第三世界・「ショットガン・&・TNT」

 ────時刻は10時37分。雪は止んでいる。時国しぐにはパトカーの後部座席で目を覚ました。瞬間移動されてから5分後のことである。


 グルグルとパトカーの中を見回し、左の後部のドアから出るとそこに居た警察官に話しかけた。その警察官はひとやも話したあの警察官である。


 「なぁ、あの金髪トレンチコートはまだあの中か?」


 警察官は時国を二度見した。一度中に入って行った男が後ろにいるのだから当たり前である。

 とりあえず警察官は時国に聞かれたことを不思議そうな顔で答えた。


 「あー、えっと、うん。まだ中で戦ってるかな。」


 時国は警察官の言葉を聞くと、お辞儀して礼をした後直ぐさま獄と同じルートで駐車場の中へ入っていった。




 ────時国は駐車場に入ると走って獄と異門獣のいる場所へと向かった。するとそこには、『散弾銃ショットガン』を構えた獄と、片腕を失った異門獣が向かい合わせて立っていた。


 時国は獄に加勢しようとするが、先程の技のよる疲労と、足を引っ張ってこちらのプライドを落とす訳にはいかないと言う理由から今は手を引くことにした。

 しかし戦いの結果は気になって仕方がないので、影で見守ることにした。


 一方、獄の方は時国は後ろで見ていることに気がついてはいない。しかし、見てようが見てまいが、やることは変わらないと芯に決めているのだ。

 獄は散弾銃の銃口を異門獣に向けて話した。


 「…俺の名前、知ってっか? ちまたじゃあ有名な『異門の鍵ゲートキーズ』なんだけどよ、『神門みかど ひとや』ってんだよ。」


 異門獣は鼻で笑って答えた。


 「あぁ、知ってるとも。その名前は俺様たちの間じゃ結構有名な男だz…」


 その時である。

 大きな銃声が異門獣ゲートモンスターの話をさえぎった。



 「あろぉえ!?」



 異門獣ゲートモンスターはその一瞬、何をされたのか解らなかったが、痛みを感じとれる頃には理解していた。

 突如、異門獣が話している途中で、獄は散弾銃のトリガーを引き、轟音と共に無数の散弾を放った。これには見ていた時国も「え?」と言ってしまった。

 当然油断していた異門獣に全てがヒットし、胴体に穴を開けた。もちろん、異門獣は怒った。



 「なぁにすんだテメェぇえ!!! 俺様にぶっぱなしやがったなぁァ!!!?」



 ひとやは絶やさずさらに一発、二発、三発とトリガーを引いた。

 トリガーを引く度に、赤い薬莢やっきょうが地面にコロコロと落ちてゆく。


 異門獣ゲートモンスターの身体のあちこちに小さな散弾がめり込んだ。そしてさらに激怒した異門獣は、残っている右手の丸鋸を普通の手に変化させ、後ろから何かを取り出した。

 それは『物』ではなかった。『人』である。

 その人物は異門獣と同じく黒いライダースーツをみにつけた男である。

 異門獣はその男を獄に向けて突き出し言った。


 「こんの気狂いイカレ野郎!!! これでどうだ…この男は俺を作った『材料欲望』、俺の元となった人間だ!! …『どこまでもバイクでかっ飛ばしたい』、それがこいつの欲望だ。どうだ?これで撃てないだろ!」


 獄は銃を降ろすと、ニヤリと笑った。それを見て異門獣は少し焦りが見えている。


 「あぁ、なるほど撃てないな…。」


 「…へっ、へへへ。そうだろそうだろ?」


 「そうだな。撃てない。そう『撃つこと』は出来ない…。」


 そう言うと今度は散弾銃を地面へ放り投げ、右手で指をさして呟いた。



 「……炸裂せよ、爆裂散弾銃……『天超えた怒りアウト・レイジ』…!」



 すると次の瞬間、異門獣の身体から破裂するような音と共に爆炎が上がった。

 そのバチュウウンという音は、なんとホテル内をも駆け巡った。



 「あぐぅえ!?」



 その爆発の衝撃は異門獣の右手を離し、人質となっていたライダースーツの男を獄の方へと吹き飛ばした。獄は飛んでくるその男をしっかりとキャッチすると、絶賛爆発している異門獣ゲートモンスターに向けて言った。



 「この散弾銃は、着弾した弾を後から爆発させる能力をもつ。綺麗に死ねると思うなよ?」



 爆発が収まると、異門獣の体には五つほど風穴が空いていた。異門獣はその身体を撫で回すように見た後、右手を再び丸鋸に変えて獄を睨んだ。睨むと言っても、ヘルメット越しではあるが。



