第六世界・「ベビー・ハート・アタック Part1」

────時刻は15時37分。時国しぐに愛・異門獣ツーナイグング・ゲートモンスターを縦真っ二つに切断し、倒したかと思われた矢先。突如三人の目の前に『巨大な赤ん坊の白い彫刻』のような異門獣ゲートモンスターが現れていた。

5mはあるだろうという大きさ、三人はそれを見上げている。


三人の前に四つん這いの巨大な赤ん坊はヨダレが垂れる口をまるく開き声を上げた。



「ンンンばばぶぅ〜ッばぁぁぁぶぅぅぅ……。」



その声を聞いていたひとやは懐から獄札タグズを取り出すと、とある赤ん坊の異変に気がついた。彼の目は赤ん坊の下の地面の方へ向いている。

その地面には何か異様な液体が、プスープスーと音を立てて滴り落ちていた。


「……このヨダレ…『強酸』か……!? ヨダレの付着したアスファルトがドロドロにクソ溶けてやがる!!」


ひとやが迫真の声で指摘すると、それを聞いていたのか縦真っ二つに切り裂かれたはずの『愛・異門獣ツーナイグング・ゲートモンスター』の『男の彫刻』が後方から嘲笑して話し始めた。

その口からはパサパサと白いチョークの粉のようなものが、声を出す度に舞っていた。



「…わ、我はただの抜け殻に過ぎない……お前らに放った弾丸、『生命の弾丸セクシー・バレット』は撃ち殺すために放ったのでは無い……この赤ん坊の異門獣ゲートモンスター、『ミランダ・ド・ドウロ』を解き放つための手段に過ぎないのだ……!!」



『ミランダ・ド・ドウロ』と名付けられた巨大な異門獣ゲートモンスターは『愛・異門獣ツーナイグング・ゲートモンスター』の放った弾丸が地面に着弾し、それが徐々に大きく成長することで生まれた怪物である。

この怪物は喋れないところを見ると知能は本当に赤子のように低いと見て取れるが、どこか醜悪なオーラを放っている。

ヴェントットはこの怪物『ミランダ・ド・ドウロ』を見ながらひとや時国しぐにに話し始めた。

その声からは困惑が感じ取れる。


「ブラザー…そう私の憶測ではあるが、アイツの取り込んだ『複数の欲望』や『協力に願われた願い』は、ほぼ全てあの赤ん坊に注がれたんだろうな……だからきっと……」


ヴェントットはそう言うと懐からとても小さなリボルバー、『小さな巨人リトル・ガリバー』を取り出すと躊躇ちゅうちょ無く『ミランダ・ド・ドウロ』の額に銃口を向けて、一発撃ち込んだ。


しかし、雷のような轟音と共に音速で放たれたその弾丸は、『ミランダ・ド・ドウロ』の額に着弾するも、小さな円板形、つまりフリスビー状に潰れてポロリと地面へ落ちた。

その弾丸の着弾地点である額を見ると、なんと傷一つ着いていない。焦げた跡も煙も立ってはいなかった。

ヴェントットは『小さな巨人リトル・ガリバー』を着ているヒョウ柄のコートにしまうと、サングラスを外して二人に話を続けた。


「……このように、あの『小さな巨人リトル・ガリバー』でさえ傷がつかないくらいタフなんだ…。不思議に思ってた。アレだけの欲望を集めてアイツツーナイグング・ゲートモンスター脆いもろい事が、なんともストレンジだったんだ。」


それを聞くとひとやは先ほど懐から出し手に持っていた『獄札タグズ』をクシャクシャに丸めて、『ミランダ・ド・ドウロ』の顔目掛けて思い切り投げつけた。

その『獄札タグズ』には、『三・DYNAMITE』と書かれていた。


「そらよっ!!!」


ひとやは、丸まった『獄札タグズ』がパサりと『ミランダ・ド・ドウロ』の鼻に触れると、例のごとく一言唱えた。

これはひとやの実験、賭けである。


「……一か八か…三番、『爆裂の獄札ばくれつのタグズ』…!!!」


獄札タグズひとやのその声に反応し、『ミランダ・ド・ドウロ』の目の前で大きく爆炎を広げながらバゴーンと爆音を放った。



「あぶあばぶ。」



その爆発は『ミランダ・ド・ドウロ』の頭全体を包み込む。

少しではあるが、四つん這いの『ミランダ・ド・ドウロ』を右へよろめかせることに成功した。

しかし、その爆発による煙が晴れると、そこには『無傷で火傷跡もないミランダ・ド・ドウロ』がそこに現れた。

ひとやはこの赤ん坊の化け物が『獄札タグズ』によって破壊されるということを期待していたが、煙から現れたその現状の前に少し気分が悪くなった。


獄札タグズでもダメなのかこのクソガキモンスター……防御面じゃ今んとこ敵無しだ。」


ひとやは舌打ちをし嘆いた。すると突然『ミランダ・ド・ドウロ』は三人の方へ首を向け始めた。

愛・異門獣ツーナイグング・ゲートモンスター』を含む三人と一体は、この怪物の突然の行動に疑問を持った。しかしそんなこともお構い無しに、『ミランダ・ド・ドウロ』は口の形をキスをするような形にすると、大きく空気を吸い始めた。


