第一世界・「異門の鍵よ。」
────1997年の『
……そんなザーザーと雨音弾ける今日昼頃、突然その音よりも遥かに大きな爆発音が周り一帯に鳴り響いた。
その音を聞いた人の行動といえば、大抵が大きな音に対する恐怖で逃げ惑うか、野次馬がガラケーや、普及し始めたスマホ片手にその音源を撮影しSNSにあげるの二つである。
そんな人々を混乱させる爆発音の音源は、浅草寺の近くの大通り沿い、二階建ての中華料理屋である。
赤い看板に黄色い筆で『
店の前には数台のパトカー、消防車、そして野次馬をまるで後ろから押すように避難させようとする警察が数十人程度。
人集りからは押すな押すなと怒号が飛び交っていた。
「お、押すなよ!!」
「私は押してないわよ!!」
「尻触るな!! セクハラで訴えるわよアンタ!!!」
そんなワラワラと流れるその人混みをよそに、真っ赤に燃える炎の中から『何か』が瓦礫を掻き分けるように、ザッザッと歩いて大衆の前へ出てきた。
のそのそと歩く『それ』の風貌は人型ではあるが、人間では無い。焼けこげた死体のようかと言われても、それとは似つかない姿である。
謎の人型の頭部はまるで『蜘蛛』の頭部。それに加えて眼は左右に三つづつ、蜘蛛の目と同じ場所に配置してある。しかし蜘蛛の眼ではなく、人の眼のままなので気色が悪い。
首から下は人間のようだが、皮膚は黒くモサモサの毛で覆われており、手や脚はその毛に加えて鋭い爪を有している。
そして最も特徴的なのは、蜘蛛のように肥大化した
これらの特徴から見て、まるで『蜘蛛人間』である。
そんな蜘蛛のようなモンスター、蜘蛛人間は炎から出るやいなや、大衆に向けてなにか叫び出した。その声は人間の男そのままである。
「うぅおおぉお!!……お、俺とぉ…お、お前は『赤い糸』で結ばれていたはずなのにぃ!!……この思い出の店でぇ!!……デートしたのにぃ!!!!」
そんな謎の主張をした後、蜘蛛人間は自身の毛で覆われた手を一台のパトカーに向けた。すると、そのモンスターはボソリと呟いた。
「……なるほど、だからまた繋げばいいんだ……『赤い糸』を……。」
そう言うと、向けた
糸をパトカーのドアに引っ付かせると、次に蜘蛛人間はとてつもない怪力でパトカーを宙に浮くぐらいに、ブンブンブンと振り回し始めた。
赤い糸の強度は凄まじいのか、切れる様子はない。
その様子を見ていた大衆は、キャーキャーと悲鳴をあげて出来るだけ遠くへと逃げ始めた。これには野次馬も屈したようだった。
蜘蛛人間は上を向き、パトカーを振り回しながら高らかに叫び始めた。
「ウォオオオオオオオオォオオオ!!!!」
───こんなパトカーを振り回す化け物がいるなんて状況、普通の人間にはとても、何も出来ない場面である。しかし、ここに突如一人の男が現れることで展開は変わる。
その男は革靴をコツコツと鳴らしながら通りを歩いてくると、その蜘蛛人間に向けて言葉を投げかけた。
「……よォ、クソ真っ昼間っからご盛んなこったねぇ。」
その言葉に蜘蛛人間も反応した。
「だ、誰だぁ……い、い、今の声は……。」
現れた男の格好、頭は金髪、白いシャツの上にブラウンのトレンチコート。膝にダメージのあるジーンズに革靴。……そして右手に日本酒の
このラフでふざけた態度の男は瓶の中の酒を口いっぱいに含んでから飲み込むと、また化け物の方を向いて話し始めた。
「……俺の名前、知ってるか?
