第七世界・「ベビー・ハート・アタック Part2」

 ────巨大な赤ん坊の異門獣ゲートモンスター、『ミランダ・ド・ドウロ』との戦いの最中、ひとやの放った言葉に一同は驚愕した。

 四つん這いの『ミランダ・ド・ドウロ』を立たせるというのだ。


 時国しぐにとヴェントットは不可能だと顔で訴えるが、至高の異門の鍵ゲートキーズと周りから称えられる男の提案なので、仕方なく聞いた。


「ブラザー…とりあえず聞こう…。」


 ヴェントットは今にも溶けきりそうな黒い傘、『対酸性耐久傘ヘイト・アシッド』をさしながら叫んだ。

 ニヤリと口角を上げるひとやは返答した。



「……あの赤ん坊は『愛・異門獣ツーナイグング・ゲートモンスター』から生まれた化け物…ってことはあの親と同じ『弱点』…胸に『ピンク色のハート』があるはずだ! 四つん這いだからこちらによく見えないが、確認する価値はある!」



 ひとやが先程『愛・異門獣ツーナイグング・ゲートモンスター』を見て話を辞めたのは、その胸にあるハート型のものが弱点である可能性が高いと考えたからである。

 そして懐から三枚の『獄札タグズ』を出すと話続けた。


「やってみるか!?」


「む、無謀だ……」


 しかしそう言うヴェントットも満更ではなく、彼もニヤリと笑って、身につけたコート『武装武器庫ウェポンズ・ガンスミス』に手を入れて答えた。


「ま、どうせ無謀と言ったところでブラザー、お前はやるんだろうけどな。」


 ヴェントットはそのコートからまたも武器を取り出した。その武器は、皆が見た事のある現代兵器…そのまんま、フルオートの『自動小銃』である。

 おもむろに『ミランダ・ド・ドウロ』の顔面に向けて構えると、ラタタタタと弾切れになるまで撃ち尽くした。



「ば、ばぶぅ!?」



 だが、数百発撃ったところで『ミランダ・ド・ドウロ』の硬い皮膚を傷つけることも愚か、穴を開けることさえ出来なかった。

 それを見たひとや極札タグズ片手に、不満そうな表情で言った。


「……まさかこれだけじゃないよな? 傷つけることできないと知ってぶっぱなした訳じゃないよな?」


 ヴェントットは一息つき、銃を構えることを止めると、ひとやと後方の時国しぐにに向けて答えた。



「そりゃあ、何も考え無しに撃ったとおもうかよブラザー…この銃が放ったのは弾丸じゃねぇ……。」



 そうヴェントットが話すと、その瞬間、『ミランダ・ド・ドウロ』の顔からパキパキパキという音がした。その音はまさに、何かが『凍る』ような音である。

 その音が聞こえると、ヴェントットは話し続けた。


「この銃が放ったのは『冷気』…名ずけてこの銃は『捕獲用・凍結弾アイシクル』…!! 撃った対象を凍らせて捕獲することを目的とする銃だ!」


『ミランダ・ド・ドウロ』はパキパキパキと凍り続けた。

 その冷気はかなり強く、その巨体の表面に青い氷の膜を張るほどの冷たさを誇っている。

 そしてものの五分で完全に凍りつき、『酸の息』も治まった。

 時国しぐには、その瞬間を見計らって、溶けたスーツの上着を脱ぎ捨てて走った。

 その目標は『ミランダ・ド・ドウロ』…の、『真下』である。


「チャンスだぜチャンス…! てか、俺は自分のプライドが傷つくのが嫌なんだ……誰にも舐められない男になるんだ!!!」


 時国は、その目標にたどり着くと、その身体を小さくするようにしゃがみ込んだ。

 そして上を向き、『ミランダ・ド・ドウロ』の首元へ目掛けてパシュっと大きくジャンプした。


「合わせろよひとやセンセイ!!! てか見てろ! これが俺のプライドだぜ!……斬り殺せキリング・スラッシュ!!! 『黒刃無頼刃宮ブラックベール・エッジライジング』!!!」


「ンンばぶぅ!!!」


『異門獣』化した右腕による斬撃は、ジャキィンと、アッパーカットのように『ミランダ・ド・ドウロ』の顎を捉えた。

 しかし先程の銃弾同様、傷はつけられない。だが今は傷つけることが目的ではない。

 この巨体を『立たせる』ことが目的なのだ。

 時国しぐににより強引に上へと押し出される『ミランダ・ド・ドウロ』は、それに負け、ヨロヨロとその場に立ち上がってしまった。


 まるで産まれたての小鹿のように立ち上がった『ミランダ・ド・ドウロ』、その胸にはひとやのカン通り、『ピンク色のハート』が、『愛・異門獣ツーナイグング・ゲートモンスター』と同じ位置に存在していた。