 「お前…絶対に許さんぞ……もうぶっ殺してやる……『高速移動』…開始!!!」



 そう言うと異門獣はギャルルルルルとバイクのタイヤを回転させ、どこかに消えてしまった。獄はとりあえず様子を見ることに決め、辺りを見回した。

 何も無いことが分かると、次に獄は懐からとある物を取り出した。それは『水の入った瓶』で、栓はコルクでしてある。


 「こいつはクソ高ぇしクソ勿体ないけど…しゃーねぇ。」


 しかし、獄がそう言ってそのコルク栓をキュポンと引き抜いた瞬間である。


 後方からゾワッと、エンジンとタイヤの音を鳴らしながら、高速移動してくる先程の異門獣が現れた。右腕の丸鋸をグルングルン振り回し、獄の首を取ろうと襲ってきたのだ。



 「油断したかぁ?パツキン!! これでお前の首は切り落とされたぁぁぁあ!!」



 ……ジャキンというカナキリ音の鳴る一瞬、獄の首が血液とともに吹き飛んだ。


 「何……!? ぐはぁっ!!」


 「切ったァ!!あいつの首を取った!!」



 獄の首を切り落として間もないこの短い0.1秒の時間。

 異門獣は手応えがあった。確かに首を切ったような手応えが。そして右腕を見ても、真紅に染った丸鋸がそこにあった。


 確信した。手応えを覚えてからわずか三秒間の中、獄を殺した実感がした。



 ……しかしそんな簡単な話でもなく、『現実リアル』は違った。異門獣ゲートモンスターが手応えを感じたその感触はなんと『ひとやの姿をしたダミー』によるものであった。


 さらに詳しく言えば、先程獄が取り出した瓶による効果である。

 そして異門獣の目の前で先程首を掻っ切った獄が、血液もろとも水のようにドロドロと溶けだした。


 「ありぇ? 俺様が確かに斬り殺して……???」


 異門獣は丸鋸を見ながら、わけも分からなず混乱しているようすだった。

 そこへ異門獣後方のコンクリート柱の影から獄が姿を現し、丁寧に説明した。



 「お前が今切った『俺』はこの、『偽の聖水ぎのせいすい』の力によるものだ。この瓶の水は、俺の『分身』を作りだす。中身も匂いも姿形もクソも全てそっくりに。」



 そう話すと獄は懐から『七・CONNECT』の獄札タグズを取り出して破った。今回はその紙切れを両手に一つずつ持ち握りしめる。


 「最後に言い残すことあるかクソ野郎…七番、『空間連結の獄札くうかんれんけつのタグズ』!!!」


 獄がそう唱えると、両拳がぱぁっと青白く発光し、五秒ほど経つと光は治まった。

 異門獣と時国は獄をよく見るとその両拳には『金色のメリケンサック』が装着されていた。


 「装着完了…『衝撃的一撃ショック・ウェーブ』……ファッキングファイナルラウンドってやつだ。」


 異門獣ゲートモンスターは再び構え直す。そして同様に獄も構える。メリケンサックを装着する上で、その構えは『ボクシング』のように拳を胸の前に置くような構えである。

 両者が構えてから五秒後、先に動いたのは異門獣の方である。


 異門獣ゲートモンスターはヴヴンとエンジンをふかして丸鋸を高速回転させると、一心不乱に獄の方へと走りだす。そのスピードは時速90kmを超え、目にも止まらぬ速さでどんどん二人の距離を詰めて行く。


