに絶妙にマッチする。

 そんな素晴らしい朝食を一階のホールで終えると、四人は早速東京へ行くべく、そのカフェを後にした……。



 ───そして現在、その東京へ行くため、ヴェントットの車に乗るのだがここで少し問題が発生した。

 その肝心の車が、なんとも凄い高級車なのである。

 赤いボディカラーで、鋭いつり目のようなヘッドライト。滑らかな線を描くボディラインに艶のある光沢が目を惹く。

 ボンネットにある車のロゴは、かの有名な高級車メーカー『レイボルギル二』である。

 見てわかるその高級車がウィーンと、シザーズドア (上にスライドするドア) が開くと、扉の目の前に立っているひとやがヴェントットに言った。


「お、お前…いくら武器ウェポン売って稼いでるからって、これは目立ちすぎじゃないの? 武器ウェポン売ってんだぞ? 裏の人間だぞ? …一応。」


 ヴェントットはガッハッハと大きく笑うと、サングラスを目の下へずらし、ひとやに言った。


「な〜に構うことないさブラザー! 俺が頑張って稼いだ金を、俺がどう使おうと勝手だ〜!!」


 ひとやはそれを聞いて少し呆れた顔をするが、ヴェントットの太陽のような笑顔を見た後、言うことを諦めて乗車した。

 それに続けて時国しぐにも乗るのだが、時国しぐには頭を抱えていた…いや、詳しく言えば自分のでは無く、『右半身のみの生首の彫刻』と化した『愛・異門獣ツーナイグング・ゲートモンスター』を胸に抱えているのだ。

