49話 ララベルのスキル講座

 桜の両親は仕事のためここで別れることとなった。夕方にマンションに迎えに来ることになった。駐車場まで歩く道中桜が不安そうにしていたがフェイリンがフォローしていた。


「大丈夫アル。一緒に住むことになるしパーティも組むネ。ワタシたちと仲良くするアル」


「は……はい~…」


「何か好きな物とかないネ?」


「ま…漫画とか……アニメが………」


「………漫画?」


 意外にもプリシラが食いついた。社会勉強で少しだけ触れていたため知ってはいたがまだ読んだことはなかったのだ。フェイリンはこれ幸いとプリシラにも話を振る。親睦を深めるちょうど良い機会だと思ったのだ。


「お! プリシラも漫画好きネ? ワタシもニッポンの漫画好きヨ」


「………まだ読んだことはない。そういう物があるということは知っている」


「ワタクシも日本の漫画やアニメが好きですワ。面白いですワよね」


 エヴァも食いついてきたため話題は漫画やアニメになった。話しながらリムジンに乗り移動中も話していた。桜は周りに仲間がいると思いプリシラに自分の好みを布教しようとしているのか早口で何が面白いかやどういった物があるかなど話していた。プリシラが無表情でずっと聞き続けるため桜は止まらなかった。若干エヴァとフェイリンは引いていたがお薦めの漫画など言っていたため今度読んでみようと思い聞いていた。


 そしておどおどしていた桜が嬉しそうに話しているのを見てパーティ内でのコミュニケーションも取りやすくなるだろうと思い止めなかった。エヴァもフェイリンもパーティメンバーのコミュニケーションは大事だと知っている。エヴァは日本に来た境遇からもよくわかっていた。なのでエヴァとフェイリンは話に入り桜との仲を深めることにしたのだ。


 一方で遥と晶、秘書の樹里と担当の楓は話についていけなかった。仲良くなるならそれで良いかとスルーした。


 車内で桜が漫画の話をマシンガントークし続けていたがマンションに到着した。


「OH! Raccoon Dog!」


「クゥ!」


 マンションの一階ロビーでプリシラがエレベーターに向かわずソファーが置いてある方に向かうためエヴァが気になってついていくとそこにはタヌキのポンコと丸顔三毛猫のマルルがいた。猫は珍しくないためタヌキに食いついた。プリシラが抱っこしているポンコの頭を撫でている。


「に゛や゛あ゛あ゛~」


「凄まじいダミ声アル」


「でもこの子可愛いのよね」


「可愛いですね~」


 結局全員でしばらくロビーにいた。珍しいタヌキが居るため仕方ないだろうとしばらく動物たちをモフらせてからプリシラの住むペントハウスへ移動した。初めてくるエヴァ、フェイリン、桜はあまりの広さに驚いている。中の見学もほどほどにリビングでソファーに座り入居の予定などを話す。


 エヴァは今はホテル暮らしのため明日に荷物を持って入居。フェイリンは借りてるマンションがあり業者に引っ越しを依頼。本人は最低限の荷物を取りにいくため明日から入居。桜は冬休みのためいつからでも来れるが最低限の荷物と準備がいるため明後日から入居になった。


「それじゃ~必要な手続きは私たちの方でやっておきますのでぇ~皆さんは探索者の活動に専念してくださいねぇ~」


 楓が担当のためこういった雑務は楓が担当する。


「今日はこれからはどうするネ? ご飯でも食べに行くアル?」


「ご飯もいいですが、ワタクシはスキルについてプリシラさんに聞きたいですワ」


「………簡単に言うならスキルのレベル上げとスキルの精度を上げる練習をしてもらう。ここからは私よりも詳しいララに説明してもらう」


「ララって誰アル?」「ララ?」「え?」


「皆驚かないでね……無理でしょうけど……」


「あれに驚くなっていうほうが無理ですよぉ~」


 遥が注意を促すが諦めている。遥からすると普段のプリシラからいきなりララベルに変わると誰もが驚くだろうとわかっている。この中では社長の晶と秘書の樹里もまだララベルと話していないため驚くことだろう。