……『神門 獄』…この男の名前を聞いた途端、大衆も、警察官も動きが止まった。無論、化け物も。
それもそのはず、彼は凄腕の『
───『
この事件の爆発により、
この化け物を通称『
異門獣は、爆発した『
そして異門獣は、『取り憑いた人間の願いや欲望を強制的に、強引に叶えようとする』性質があり、その叶える過程で死傷者が多発する事件が発生してしまうのだ。
今のところ、なぜそんな欲望を叶えようとしているのか、そして目的はなんなのかというものは、未だ解って居ない。
……そんな危険な異門獣を『発見、捕獲、駆除』するのが『
今回の場合はこの蜘蛛人間……『
それは『神門 獄』(以降、『
そして獄は、25歳ながら二年間にわたり数々の異門獣の事件を解決し、駆除をしてきたスペシャリストなのである。
『蜘蛛・異門獣』は、先程の獄の名前を聞くとパトカーをガシャーンと地面へ落とした。すると数秒と言う短い時間の中で頭いっぱいに
(あ、あれが例の……孤高の、それも至高の『異門の鍵』が現れたとなれば……俺は……ばぁ、ば、『
そう考えた蜘蛛・異門獣は、先程の威勢とは裏腹に逃走を図った。
「し、し、死んでたまるかよこんなとこで……!!」
蜘蛛・異門獣は大通りの向かいにある建物に向けて、赤い糸を放った。そして強い力で着弾した糸を引くと、まるで空を飛ぶかのように高く飛び上がった。
その様子はどこか『スーパーヒーロー』のように見えた。
それを見た獄は呆れた顔で、懐から何かを取り出した。それは1枚の縦長長方形の紙……『おふだ』のようなものである。
その『おふだ』には赤い線で縁取られた四角の中に縦書きで『六・BIND』と筆で書かれている。
「はいはい、クソッタレ……なるほど、このパターン……ね。」
そして獄はその紙を凝視したあと、ビリリィっと思い切り二つに破き始めた。
獄はその紙を右手の中に集め握りしめると、その手を飛んで行った蜘蛛・異門獣の方へ向けて言った。
その声は大衆にも、警察にも聞こえるような声である。
「……六番…『
すると次の瞬間、握りしめた右手を開くと、
その縄は素早く一瞬のうちに蜘蛛・異門獣の胴体をグルグルに縛り付けた。
蜘蛛・異門獣も思わず驚きの声を上げた。
「んなぁ!?」
獄は縛り上げたその縄を両手で思い切り引っ張った。すると、一瞬で縛り上げた蜘蛛・異門獣を獄の目の前へと
「な、何が起こったんだ俺に……確かに飛び上がって……いつの間に縛られた……?」
縛られたまま倒れ込む蜘蛛・異門獣に獄は話しかけた。
「どうだ今の気分はクソ野郎。」
「こ、これを見ていい気分なわけないだろ。」
獄はガハハと笑うと、これまた懐からお札を取り出して今度は蜘蛛・異門獣の胸辺りに貼り付けた。
この御札には、『三・DYNAMITE』と書かれている。
「こ、今度はなんの…か、紙切れなんだ……?」
「俺が使ってるこのお札は俺のお手製…『
そう言うと獄はその
そして火をつけ終わると、立ち上がり大衆の方へ向かって歩き出した。その様子を見て蜘蛛・異門獣もつい動揺してしまった。
「お、おいなんだよこれ!! 何をするんだ外せ!!」
獄は聞く耳を持たなかった。その声を無視し、ただ人混みの中を歩いて行った。その歩く後ろ姿を大衆は色んな表情をしながら見ていた。恐ろしさや、不思議さ、色んな感情が入り交じっていた。
「おい何したんだって聞いてるんだ!!! 応えろよ!」
獄は歩く。そして貼った
「……三番…『
すると、蜘蛛・異門獣の身体が青白く発光し、次の瞬間、爆炎を上げながら轟音と共に、毛の一本も、跡形もなく爆散した。
獄は片手に持っている酒を飲み、立ち上がった黒い煙をチラリと横目で見たあと、その場を颯爽と去っていった。
「こりゃ汚ぇ花火だな……酒の
この男の心の中に、罪悪感はは無かった。異門獣は、ただ人の欲望に取り憑き、それを具現化するように変化した存在。殺人ではない、世界が認めた仕事なのである。
それに、神門 獄はこの異門獣や憑霊に対し、一つ『恨み』があるのだが、それはまた今度のお話。
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