48話 顔合わせと契約
十二月十七日。採用メンバーに通知がされた。不採用だった者にはお祈りメールが届いた。SNSでは誰が受かったのかで盛り上がっていた。採用メンバーはパーティに入る意思確認のため十二月二十日に日本ALICE FOODS本社に集まることになっている。プリシラと遥は担当の楓と共に本社まで来ていた。
応接室で待っていると社長の赤木晶が秘書の上野樹里と共に来た。
「しばらくぶりですね。本日はわざわざ本社まで来ていただきありがとうございます。個性的な面々が採用で驚きましたよ」
「………ん。別に良い。ここならハンバーガーを食べられる」
「ハンバーガー食べに来たんじゃないのよ」
採用された者たちが来る時間まで少しあるので晶と雑談していると、全員到着したようで連絡があった。
「わかったわ。私たちも会議室に向かうわ。第三だったわね?」
『はい。第三会議室です』
「どうやら三人とも到着したようです。行きましょうか」
晶に促され席を立ち全員で第三会議室へと向かう。
会議室に着き部屋に入ると三人が指定の席に座っていた。一人は高校生のため両親が同伴している。
プリシラたちも席に着く。遥はプリシラたちとは反対側の席に座った。遥も選考会に参加しての採用だからだ。
「お待たせしました。日本ALICE FOODS社長の赤木晶です。まずは皆様選考会お疲れ様でした。そしてここにいる4名の皆様、合格おめでとうございます。まずは軽く自己紹介から行きましょうか。プリシラさんからどうぞ」
指名されたため座ったばかりだったが立ち上がり自己紹介する。
「………Cランク探索者のプリシラ・プリミエール」
「………もうちょっと喋れませんか?」
晶にもっと喋れと言われて渋々だがプリシラは口を開いた。だがその内容に遥以外の者全員が驚いた。
「………ジョブは聖魔拳王。レベルは495」
「495!?」「嘘ですワよね……」「そんなに高かったんですね……」「うそ……」
遥だけは知っていたため驚くことなく口を開いた。
「あれ? 公開してなかったっけ?」
「……してなかったはず」
「じゃあ~……皆さん! 探索者にとってレベルは大っぴらに公開なんてまずしません。自衛隊が異常なだけです。なのでこのことはオフレコでお願いします」
慣れている遥が全員に公開しないようにお願いする。公開するとまた騒ぎになるだろうと思ったのだ。
「オホン! では次にいきましょうか。一条さんお願いします」
「はい。えー知っている方がほとんどかと思いますが陸上自衛隊ダンジョン探索科所属一条遥二尉です。ジョブは剣王でレベルは125です。自衛隊からの出向という形でプリシラのパーティメンバーに入ります。よろしくお願いします」
遥は自衛隊の広報などで広く顔が知られている。この場で知らなかったのは遥の横に座っているイギリス人の女性だけだった。
「では、次に一条さんのお隣の方」
「はい。イギリスから来ましたエヴァンジェリン・ナッシュですワ。長いのでエヴァとお呼びください。ジョブは聖女でレベルは180ですワ。採用していただいたこと、とても光栄ですワ。何卒よろしくお願いしますネ」
少し変なお嬢様用語だが流暢に日本語で話したことに何人かは驚いた。何よりも彼女の見た目は日本ではとても目立つ。女優のように整った顔立ちで腰くらいまである金髪で身長は180センチほどありモデル顔負けのナイスバディをしているのだから。
「どんどんいきましょう。次の方」
「私は香港出身のリュウ・フェイリンアル。フェイリンでいいネ。ジョブは槍術師でレベルは260アル。採用されたからには頑張るネ」
面接の時と同じように着飾ったチャイナ服で来たフェイリン。日本でチャイナ服などコスプレくらいでしか見ないため彼女も目立つ。起伏の激しい体で生足を惜しみなく披露している。斜め後ろに座っている同伴で来た父親は気まずそうである。
「では、最後の方」
「は…はい! あの……えっと…風見桜です……えと…ジョブは暗黒…魔導師で………レベルは……4です。その……………頑張りましゅ」
「桜の父の風見聡です」「母の風見日向です」
「はいありがとうございます。こちらの者は私の秘書の上野樹里です。その横にいるのはプリシラさん担当の真田楓です」
「「よろしくお願いします」」
全員の自己紹介が終わり晶が話を進める。
「改めまして本日はお集まりいただきありがとうございます。本日は皆さんの意思確認がメインとなります。皆様プリシラさんのパーティに加入ということでよろしいでしょうか?」
「私は最初から決まっていたようなものですから」
「もちろん加入しますワ!」
「そのために来たアル」
「は……はい……」
全員が晶の問いに答えるが、晶はまだ確認しなければいけないことがあった。
「プリシラさんからも確認しなければいけないことがあると聞いていますがその前に、風見さんはご両親にも確認させてください。あなたはまだ高校生ですからね。ご両親のお二人は娘さんの探索者活動をどう思われますか?」