 そしてプリシラの無表情が満面の笑顔に変わりララベルが喋り出した。


「はじめましてー! 私がララことララベル・ジニアスフィーでーす! よろしくねー!」


「誰ですノ!?」「ふええええええ!?」「誰アル!?」「え?」「ええーーー!?」


 全員が予想通り驚愕の声を上げた。誰もがこの変化量には驚いている。今までに例外はいない。


「こっちじゃ二重人格って言うんだってね。私は普段は出ないけどプリが聞いてる内容は私も知ってるからねー」


「「「「「………」」」」」


「遥~。皆固まっちゃったよー」


「そりゃあプリシラの無表情の喋りから満面の笑顔で元気に話したらそうなるわよ」


「私もまだ慣れませんねぇ~」


「これが私なんだから仕方ないじゃん?」


「はっ! 驚きすぎたアル!」


 フェイリンが最初に正気に戻ると周りも続々と元に戻った。


「さーて! もう大丈夫かなー? 改めて自己紹介するけど私がプリの中に入るもう一人の魂、ララベル・ジニアスフィー。種族はエルフで年は308か9くらい。ジョブは賢者だったよ。あー先に言っておくと後天的にプリの中に入ったからね。それで今はスキルの話をするよ」


 気になることはあるが後で言われてしまい聞くに聞けない。遥以外の全員が自分に言い聞かせた。


「まずスキルのレベル上げ。確認なんだけどこれは私たちの世界だと使い続ければ上がってたんだけどこっちだとどうなの?」


「ジョブレベルも関係すると言われてるけど使い続けていると上がるのは同じだと思うわよ」


「イギリスでもそうでしたワ」


「香港でもそう言われてたアル」


 3カ国で同じ内容の意見が出たためララベルは同じと判断した。


「じゃあ同じとして話そう。スキルの威力ってどうやって決まるか知ってる? といっても基本スキルレベルなんだけどね。魔力をどう使うかもよるけどそれは置いておこう。ここで問題。スキルツリーの4段階目のスキルレベルが5の人が二人いるとする。一人は1~3段階目のスキルレベルが8。もう一人は1~3段階目のスキルレベルが5。スキルツリー4段階目のスキルを撃った時威力が高い方はどっちでしょう?」


「話の流れからしてスキルレベルが8の方よね………」


「どう考えてもそうなるネ……」


「8のほうでしょうけド………まさか……」


「?」


 遥、フェイリン、エヴァはララベルが何を言おうとしているのか察したのか少し表情が固くなった。桜は詳しくないため良くわかっていないが問題の流れからして当たり前じゃないのかと思っている。


「何となく察したみたいだね。まあそういうことだよ。単純にスキルレベルが全部高い方が威力が出るんだよ。魔力……じゃないMPの込め方とか魔力の強さでも変わるけどね。だからスキルツリーの1段目と2段目が低い子は書類で落としたんだ。乱入してきた勇者とか賢者が良い例だね」


「……これって…情報出回ってるかしら…少なくとも自衛隊には無い情報なんだけど……」


「イギリス軍にもありませんでしたワ………」


「とんでもないこと聞いてしまったアル………」


「だけどねーこれ私たちの世界での話なんだよね。その辺りは要検証かな。でも高い方がいいと思うからやってもらうよ。というか練習で嫌と言うほど使うから上がると思う」


 ララベルの話を聞いて焦った面々だがまだわかっていないとのことで一安心した。地球ではスキルレベルを上げる訓練をするよりもジョブレベルを上げた方が良いとされている。ステータスが上がれば自然と威力が上がるし他の能力も上がるからである。また、実戦で使い続けていけば自然とスキルレベルは上がるし金も稼げるからだ。スキルツリーの段階を上げるにはジョブレベルとスキルレベルの両方が関係するが実戦で戦っていけばどちらも満たせてしまう。


 戦いながら使っていけば上がる一石二鳥の実戦方式と、スキルレベルを上げる訓練してからの実戦方式とではジョブレベルが上がる時間が違い過ぎるから地球では一石二鳥の実践方式が主流である。多少訓練はするがそれくらいである。