 異門獣の丸鋸の刃が今度こそ獄の首根っこを掻っ切るまで後3mmに迫ったその瞬間、獄も動きだした。


 なんと獄は、迫ってくる丸鋸の刃を下から突き上げるようにブンっと『アッパーカット』を放った。しかし異門獣は攻撃をやめず、痛がることも無く不敵な笑みを浮かべた。


 「ギャハハハハ!!! そんなパンチ如きで俺の丸鋸が壊れると思ったかぁ!? 腐っても俺様は『異門獣ゲートモンスター』だぜ!!!」


 異門獣は笑いながら獄に言い放つ。しかし、その笑いは異門獣の顔から一瞬で消えることとなる。


 突然、ピキッという何かが割れるような音が異門獣ゲートモンスターの耳に入った。


 異門獣はその音を聞いた瞬間、笑みを浮かべるのをやめ、むしろ不安げな表情になった。そして恐る恐る音のした方に顔を向けた。

 その音の正体は惜しくもパンチを受けた右手の刃である。


 「……えっ……んなヴァカな……。」


 それを見た異門獣は驚愕した。なんと丸鋸は、『粉々に粉砕』されていたのだ。時国の真っ二つより達が悪い。

 とてつもない激痛なのか、手を失ったショックか。はたまたどちらもなのか、異門獣は刃の消えた右腕を上にあげ叫び出した。



 「うぅぅぅごぎゃぁぁぁあああ!!!! また手がぁぁぁぁあ!!!」



 獄はその状態の異門獣をなんの躊躇もなくまた殴りつけた。今度は異門獣の顔めがけて『ストレート』を放つ。


 半ば不意打ちの攻撃は丁度異門獣の顎にヒットした。すると異門獣はその感触に違和感を覚えた。

 何かが身体の中で『ウネウネと動く』ような感触である。身体の中な『波』のようにも『虫』のようにも感じられるその感触。

 そして体に響く、ドドンドドンというような太鼓のような音。


 異門獣は何となくあのメリケンサックの名前からその正体の予想が着いた。


 「……『衝撃』…? 身体の中でそれが反響しているってことか…?」


 獄は「ピンポーン」と言うと、両手でぱちぱちと拍手をし笑いながら話した。


 「正解だぜ。今お前の中でクソほど『衝撃波』が駆け巡っている。これが『解放』されたらあの『丸鋸の刃』みてーに粉々になってお前は散る……。」


 獄はそう言うと出口の方へ歩いた。異門獣は身体の中で音がでかくなっていくのに不安になりながらも、獄を追いかけた。


 しかし、突如ピタリと異門獣の動きが止まった。異門獣が止めようと思ったのではなく、『止まって』しまったのだ。

 エンストか? いや違う。それなら異門獣自身解るはずだ。

 答えは異門獣の後ろにあった。異門獣がクルリと後ろ、『後輪』に首を動かすと、なんとそこには『二つのコンクリート柱がバイク部分を挟み込んで動けなくしている』状況が目の前にあった。


 「な、なんだこれは……!? 俺様のバイクが二つの柱に挟まれて動けなくなっている!!」


 出口から外へ出ようとする獄は最後に異門獣へ言った。


 「お前はあと十秒後に爆散して散る。それなのに外へ出たら周りがクソ汚れちまうだろ?」


 獄は懐から二枚の『獄札』を出して異門獣屁見せた。その二枚の獄札には『八・COMBINATION』と書かれており、裏にはそれぞれ『αアルファ』と『βベータ』が書かれている。



 「この『獄札タグズ』は『結合の獄札けつごうのタグズ』…。αとβの二点をクソほど『強引に』引き寄せ連結させる。どうしてもくっつこうとするその間に挟まれれば、動きは封じられる……大人しくそこで散るがいいクソ野郎。」



 獄はそう言い残し出口から去っていった。時国もそれを追いかけるように出口から外へと出て行った。

 一方異門獣はというと、その出て行った二人の背中を見ながら静かに、そして誰にも見られることも無く『爆散』し、辺り一面を『真紅』に染め上げたのだった。



 ────二人が外へ出ると、その出口の目の前には警察官達と先程はいなかった『白髪の男』が一人立っていた。

 その男は獄よりも身長が高く、190cmは下らない。白髪の七三分けで、青色のダウンジャケットを前のジッパーを閉めて着ている。ズボンはアロハな柄で派手な赤色の短パンという、季節感ごちゃまぜの服装である。

 その男は獄を見るなり話し始めた。その声は見た目とは裏腹にダンディで落ち着きのある声である。


 「……よォ元気そうだな神門…。俺を忘れたとは言わせないぞ。」


 獄はへへっと笑いながら答える。


 「忘れるわけねぇだろクソジジイ。いや、『先生』……。」


 獄が先生と呼ぶその男はぐーっと伸びをしたあと、話を続けた。


 「……どうだ…一杯ひっかけながら話でもしないか。奢るぞ。先に言うが、その『時国ガキ』についての話だ。」


 獄はそう提案されるとトレンチコートのポケットに手を突っ込んで首を縦に震る。



 「いいぜ『先生』……名前で呼ぼうか? 『いかり 尽加紗つかさ』先生。」



 尽加紗と呼ばれたその男はフッと笑って獄と一緒にホテルの敷地内を出た。

 時国はこの二人のやり取りを見て、背筋に冷たいものが触れたような気分がした。

 なぜなら……



 「な、なんで神門 獄は……俺の『先生』と仲良く話してんだ……??」



 時刻は11時。時国は不思議に思いながら二人の背中を追いかけた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る