 ひとやはそれを見逃さず、一枚の『極札タグズ』をビリッと破り右手に紙切れを集めると、その右手の掌を『ミランダ・ド・ドウロ』へ向けた。

 その『極札タグズ』には『六・BIND』と表記されている。



「六番…『縄縛じょうばく』の『極札タグズ』!!!」



 するとその瞬間、ひとやの向ける手の掌から、一本の太い縄がパシュっと射出された。

 その縄は『ミランダ・ド・ドウロ』の首に素早く巻き付く。それを確認すると、ひとやは蜘蛛人間、『蜘蛛・異門獣シュピンネ・ゲートモンスター』のように、力を入れて縄を引っ張り宙を舞った。

 スーパーヒーローのように飛び『ミランダ・ド・ドウロ』の胸元まで来ると、二枚の『極札タグズ』を握りしめながら、右拳で『ピンク色のハート』を殴りつけた。


「ばぶっ!?」


 ドガッと鈍い音が鳴る。すると次の瞬間、『ミランダ・ド・ドウロ』は後方へ、バッコォンと吹き飛んだ。

 真下にいた時国しぐには驚いた。


「え……てか何だあのパンチの威力…!」


 ヴェントットは後ろから時国しぐにの肩をポンと叩くと、ひとやを観ながら指さして言った。


「なぁにスモールブラザー、よく見なってブラザーの拳をよ。」


「拳…?」


 時国しぐにひとやの拳をよく見ると、殴った対象に衝撃波を流し込むメリケンサック、『衝撃的一撃ショック・ウェーブ』が装着されていた。

 殴った際、一枚の『極札タグズ』、『空間連結くうかんれんけつ極札タグズ』を破っており、瞬時にメリケンサックを装着していたのだ。


 後ろへ吹き飛び、よろめきながらエビゾリ状態の『ミランダ・ド・ドウロ』へ、ひとやは間髪入れず、また一枚の『極札タグズ』を今度はシュッと投げつけた。

 矢のように放たれた『極札タグズ』は、『ピンク色のハート』に当たる寸前で大爆発した。

 その高威力の爆発は、文字通り、いともたやくすハートを粉々にした。

 ひとやはスチャッと地面へ着地をすると、グデッと倒れ込む『ミランダ・ド・ドウロ』を見て言った。



「……『極札乱舞流タグズ・ランブルその一』……クソほど巨大な『異門獣ゲートモンスター』向けの組み合わせだ。」



『ミランダ・ド・ドウロ』は、チョークのように白い粉を撒き散らしながら、そのハートのように粉々に割れていった。



 ───時刻は16時00分……三人は、割れた『ミランダ・ド・ドウロ』を見た後、後ろにいる、『縦真っ二つに割れた異門獣ツーナイグング・ゲートモンスター』の元へ歩いて行った。

愛・異門獣ツーナイグング・ゲートモンスター』は、目の前が三人の影で暗くなると、自分の死を悟ったように、落ち着いて三人に話しかけた。


「うぅ……な、なによ近づいて来ちゃって……我も始末する気でしょ? 早くやればいいじゃない。」


 ひとやはそう話す『愛・異門獣ツーナイグング・ゲートモンスター』を眺めた後、その右側の男の顔をガシッと掴んだ。

 何をされるのか分からない様子の『愛・異門獣ツーナイグング・ゲートモンスター』だったが、そんなこともお構い無しにひとやは、その頭だけを身体から切り離した。

 右半身の生首という、奇妙な姿になった『愛・異門獣ツーナイグング・ゲートモンスター』は、ひとやの腕の中から叫ぶように、オネエ口調で言った。


「な、なんで頭だけを残したのよ!! そのまま殺せばいいはずじゃないの!!」


 ひとやは返答した。



「クソ簡単な話だ。お前を『異門獣ゲートモンスター』に関する案内係をしてもらうってだけだ。お前は大量の『欲望』を取り込んだ存在…そして知能も他より高そうだ。だからこうして頭だけ切り取り、案内させようとしてる。」



 ひとやがそう話すと、突然、ひとやのトレンチコートからプルルルルと電話の着信音が鳴った。

 ひとやはそのポケットから『シルバーのガラケー』を取り出すと、ボタンを押し電話に出た。

 その相手は、『いかり 尽加紗つかさ』だった。

「もしもし」とひとやが応答すると、尽加紗つかさは電話越しに言った。



「ご苦労だな神門みかど……電話からで申し訳ないが、一度『日本異門錠にほんゲートロック』、『東京支部』に足を運んでくれないか。直接話したいことがある。お前は方向音痴で有名だから、そこに居る『武器商人ヴェントット』も一緒に連れてこい。それじゃあな…通信終了。」



 電話は、それをひとやに伝えるとプツリと切れた。

 ひとやは携帯をポケットにしまうと、二人と腕の中の一体に向けて言った。



「こりゃ、またなにかクソ厄介事があるぜ……。」



 海から照らす夕日は、三人をオレンジ色に染め上げた。

 三人は、喫茶店の中へ入り、明日の朝に東京へ出発することを決めたのだった。

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