第五世界・「エロティカ・ラヴ・ウェポン」

 ────時刻は15時丁度。ひとや時国しぐにはヴェントットがオーナーを務める武器屋に足を運んでいる。

 白い壁と床の空間に武器のショーケースがあるというこの部屋の中で、ヴェントットは二人の目の前へ歩み寄り口を開いた。


 「……ここの武器は最上級…そしてお手頃価格…例えば……」


 ヴェントットは左手の方にある『銃』を手に取るのだが、この銃は見た目からして特徴的なのである。その銃は形こそ普通の『リボルバー式拳銃』なのだが、そのサイズがなんとたったの全長5cmなのだ。

 ヴェントットはその銃を二人に見せながら話続ける。


 「この銃はこんなにも小さい…この見た目じゃ威力に信頼は置けないだろう…しかし……。」


 そう言うとヴェントットは先程出てきたドアの横にある『ダーツの的』に銃口を向けて、その銃のトリガーを引いた。

 その瞬間、時国しぐには驚いた。


 その見た目とは裏腹に、その銃声は凄まじく、まさに轟音。そして肝心の威力はというと、なんとダーツの的どころではなかった。

 白い壁に黒い風穴を開けたのだ。

 時国しぐにはそれを見て顎が外れる程に驚いた。


 「てか、な、何やってんだよ!! その小ささでどっからその威力でるわけ!?」


 ヴェントットは自信ありげに答えた。


 「コイツは名付けて『極小の巨人リトル・ガリバー』…威力はロケットランチャー程度。轟音を放ち、『大型異門獣おおがたゲートモンスター』をも撃退する。」


 ヴェントットは元の場所に銃をおくと、さらに右手の方にある『手斧』を掴み、また二人に見せつけながら身振り手振りで説明した。


 「この斧の名は『雷帝ミョルニル』…物理エネルギーによる発電機構を備えており、振り回せば振り回すほど、切れば切るほど発電する。そしてそのエネルギー量は……。」


 ヴェントットはその手斧をまたドアの方の壁へ向けると、縦に何かを切る動作をブンブンブンと三回行った。そして四回目をしようとしたその瞬間のこと。


 斧の先端から壁に向かって、とてつもない爆発音と共に電撃が放たれた。それはまるで『真横に落雷が起こった』と言うような感じである。その電撃を見て時国は腰を抜かした。


 「てかな、なんだよ今度は……。」


 腰を地面に着く時国の手を引っ張って起こしながらヴェントットは話した。



 「この『雷帝ミョルニル』の電撃は最高18万ボルト…電気抵抗は無視した数値だがな。そこら辺の雑魚は簡単に消し炭にできるぞ少年。」



 ……ヴェントットは獄と同じくその界隈じゃあ有名な人物である。しかし他の武器商人と違うのは、『実践』という名の『破壊行為』をしてその武器の性能を紹介するという点である。



 ────二人を見ながらヴェントットがその手斧を元の場所に戻そうとした瞬間、突然白い部屋がブザー音とともに赤く染った。

 ヴーヴーというブザー音は三人を緊張状態へと変えた。


 「な、なんだこのクソでかい音は!?」


 最初に反応したのはひとやだった。この音についてヴェントットは二人に深刻な顔で説明を行った。



 「あぁSHITシット……!! コイツは近くに『異門獣ゲートモンスター』が現れたことを知らせるブザー!! ここから半径20kmの範囲内の『異門獣ゲートモンスター』反応を知らせることが出来る!! 神門みかど ひとや……仕事の時間ジョブタイムだぞ!」



 ヴェントットの話を聞いて獄と時国は頷き、駆け足でその部屋を出た。ヴェントットは幾つか武器を抱えて出てきている。

 三人はその『異門獣ゲートモンスター』に出会うまで電車を乗り継いだり少しかかってしまう、そう考えた事だろう。しかし、その化け物と相対あいたいするまで、そう時間はかからなかった。

 なぜなら、カフェを出て右手を見れば、すぐ目の前に居たからだ。


 その『異門獣ゲートモンスター』の姿はなんと奇妙か。白い彫刻の様な姿をしている。しかし奇妙なのはここで、右に『ダビデ像』の様な男の彫刻。左にどの彫刻とも似つかぬ『女性』の彫刻が、無理やり一つに溶接されたような人型の姿をしているのだ。

 そして印象的な胸元にある桃色の『ハート』…この時はまだ三人には能力が想像つかなかった。

 その『異門獣ゲートモンスター』は三人を見るなりギャオンギャオンと叫び出した。

 その声も姿同様気色が悪く、男声と女声が混じったような声である。



 「……ギャオォオオン!! 我が名は『愛・異門獣ツーナイグング・ゲートモンスター』ァァア! 『恋人が欲しい』、『あの子とあんなことエッチがしたい』と言う、『複数人』の欲望が集まってできたのがこの我である!!!!」



 ヴェントットは異門獣ゲートモンスターの言葉を聞いてピンと来た。


 「…そうか、この近くにはナイトクラブがある。そこへたむろする若者の欲望をかき集めて取り憑いたってわけか。あのクラブの若者たちはみんな『性欲』に溢れてるもんなぁ〜…。」


 ヴェントットは先程の斧、『雷帝ミョルニル』を構えて話を続ける。


 「アイツらの元となる欲望や願いは、無意識下でどれほど『強く願う』ことが出来るのか、どれだけ『複数の願い』が込められているのか。それに反映して異門獣ゲートモンスターの強さも変わってくる…。」


