第四世界・「LET'S GO・社会科見学」

 ────時刻は12時26分。ひとや時国しぐに尽加紗つかさの三人は獄の住処でもある『BAR・SIX WOODS』に居た。

 BARの奥の席から時国、獄、尽加紗の順で座っており、それぞれ飲み物は、時国が『レモンティー』、獄が『日本酒』、尽加紗が『オレンジベースのカクテル』である。

 尽加紗は、カランカランとグラスの中にある氷を転がしながら獄に話しかけた。


 「…神門みかど、折り入って頼み事がある……単刀直入に言うが、この安紋あもんを鍛えてやってくれないか。」


 獄は日本酒を徳利とっくりからコップへ注ぎ込むと、尽加紗の方を横目に答えた。


 「この…ガキを? 俺に鍛えろって? コイツはクソエリートなんだろ?」


 尽加紗はカクテルを軽く一口飲み返答する。


 「あぁ。確かにエリートだ。しかし、養成所の三年にしては実践力に欠けている。いい器ではある。成績も悪くないし『トップ50』のうちのコイツは20だ。」


 「……へぇ。そりゃエリートだな…って、なんで俺なんだ? それこそ他のやつでもいいだろうよ。しかもなんだコイツの右腕はよ? それに……」


 すると突然時国が話を割るように二人に話しかけた。


 「てか、話割るようで悪いんだけどさ、ひとや…だっけ? なんでそんな先生とタメはって話せるの? 俺めっちゃ気になるんだけど。」


 獄は日本酒を一口飲み話そうとすると、尽加紗が割って話した。


 「俺とコイツは元教師と生徒だ。俺が直接『憑霊ホロ・ゴースト』や『異門獣ゲートモンスター』の駆除の仕方を教えた。」


 時国は目が飛び出るのではないかと言うほど驚きながら話す。


 「え、教師と生徒なの? てか先生マジ?」


 「マジだ。」


 「マジかよ。」


 獄はコップに入った日本酒を飲み干すと尽加紗に問いかける。


 「俺の話はそこでいい…コイツのあの『腕』について話してもらおうか! あとなんでコイツ鍛えるの俺なんだ!」


 尽加紗は後頭部を搔くとやれやれと言うような表情をした。そしてグラスの中のカクテルを空にして質問に答えた。


 「はぁ…わかった話そう。こいつの腕について……」



 ────それは今から13年前…1999年のこと。

 世界政府は『異門ゲート事件』による被害を抑えるため、秘密裏に『異門の鍵ゲートキーズ』と言う職業、概念を作り出した。

 それから今に至るまで『異門の鍵ゲートキーズ』の人口は徐々に増え続けており、獄も2005年に養成所を卒業している。


 しかしそんな『異門の鍵ゲートキーズ』も人間による組織。養成所へ入って鍛えたと言っても所詮人間。脆く簡単に呆気なく死ぬ。

 そう考えた世界政府によって、2010年に考え出されたのが通称『目には目を歯には歯をアイフォーアイ・トゥースフォートゥース作戦』、略称『E・F・T』……さらに詳しく説明すると、『異門ゲート』からのモンスターに対抗すべく、こちら人間サイドもその力を利用してしまおうと言う考えだ。


 これは、『憑霊ホロ・ゴースト』に頭や魂を取り憑かせなければ『異門獣ゲートモンスター』を生み出すことなくその力を利用出来る……そんな狂気じみた研究結果が出たのがきっかけである。



 ────この話を聞いたひとやは少し複雑な表情をした。そしてこんな狂気の沙汰でもない処置を、若い少年少女達にに施した世界政府に怒りが湧いた。

 世界を救うためとは言うものの、どこかそれは違うのではないかと言う情が生まれたのだ。


 尽加紗つかさひとやの顔を見てため息をついた。獄の思う事が顔でだいたい読み取れてしまい、説明したこちらも胸糞が悪くなってしまったからだ。

 むしろ、その尽加紗自身もこの作戦には納得が行って無いのだ。


 グラスの中で溶ける氷を見ながら尽加紗は獄に話を続けた。


 「……ちなになんで鍛えるのがお前なのかっていうのは、単純にお前が強いからだ。俺は安紋の専属トレーナー的なやつなんだが、歳のせいで体がよく動かない……頼む。」


 獄は徳利を上から覗き中身が無いことを確認すると尽加紗に体を向けて話した。



 「……はぁ。クソ化け物退治するために化け物を生み出す……ね。クソ胸糞悪ぃ。だが、そんな手術受けちまったんならアイツ時国もそれ相応に強くならなきゃ、クソ見掛け倒しだもんな…わかったよ、やるよやる。」