晶の問いに父親が一度母親の方を見てアイコンタクトする。母親が頷くと父親が話し出した。
「個人的には反対なのですが……娘がどうしてもと言うものでして……娘がここまでワガママを言うのは初めてなので認めてはいます。ですが、高校を卒業するまでは探索者としての活動は控えていただきたいです。せめて、卒業式だけは出席させてあげたい。一度しかないことですから」
「一度しかないものですからね。プリシラさん。まだ探索者活動の計画を聞いていないのですがどうですか?」
「………卒業式というのがいつかは知らないけれど、2、3ヶ月はダンジョンを攻略するつもりはない。その間はスキルを練習してもらうつもりでいる。でもスキル練習のためにFランクかGランクのダンジョンの1階層には入ってもらう」
「だそうです」
桜の両親がもう一度顔を見合わせてから今度は母親が口を開いた。
「卒業式は三月の初めです。命の危険があることはわかっています。保証できないことも。娘をよろしくお願いします」
「………命の危険を減らすための訓練期間だと思えばいい」
両親はプリシラの方針に反対意見はないようで任せることにしたようだ。
晶が切りがついたと判断して口を開く。
「私からもご両親と桜さんにもう一つ確認させてください。プリシラさんのパーティメンバーとなる方は公表するつもりです。彼女は目立ちますから遅かれ早かれ皆さんも注目を浴びることでしょう。ですが、桜さんはまだ高校生です。公表することで学生生活に「公表してください!」」
晶がまだ喋っている途中で桜が声を上げた。本人は公開してもらいたいようで声を上げた。
「あ………その…公表してもらって……構いません」
「桜………いいのか? 卒業してからにしてもらったほうが……」
父親も気を遣って聞くが桜は首を横に振った。
「スキル練習とかで…一緒にいるところは見られると思うから………隠すよりは……公表して欲しいです」
「確かに……隠していて発覚した時の方が騒ぎになりそうですね。どちらにしても騒ぎにはなりそうですが…隠すよりはマシですかね。何かあっても我々が味方します。では他の三名と一緒に名前とジョブを十二月二十二日に公開します。皆さんはそれでよろしいですか?」
「ワタシはレベルも公開していいネ。何の問題もないアル」
「ワタクシもレベルを公開してもらって構いませんワ」
「私はもう自衛隊のほうでステータスがすべて公開されてますから大丈夫です」
全員問題ないことを確認してから晶はプリシラに話すようにアイコンタクトを送った。
「………それじゃあ私からも全員に伝えることがある。それを聞いてもう一度私のパーティに加入するか決めてほしい」
両親の確認も取れたのでプリシラは自身の考えを伝えることにした。
「………今も言ったように、ダンジョンの攻略は2、3ヶ月のスキル練習をしてもらってからにするつもりでいる。だけど四人には実験台になってもらう。理由は私がこの世界の者ではないから。この世界のレベルシステムは私がいた世界のレベルシステムと酷似している。資料を見た限りだけどスキルの種類は同じものが多数あった。私の知っているものと同じかどうかの検証をさせてもらう。だからダンジョンはしばらく攻略しない方針。私がスキルの使い方を教えるからその練習をしてもらう。だけどエヴァとフェイリンとは一度ダンジョンに行くつもり」
淡々と話し出し自分の考えを伝えていくプリシラ。実験台という言葉には桜の両親が反応したがその後の言葉を聞いて安心したように息を大きく吐いている。
「なぜ私たちはダンジョンへ行くんですノ?」
「………二人はもう自分なりのスキルの使い方をしているはず。それを把握したい。ダメなところは直してもらうし伸ばすところはそのまま伸ばしてもらう。それと私が知らない良い使い方をしているかもしれない。だから実戦で把握させてもらう」
「文句ないアル。だけどスキルの検証でプリシラの世界と違ったらどうするネ?」
「………違ったらまたその時考える。だけど同じだったのなら確実に強くなれることは保証する。この世界のスキルの使い方はまだ発展途上。30年程度ならこのくらいかと納得がいく程度のものでしかない」
プリシラのいた世界はレベルシステムがあるのが当たり前の世界だった。その歴史は1000年以上と言われており地球とは比べ物にならないほど発展していた。
「わかったネ。元々パーティには加入するつもりアル。どちらにしても強くなるために努力するだけヨ」
「その通りですワ。ワタクシたちのやることに変わりはありませんノ。実験の結果を楽しみにしておきますワ」
「………二人は良いみたいだけど、遥と桜は?」
「私はもう知ってるもの。了承済みみたいなものよ。風見さんはどう?」
「…私は………その…指示に従います。スキルのことは……知らないので…」
俯きながら答える桜にプリシラは少し悩む。あまりにも自己主張がないからだ。だがこれから仲良くなっていけばしてくれるだろうと思い今は気にしないことにした。