 時国はそれを聞き右腕を刃が輝く『異門獣ゲートモンスター化』させて前に構えた。


 「てか、それじゃあさっさと切り刻んじまった方がいいなぁ〜…。俺のこの『クリンゲ』で始末してやらぁ。」


 時国がそう発言したその時、異門獣ゲートモンスターはギロリと時国の事を凝視し始め、舌で唇をべろりと、『美味しそうなものを見た時』のような反応を取り冷静に話し始めた。


 「お〜っと、これはこれは可愛いのがいるじゃない…興奮してきた、いっちょ我と『おっぱじめ』ないか〜い? アンタが男でも女でもどっちだっていいのさ…だって、棒も穴もどっちもあるからねぇ!!!」


 異門獣ゲートモンスターは下品にも股間の辺にある『葉っぱ』のような彫刻を外し始めた。とても下品なその行為は、下ネタ的行動と同時に『攻撃』の開始でもあったのだ。

 その葉っぱの彫刻の下からは、なんと、ニョキニョキと植物のように生え『自動式拳銃』の形をした彫刻が現れたのだ。

 ひとやは気持ちの悪いものを見る目で驚愕した。


 「おいおいなんつーもん見せつけてんだよあのクソ変態野郎…。」


 ひとやの言葉もお構い無しに右手でその銃の彫刻をバットを握るように掴み、舌を出しながら話した。


 「我ねぇ、男も女もどっちもいけちゃうのよ。今すぐ、我の『精子バレット』をアンタ時国にぶち込んでやりたいわァァァ!!」


 気持ち悪く不敵に笑う異門獣ゲートモンスターが次にとった行動それは、『睾丸こうがん』の位置にある『トリガー』を左手で掴み、銃を撃つが如くトリガーを引いたのだ。


 「撃ち抜いてあげるわ!! 行きなさい、『生命の弾丸セクシー・バレット』!!!」


 その弾丸もよく見ればまるで白い彫刻のようである。

 音速とほぼ同じ速度で飛んでくるその弾丸に対し、時国しぐには金属音を鳴らし刃の右腕で受け止めるように防御した。


 時国はこのまま弾丸を切り刻んでやろう、そう思っての行動だが、その思いとは真逆の結果が今、時国を苦悩させた。



 「……だ、弾丸が…なんて硬さだ…!! 俺の右腕で切れないなんてそんな馬鹿な…!!!」



 今も時国の手の中で、ジャギギと金属音と共に火花散らしながら回転し続ける小さな弾丸は、止まることを知らないようだった。

 しかしこのまま受けている訳にも行かず、時国は後ろへ受け流すように弾丸を手から離した。

 ひとやは倒れそうな時国の肩を支えた。


 「おい、まだ立ってられんのか時国…クソ疲れたら休めよ。」


 時国はハァハァと息を切らしながら答えた。


 「まだ行ける…あと技二つ放ったら倒れちまいそうだ……。」


 時国は少しフラつきながらも立ち上がり、刃の右腕を異門獣ゲートモンスターの方へ出し威勢よく叫び出した。



 「……斬り殺せキリング・スラッシュ!!! 『黒刃一刀両断ブラックベール・エッジエスパーダ』ァアァア!!!」



 時国は叫び声が止むのと同時に異門獣ゲートモンスターの前から、風切り音と共に姿を消した。

 時国の叫びが耳に入った異門獣ゲートモンスターは、何か来る、これは攻撃だと脳裏に過り、無意識に両腕をクロスさせて防御態勢に入った。しかし、時国はその防御が完成した時には既に『異門獣ゲートモンスターの背後』に立っていた。

 それに気がついた異門獣ゲートモンスターは時国に向けて話し出した。



 「……全く『賢者タイムナーバスな気分』だってのに…ただ瞬間移動しただけ? どこも切断されてな……」



 それは異門獣ゲートモンスターが、体がどこも切れていないという事を頭に考えた瞬間のことであった。


 真紅の鮮血の噴水と共に『身体が縦に真っ二つ』にパッと切断された。

 それは、まさに男側と女側の彫刻を『切り離す』が如く、切断されたのだ。


 「……え。」


 異門獣ゲートモンスターは驚きの声を出した。そして身体が左右それぞれズシャリと地面に倒れた後、吐血しながら静かになった。

 しかし、それを見たひとやは疑問に思った。


 「……よ、弱すぎる…いくらなんでもクソ弱すぎるぜ……。流石に弾丸一発撃っただけ、それも誰にも怪我をもさせずにクソみたいに倒れるなんて……『欲望』の量にクソ比例して無さすぎる……!!」


 ひとやの言葉を聞いたヴェントットはひとやの肩をポンと叩く。

 それに反応したひとやは次の瞬間、目から入った情報によりその疑問の答えが一目でわかった。

 ヴェントットは驚愕した顔で話した。


 「……SHITシット…どうやら奴は『仮の姿』という事のようだな。アレを見りゃ一目瞭然…。」


 疲れて膝をつく時国を合わせた三人は後ろにあるその現状を見て顎が外れんばかりの驚愕した顔になった。

 彼らの背後にあるものはなんと、高さ5mはある巨大な『赤ん坊の彫刻』が、四つん這いよつんばいの体勢となって、異様な雰囲気を醸し出しながら存在していたのだ。

 その赤ん坊の彫刻はヨダレが垂れる口を大きく開けて声をあげた。

 その声は普通の赤ん坊の声だけに不気味である。



 「……ンンン〜ばぁぁぁぶぅぅぅ……。」

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