 そして獄は時国を指さして話を続ける。


 「……やるからには、コイツをクソナンバーワンにしてやるよ。ただし、コイツの飯代は援助しろよ。」


 尽加紗はニヤリと微笑み、獄の肩を叩いて返答した。


 「わかった。それなら任せとけよ。」


 そう言われると、急に獄は椅子からスっと立ち上がり、出入口のドアの方へ向かって歩いた。

 尽加紗と時国はその背中を見て不思議そうな顔をするが、獄はそんなことをお構い無しにドアの前で話し始めた。



 「時国しぐに君を鍛えるとなれば、まずは『社会科見学』だな。俺と一緒に来いクソガキ…『買い物』すっぞ。」



 獄はそう言い残すとガチャリとドアから外へと出た。

 少し困惑したが、時国も言われた通りに獄の後をついて行くようにドアから出た。




 ────時刻は午後…15時18分。獄と時国の二人はとある場所へと足を運んだ。

 その場所とは、東京を離れて千葉県、船橋駅の目の前にある喫茶店。

 その喫茶店の名は『ViViDヴィヴィッド』…その名前は喫茶店入口のドアの上に看板として掲げられている。

 獄はこの喫茶店の中へ時国を後につけて入店した。


 ドアの開閉と共にカランカランと鳴るベルは、どこか心地よい懐かしい音色である。

 獄は入るなりいきなり会計カウンターの目の前に立ち、ヒソヒソとそのカウンターの向かいにいる店員の

 耳元で囁いた。



 「ホットココアではなくイングリッシュブレックファースト……あと後ろのツレは『社会科見学』だ。」



 それを聞くと店員は「かしこまりました。」と言い、会計カウンターに入る為の入口を開け、獄と時国に「どうぞお入りください」と言わんばかりにジェスチャーを行う。

 獄は颯爽に礼をして時国を連れて入ってゆく。時国はよく解っていない状況である。

 なので無論、時国は獄に説明を求めた。


 「てか、何今の合言葉。てかこの先に何があるの?」


 獄はふふっと笑い答えた。


 「まぁクソ見てろって。」


 獄と時国は厨房にズカズカと入ってゆく。その厨房にはコーヒーを作るマシンや、コーヒー豆を粉にするためのミール(ハンドルを回転させるとコーヒー豆が粉砕される道具)が置かれていたりと、至って普通の喫茶店の厨房の中である。

 しかし一味違うのはこの先である。獄が厨房の先にある『スタッフオンリー』と書かれているドアを開けるとそこには、明るく真っ白い壁の部屋の中に『拳銃』や『散弾銃』、『ナイフ』等の刃物がズラリとショーケースの中に並んでいると言う空間が広がっていた。

 時国は興奮となにこれという興味が心の底から湧き上がった。


 「なんだよすげぇな……てかヤバすぎる…。」


 時国の言葉に反応して獄は説明した。


 「ここは『異門の鍵ゲートキーズ』クソ御用達ごようたしの『武器屋』だ。ここに並ぶのは特殊な技術を用いている武器ばかりで、例えばこれは…」


 獄が時国に並んだ武器の中から一つを見せようとして手に取ろうとした瞬間、部屋の奥のドアからガチャリと黒人の男が出てきた。

 そのドアはこの空間には異様にも似合わない木のドアである。

 出てきた黒人男性の姿は背が高く、茶色いサングラスをかけている。

 スキンヘッドの頭の上にブラウンのシルクハット。青いシャツの上にヒョウ柄のコート、そしてズボンは黒いヘビ柄。靴は光るくらい綺麗な黒い革靴。見るからに『ブルジョワ金持ち』と言う印象を受ける。


 その男はドアから出てくるなり二人に向けて話しかけた。その声は穏やかな雰囲気がある。


 「やぁいらっしゃいブラザー。新しいお客さんを連れてきたのかい? 」


 獄はコートに手を入れて言葉を返す。


 「いや、社会科見学だ。俺の武器の仕入れを見せようと思ってね。この坊主は時国しぐに。俺の後輩だ。」


 次に獄は時国の方を向き話す。


 「時国しぐに…この男は『28ヴェントット・ウェットソン』…この武器屋のオーナーだ。そして俺たちと同じ『異門の鍵ゲートキーズ』でもある。」


 ヴェントットは時国に向けて帽子を胸の辺りに当てる紳士的なお辞儀をし、二人に向けてまた話しかけた。



 「さて、ブラザー達ははどんなモノ武器をお探しかな? ここには最強級の物を格段に安く取り揃えてるよ。ここはまさに、『武器の桃源郷アームズ・エル・ドラド』…なのさ。」



 そう話すとヴェントット二人の方へ歩み出した。

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