 乗車する席は上から見て右側にひとや左側に時国しぐにである。

 時国しぐには、その生首を抱えながら嫌な顔をする。リアルな彫刻の姿せいで、かなり気味悪く思っていた。

 そう嫌がる顔をツーナイグングは見て、時国しぐにに怒鳴るように言った。



「アンタねぇ!! 人の頭持って嫌な顔って! 失礼だと思わない!? むしろその顔したいのこっちよ!! 左側無いけど!!」



 時国しぐには舌打ちで返事すると、横にある『シートベルト』でツーナイグングをぐるぐる巻きにし、黙らせた。


「何すんn…んーーー!」


 んーんーと何も喋れないツーナイグングは、少し経つと諦めてムスッと黙った。

 そんな時国しぐにひとやに対し、ヴェントットが運転席から後ろを覗きながら二人に言った。

 この車は外国産のようで、運転席が左側である。


「おふたりさん、準備は出来たかね? 出発しようじゃないかー! 私の趣味はDriveドゥライブなんだよ!!」


 ヴェントットはルンルンで鼻歌を歌いながら、キーをセットしガチャンと回した。

 ライオンのように大きなエンジンの始動音がなると、その後はさすが高級車、エンジンの音は静かになった。

 しかしその後の「ETCは挿入されていません」という流暢な日本語ボイスに、ひとや時国しぐには、なんとなく冷めた。


 ヴェントットはそんな二人に構うことなく、ナビに備わったラジカセの機能で車内に音楽を流し、レバー操作後発進した。

 かかっている音楽はヴェントットの趣味全開の洋楽ロック。画面に『深紫ふかむらさき』とアーティストの欄に表記されていた。



 ───ヴェントットの高級車はスイスイと走っている。

 滑らかかつ静かな走りは、ひとやも少し羨ましがるほどである。

 ただ今異門獣ゲートモンスター含め四人を乗せる車は、千葉と神奈川をほぼ真っ直ぐに結ぶ15kmのトンネル内である。

 その名前は『ウォーターライン』で、東京湾の真下を通っている。


 巨大なトンネルを進む一行は、渋滞なく走り続けている。

 パンクロックが流れているものの、それに全く興味のない時国しぐには、ひとやに問いかけた。


「…なぁ、ひとやセンセー。てか、なんであんたは『異門の鍵ゲートキーズ』になったんだ?」


 それは素朴な疑問だった。しかしひとやにとってはかなり重要なことのようで、鼻歌を歌っていたヴェントットも黙り込んだ。

 だがひとやはそんな重くなった空気をかき消すような笑顔で優しく答えた。



「なぁに、クソ簡単なことさ。俺のオヤジを殺されたんだ。直接というか、死ぬ原因はオヤジにあるんだが、そうさせたのは『異門獣あいつら』なんだ。」



 ひとやは、灰色の壁しか映さない窓を見ながら、肘をつき話続ける。


「俺のオヤジは異門ゲートの研究をしている研究員でさ…クソあぶねぇけど、クソ給料良くてやってたんだと。そんでもって結構重役になって、指揮するまでに昇進したって頃に実験が失敗してね。『憑霊ホロ・ゴースト』を招き入れちまった。その際そいつらに襲われて、仕方なく研究所の自爆スイッチを押して死んだってワケ。だから仇討ちにちかいかな。俺は。」


 自分の身の上話を話すと、ひとやは次にヴェントットの椅子を指さしてニヤリと微笑んで話す。

 ヴェントットは悪寒がした。


「ちなみにコイツヴェントットがなんで『異門の鍵ゲートキーズ』に入ったかっつーとな、『合法的に武器が売れて稼げるから』なんだとさ。」


 そう笑いながら話すひとやにヴェントットは前を見ながら反論する。


「違ぇよ!! なんで俺を悪者見てぇに言うんだブラザー!! 単純に軍隊入ってた経緯イキサツで入ったんだ!! やりたくてやってる訳じゃないんだなミーは!!」


 時国しぐにひとやは声が出るほど笑った。険しい表情のヴェントットも、笑い声につられて笑いだした。車内は四人の楽しげな笑い声で溢れた。



 ───しかし、そんな楽しげムードも、トンネルの11kmに差しかかる頃、そのタイヤは止まった。

 というのも、前の車も止まっているのだ。

 ヴェントットは渋滞かと疑問に思ったが、トンネル内に響き渡る『唸り声』でその疑問はどこかに消えた。

 その唸り声を耳にした三人はすぐさま車から出た。

 ツーナイグングはひとり車内のシートベルトに絡まったままである。



「うぅぉぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!」



 けたたましく響くその声は、トンネルということもありとても五月蝿いうるさい

 トレンチコートから『極札タグズ』を出したひとやを先頭に、三人は前へ走った。


 全速力で走る三人、息を荒らげながら150mに到達した頃、その唸り声の主が目の前に現れた。

 その主はもちろん『異門獣ゲートモンスター』である。

 軽自動車の上に仁王立ちし叫び続けるその風貌は、これもまた奇っ怪である。


 その姿は、人型なのだが、奇妙にも首含めその上は、『カマキリ』なのである。

 もちろん首の下、胴体も『カマキリを無理やり人型にしたような身体』で、腕にはカマキリのような『カマ』が左右に備わっている。

 臀部(尻)には、本物同様カマキリの腹が人間サイズで存在している。


 そんな不気味な見た目の『異門獣ゲートモンスター』は、ひとや達三人を見つけるやいなや、触覚をピコピコさせながら話しかけた。



「なぁ…カマキリって戦闘の天才なんだぜ。クワガタだろうがヘビだろうが戦って勝っちまうんだ〜。俺はよぉ、そうなりてぇ、『強くなりたい』っていう願望が、この身体を創り出したんだ…!」



 そのカマキリの『異門獣ゲートモンスター』は、車の上から降りると、腕の鎌をキリキリと擦り合わせながら言った。



「お前らァ!! この『ズィッヒェル異門獣ゲートモンスター』と、勝負しろォ!!! 勝ち負けこそ、この戦いの強さだァァ!!!」



 カマキリ…いや、ズィッヒェルは、両腕の鎌を前に出すように構え、三人をカマキリのような複眼で睨みつけた。

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