「………そしてもう一つ伝えておく。私の目標は元の世界に帰ること。BランクやAランクのダンジョン踏破では神に叶えてもらえないと思っている。だから新宿の世界最難関ダンジョンの踏破を目指す。踏破すれば自然とパーティは解散になるかもしれない。それでもいい?」
遥はこの目標を知っているが他の三人は初耳だ。少し動揺したような表情を見せるエヴァとフェイリン。慌ててキョロキョロしだす桜と反応はまちまちだがすぐにエヴァとフェイリンが声を上げる。
「別に構わんアル。解散してもシンジュクを踏破したなら食べていくには困らないネ」
「その通りですワ。踏破すれば名誉を得られるというもの。寂しくなるかもしれませんが問題ありませんワ」
二人の言葉に桜は同意するというより同調するように声を上げる。
「わ……私も大丈夫です………」
後ろにいる両親が何か言いたそうだったが娘の意志の硬さはもう知っている。諦めたように夫婦で顔を見合わせ前を向いた。
「では、皆様了承されたということでよろしいみたいですね。では契約書をお配りします。皆様には選考会の応募時に確認されていると思いますが、プリシラさんのパーティに参加される方は弊社と専属契約させていただきます。一条さんは自衛隊からの出向という形ですからなしです。ですが、守秘義務は守っていただきますよ。自衛隊へ情報統制をするつもりはありませんがね」
「問題ありません。自衛隊の研究所には少しずつ情報を提供していくとプリシラと話してありますから」
プリシラではなくララベルとだがそういう話はもうついている。ララベルの考えとしては確定していない情報を渡すつもりはない。世界が違うためどう言ったことが起きるかわからないからだ。装備製作の技術に関しても少しずつ研究所に情報を渡して実験してもらうつもりだ。先々プシリラの装備に付与されている自動修復で直せない時があるかもしれないと思ってだ。
この世界に技術をつけて貰わなければララベルに取っては不都合だった。ダンジョン産の装備に頼り切るわけにもいかない。前の世界でも低確率のドロップに頼るよりは自分で作ったほうが早かった。だからこそプリシラの装備はララベルがプリシラの中に入る前に作ったのだ。本人が望むような都合のいい付与が付いたダンジョン産の装備などない。
技術に関しては装備に限らずスキルに関しても同じだ。この世界にレベルアップしてもらいダンジョンの情報を多く欲しいからだ。
契約書が三人に配られ熟読していく。するとフェイリンが手を上げた。
「シャチョー。これSNSや動画サイトのこと書いてないネ。ワタシ両方やってるネ。続けていいアル?」
「プリシラさんのスキルに関する情報などを出さなければ構いませんよ。出来ればセクシーな写真はご遠慮願います」
「動画サイトはワタシ収益得てるネ。プリシラが出るだけで再生数爆上がりアル。投稿した時の収益はどうすればいいネ?」
「ふむ……それは考えていませんでしたね………ではこうしましょう。契約書にもあると思いますが皆さんはまだ仮のパーティです。この契約書もその間の契約書です。その間に協議しましょうか。今ここで話すと長くなりそうです」
「わかったアル。どっちにしろ動画はしばらくは出来そうにないアル。それで問題ないネ」
フェイリンが質問した以外は特に質問もなく三人とも契約書にサインした。桜の契約書は両親との連名でサインされている。
「ありがとうございます。これで契約されました。後ほど皆さんに写しをお渡しします。皆さんの探索者の活動は我々がサポートさせていただきます」
「この後はどうしますノ? 募集要項には住む場所は全員同じ場所を提供とありましたがその住む家に行くんですカ? ワタクシ今はホテル暮らしですので出来れば早く移り住みたいのですが……」
「ああ! それを聞くのを忘れていた! 契約前に聞けばよかった……」
エヴァが住む場所を気にしたら桜の父親が聞くのを忘れていたと声を上げた。
「これから一緒に住むマンションに移動する予定です。そんなに心配する場所ではございませんよ。樹里、資料をお見せしてあげて」
「わかりました。タブレットになりますがどうぞ」
秘書の樹里がタブレットを持って桜の両親の元へと歩く。エヴァとフェイリンと桜も気になるようで立ち上がった。集まってもらい全員に見える位置でタブレットでペントハウスを見せると全員驚いていた。
「こんな良い所に住めるネ?」
「素晴らしいですワ」
「え……ええ~~」
「凄い所じゃないか……」
「ここなら全然問題ないわね。家からも近いわ。車で10分くらいかしら?」
「では、行きましょうか」
ペントハウスの資料に驚いているが構わず晶は移動を促す。プリシラと遥も付いていったため全員釣られて動き出すのだった。
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