 研究者の中にはこういった研究をしている者もいるがあまり上手くはいっていないのが現状だ。


「それで後天的にスキルオーブで取得したスキルはレベルが上がりにくいって言われてるよね? 理由は確かジョブが持ってるスキルじゃないからってのが有力な説だよね」


「そう言われてるわね。私も風魔法のスキルオーブ使ったけど上がりそうに無いわね」


「ワタシも雷魔法のスキルは後からスキルオーブだったネ。なかなか上がらなかったアル」


 フェイリンはすでに経験があったためレベルの上げづらさを実感していた。


「私たちの世界だとそうじゃないんだよね。ジョブレベルによってスキルレベルが上がりやすいレベル帯があるんだよ。それも検証したいんだよね」


「……もし地球でもそうだとして威力がスキルレベルに関係していたら探索者界隈はひっくり返りますわネ」


「上位のジョブほどスキルツリーが多く解放されるものね。後から使えるようになるスキルの方が威力高いからどうしても初期の方のスキルって使わなくなっていくのよね」


「もしかしてワタシ身体強化ヤバいアル?」


「あーフェイリンはひたすら身体強化上げて貰うからねー♪ 体の感覚変わるから嫌だろうけどあれないと先々話にならないからね!」


 フェイリンはすでにレベルが260と高レベルだ。しかし身体強化のレベルは2と低い。そのためララベルの言う理屈だとこれから上げるのは非常に困難だ。


「スキル練習は嫌でも頑張ってもらうからね。スキルレベルを上げるのと精度の両方を頑張ってもらう」


「スキルレベルはわかるのですが、精度ってどうするんですノ?」


「ただスキルを使うんじゃなくてMPとかの消費量を調整してもらうよ。こんな感じ」


 そういってララベルは左手を前に出し掌を上に向けて水魔法のスキルを発動する。すると水球が一つ現れ徐々に大きくしていくと思えば今度は徐々に小さくしていった。


「こんな感じでMPの消費量で大きさを変えられるんだよ。ここまで滑らかに変えられるようにならなくても良いんだけど、最低30段階くらいにわけられるようになってもらいたいね。理想は50以上欲しいかな」


「調整することは少しだけしたことがありますワ。でも5段階くらいしか……」


「あの~……それは必要なんですか~?」


「うん。必須だね! これが出来ないとお話にならないかな! 私たちの世界だとね!」


「このあたりで一旦まとめましょうか~」


「大体伝えることは伝えたからいいよ~」


 楓が一旦区切りをつけるためにまとめに入る。この場には探索者ならわかる話がわからない者もいるため情報を整理することにした。


「簡単にまとめると~



 スキルのレベル上げ

 スキルレベルによる威力の検証

 ジョブレベルにおけるスキルレベルの上昇度の検証

 スキルの精度向上



 の4点ですかねぇ~?」


「大体合ってる!」


「こうやって箇条書きで見ると半分は実験なのね」


「最初にそう言われておりましたから構いませんワ。むしろ楽しみです」


「これ多分桜が物凄く苦労するアル」


「え…そうなんですか?」


「………私の予想だとフェイリンが一番精神的に辛い。その次にエヴァが辛い」


 ララベルからプリシラに変わったため何人かが驚いているがすぐにプリシラに変わったと察したようだ。


「ワタシが苦労するネ?」


「………フェイリンはレベルが260ある。フェイリンには身体強化のレベル上げが絶対に必要になる。でも今身体強化のレベルは2。3にするには途方もない時間がかかると思う」


「そ……そういうことアルか………頑張るしかないアル」


 がっくりと項垂れるフェイリン。だがもう契約書にはサインしているし、口約束だが実験台になると約束している。


「………それで晶。手に入れてもらいたい物があるのだけど、それにかかる費用はどうすればいい?」


「プリシラさんたちのために予算は確保してあります。武器や防具はお金がかかりますからね。といってもしばらくは必要なさそうですがね。一応今の所5億程度は確保してありますよ」


 スポンサーである日本ALICE FOODSはプリシラにCMに出てもらったおかげで今月はまだ十日ほど残っているにもかかわらず過去最高月収を記録している。各地の店舗で売り切れが続出したほどである。


「私の仕事ですねぇ~何をお求めでしょう~?」


「………スキルオーブを手に入れてほしい。種類は炎魔法と地魔法と水魔法を一つずつ、それと身体強化を二つ」


「ふむふむ~。ちょ~っと市場を調べますので~お時間くださいねぇ~」


「………別に急ぐ必要はないからゆっくりでいい」


 楓がタブレットを取り出し探索者協会が運営している売買サイトを確認していく。探索者協会で買い取った物をインターネットを通じて販売している。他にもオークションなども開催されている。こちらは探索者が協会を通じて出品している。当然高値の物が多い。スキルオーブはドロップ率が低く高値で取引されるため基本的にはオークションに出品されている。


「ねぇプリシラ。そんなにたくさんのスキルオーブは誰が使うの?」


「……桜とエヴァに使ってもらう。桜が炎魔法と地魔法、エヴァが水魔法で身体強化は二人とも使ってもらう」


「後衛に身体強化は珍しいですワネ」


「あ………やっぱり私も大変なんですね………」


 エヴァは探索者歴が長いため身体強化に食いつき、桜は自分が闇属性以外にも二属性スキルレベルを上げないといけないことが分かってがっくり肩を落としている。


「………後衛も動けるようになってもらわないと困る。前衛に守られるだけでは使い物にならない」


「その通りですワネ。動ける後衛と動けない後衛。どちらが良いかなんて考えるまでもありませんワ」


「それで風見さんは何でそんなに魔法スキルが必要なの?」


「……先々を考えると取っておいた方が良い。あとは属性のバランス。パーティに私抜きで七属性揃うようにしてある」


「先々のことはわからないけど考え合ってなのね」


(プリ。軽く見せた方がいいんじゃない?)