「スゥゥゥゥウウウウウウウゥゥ〜……。」


『ミランダ・ド・ドウロ』は数秒をかけてめいいっぱいの空気を口の中に蓄えると、せっかく溜めたその空気を一気に三人へ向けて吹き出した。



「ぷぅぅぅぅぅぅぅぅぅうぅぅぅぅぅ!!!」



その吐き出した息は三人の髪の毛とひとやのコートをはためかせる。

この場にいる人間は、この怪物が本当に何がしたいのか分からなかった。

なので、ただその息に吹かれながら『ミランダ・ド・ドウロ』を見つめるだけだった。


「……クセェな……クソくせぇ…息が……。」



……しかし、時国しぐにが体力を取り戻し立ち上がった瞬間のことである。


「てかやっと…動けるようになったか……な…??」


突然、ジュウジュウという焼けるような音が耳に入った。

時国は何の音だろう、何が焼けているのだろうかと、興味本位でその音の方向、つまり、自らの左腕を見てみると、そこには異様な光景があった。


なんと、時国の左腕の袖が、『消えていた』のである。

このジュウジュウという音はなんの音なのだろうか。そんな事を考える暇もなく、その光景を見た時国は驚きのあまり二人に向けて叫び出した。



「う、うぅおおおぉお!? そ、袖が、スーツの袖が消えてるぅううぅ!? て、てかなんなんだこれぇ!!」



それを聞いた二人も異変に気がつく。地面のアスファルトやヴェントットが身につけていた指輪が無かったり、、トレンチコートに丸い穴が空いていたりと、本当に異様な光景だった。

ひとやは丸く穴の空いたそのコートを不思議に思い、空いた穴を縁取るように人差し指でなぞると、何か『ぬるぬる』するものがあるのがわかった。

それを人差し指と親指で擦り合わせたり開いたり閉じたりしていると、ある一つの考えがひとやの頭をよぎった。


(ぬるぬる……なんだこれ…これはまるで『石鹸』のような……目に見えなくて、ぬるぬるしててあの化け物の口から出てきた……はっ!!!)


ひとやは突然目を見開き、後ろの二人に向け、叫び出した。



「解ったぞ!!あのクソッタレはただ息を吸って吐き出した訳じゃない!! 『強酸』だ!! あのクソ野郎は透明の強酸を空気とともに吐き出していたんだ!! 透明だから見えないし、付着しなければこちらも気が付かない!!」



それを聞いた時国は、急いで喫茶店の中へ入った。一方ヴェントットは、『酸の息』が吹き荒れる中、ヒョウ柄のコートの中に右手を突っ込んだ。

喫茶店のドアから覗き込む時国は、何やってるんだアイツと言わんばかりの目でヴェントットを見るが、次の瞬間、時国は驚愕した。

なんと、ヴェントットはにゅるにゅるとコートの中から『黒い傘』を取り出したのだ。

どう考えても入ることも出すことも出来ないそのコートから傘を出したヴェントットを見た時国は思わず声に出してしまった。


「ヴェントット!? てかなんだよそれ! てかどっからその傘出した今!?!?」


ヴェントットは黒い傘をさすと、時国に返答した。



「あれ、お前さんにゃ言ってなかったか。このコートも立派な『武器』……『武装武器庫ウェポンズ・ガンスミス』だ。このコートの内側には、『圧縮された空間』がある。その中に色んな武器をしまってるんだ。取り出すこともしまうことも可能!!」



ヴェントットはそう言うと、さしている傘を指さして話し続けた。


「そして! 今さす傘は『対酸性耐久傘ヘイト・アシッド』…この傘にいかなる『酸』は効かない……一回きりの使いっきりだけど。」


ちゃっかり宣伝をしたヴェントットは、傘をさしながらひとやに話しかけた。


「おいブラザー、どうやってこの赤ん坊を倒すよ。」


ひとやは吹き荒れる息を腕で防ぎながら話す。


「さぁね。あんな頑丈なやつ、どう倒せと。酸に耐性があるのか身体は溶けてないし、爆発も最新の弾丸も効か……」


ひとやは突如話しを辞めた。彼の目の先には、『愛・異門獣ツーナイグング・ゲートモンスター』が居た。

そして何を思ったのか、考えがあるのか。ニヤリと笑いながらヴェントットと時国に向けて叫んだ。



「おい、一つアイデアを思いついた。ほぼ賭け、予想だけどやる価値はあるぜ!!」



ヴェントットは不思議な顔をして答えた。


「ブラザー、何か策があるんだな? そいつは一体……?」


ひとやは頷き、また叫んだ。その答えを聞いた二人の顔は驚きに満ちていた。

しかし、ひとやの顔はそれに反して、にこやかな笑顔である。



「……あの赤ん坊を、『立たせるstand up』んだ!!!!」

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