 ララベルがプリシラに助言する。周りを見てもどうにも納得していない感じをララベルは感じだのだ。スキル練習の精度を上げると言うことも全員いまいち良く分かってなさそうだった。ならば目標の一つとして見せた方が納得してくれるだろうと思ったのだ。百聞は一見にしかずである。


「………目標点の一つを見せる」


 プリシラは右手を伸ばし掌を上に向けてスキルを発動する。するとそこに黒いファイアーボールが浮かび上がった。全員が口を大きく開けて驚いている。タブレットでオークションサイトを見ていた楓も思わず手を止めて見入っていた。


 全員が固まってしまったのでスキルの発動止めた。


「………今のが目標点の一つ。スキル合成。今のは炎魔法のファイアーボールと闇魔法のダークショットを合成させたもの。合成させるには緻密な精度が必要になる。だから精度を上げる訓練が必要」


「……見たことのない魔法スキルだったわね」


「さすがに驚いたアル」


「あんなスキルはイギリスでも見たことも聞いたことありませんワ」


「……そんなに難しいんですか?」


「………難しくなければ精度を上げる必要はない。あと危険だからララが指示するまでは絶対に真似しようと思わないで。命に関わる」


「ふえぇぇぇ……」


 命に関わると言われて泣きそうになる桜。だがもう契約してしまっているし口約束で実験台になると了承してしまっている。


「………ちゃんと練習すれば安全にできるから大丈夫」


「はいぃ~……」


「スキルオーブありましたよぉ~」


 桜が泣きそうになっているが楓タイミングよくスキルオーブを見つけたようだ。タブレットをテーブルに置いて皆に見せる。


「炎魔法と地魔法が今オークションに出てますねぇ~二つとも期限は二十五日の正午までです~」


「………問題ないなら入札して確実に手に入れて欲しい。水魔法と身体強化は?」


「そっちは日本の探索者協会のオークションにはありませんでしたねぇ~。海外にあるかもしれないので調べますねぇ~。水魔法は特に人気なので難しいかもしれないです。でもプリシラさんならダンジョンに取りにいった方が早いかもしれないですねぇ~」


「ドロップは………ああ、神様に踏破報酬でお願いするのね」


「そういうことですぅ~」


 遥がドロップ率の低さを指摘しようとしたがすぐに踏破報酬に気づいた。いくつ出してもらえるかわからないがドロップを期待するよりはいいし出品を待つよりも現実的だ。スキルオーブをもらったと言う記録もある。ちょうどエヴァとフェイリンを連れてダンジョンに行く予定があるためその時についでに踏破することになった。


 そして今後の予定、年内の予定を話す。桜がまだ高校生のため年明けからは来れないかもしれないがもう三年生のため出席日数と先生方との相談次第になった。年内と年初めは冬休みのためこちらに参加できる。年明けは三日からトレーニングを開始することで決まった。


 フェイリンは引っ越しで一、二日離れるかもしれない。業者に依頼するとはいえ本人が必要な場面もあるだろう。


 エヴァは特に何もないため訓練をするのみとなった。遥も特になしである。


「それじゃあまとめるわよー。十二月二十二日には全員ここに揃うからその翌日からね。



 十二月二十三日はダンジョンで軽く体を動かすのとスキルの練習法を軽くやる

 十二月二十四日からプリシラとエヴァ、フェイリンの三人は渋谷のBランクダンジョンに三十日まで潜る予定

 私と風見さんはダンジョンでスキル練習

 年明け三日からは全員でスキル練習。ただし風見さんは学校があるから卒業までは出席日数と相談



 こんなところかしら?」


 遥が口頭でだが今後の予定のまとめを話す。楓がその内容をタブレットに記録している。


「……ん。問題ない」「何も問題ないネ」「了解ですワ」「わかりました」


 パーティメンバー全員の確認が取れたため今日の打ち合わせは終了となった。その後全員で食事に行った。遥が少しエヴァやフェイリンと距離があったが食事で打ち解けたようだ。食事が終わり今日は解散となった。

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