47話 プリシラらしい合格理由

 遥は残りの前衛のジョブに付いている者の二枚の書類に目を向けた。


 一人は香港出身で『槍術師』のジョブに付いている。



 リュウ・フェイリン

 年齢:26歳

 性別:女

 種族:人間

 ジョブ:槍術師

 レベル:260

 SP:1220/1220

 MP:800/800

 力:260

 体力:222

 敏捷:306

 器用:286

 魔力:270

 聖力:372

 運:200


 スキル:槍術Lv8 身体強化Lv2 雷魔法Lv5



 レベルは260と参加者の中では一番高かった。遥が見る限り参加者の中で一番の化け物は彼女だった。『槍術師』は決して強いと言われるジョブではない。むしろ弱い方だ。そのジョブでレベルが260もあるのははっきり言って異常なのだ。一体どれほどの努力をしたか想像もつかなかった。


 模擬戦では槍の技量だけで相手を圧倒していた。明らかに他の者たちとは槍の扱いが違っていた。何らかの武術を学んでいたのかと思い面接で聞こうと予定したのだが彼女は予想外の格好で来た。


 大半の者はスーツなり探索者の装備で来たのだが一人だけチャイナ服で着飾って来たのだ。頭にはシニョンが二つ付いており喋りは語尾に「~アル」や「~ネ」等と喋る個性派だった。香港出身で元々日本で活動していて日本語は話せるのだがキャラ付けで語尾にアル等付けていたら抜けなくなったそうだ。そのせいでいかにも漫画やアニメに出てくる胡散臭い中華キャラになっていた。そんな彼女は武術を嗜んでいたとのこと。


 探索者活動の他に動画サイトに自身が出る動画を投稿したり生配信したりして金銭を稼いでいる。本人曰く「ギ○ちゃあああああああん!」と叫ぶと非常に多くのお金が飛んでくるそうである。


 いろいろと面食らったが彼女も理由は”見返すため”だった。『槍術師』は一般的にはあまり良いジョブではなく下位に位置するジョブのためステータスの伸びは良くない。上位のジョブでなくてもやれるというところを見せたかったのだそうだ。だが、自分のジョブの限界も見えているそうで現在の目標は”転職”することだそう。確かに記録ではジョブを変える”転職”をした者はいるが”転職”した者はレベル1になったと記録にはある。槍術師でレベルを260まで上げたのだから問題ないだろうという判断だ。


 もう一人は『上忍』という日本人固有のジョブで『暗黒魔導士』より数は多いがレアジョブとされている。レベルは150とそこそこ高く将来性も高かった。プリシラが悩んでいる理由はスキル忍術の多様性だった。スキルツリーには派生先が多く興味を引かれたのだ。


 実際に見せてもらい使えそうなスキルが数多くあった。隠密系のスキルもあることから斥候役としても期待できる。


 だが、面接で話したところ彼女は他にも目的があるように感じた。世界に忍者を広めたいと言っていたがすでに忍者は広まっている。プリシラの社会勉強のなかで少しだけ歴史の話もありその中で忍者も出て来たためプリシラは知っていたのだ。


「なるほどね~てことはこっちの槍術師の人で決まってるのね?」


 プリシラのことをわかってきている遥は話を聞いて『槍術師』の方が採用だろうと判断した。


「……そっちの子にしようと思ってる」


「でも槍術師って……転職させること前提?」


「……うん。本人もそれが今の目標と言っていた。でもしばらくはそのままで頑張ってもらうつもり。転職を私に頼りきられても困る」


「当時のことを考えると今は多分Aランクダンジョンを踏破しないと無理っぽいのよね~。長くなりそうね」


 神に転職させてもらった者の記録は約10年前の難易度調整以前にダンジョンランクがAだったダンジョンを踏破しての記録だった。そのため、10年前のダンジョンランクを現在に例えるとBランク程度のダンジョンを踏破に相当する。


 だが、難易度調整が入ったため今ではAランクのダンジョンでないと無理だろうと言われているのだった。


「……急ぐつもりはないから大丈夫」


「まあそうねぇ。ちなみに槍術師の子に決めた理由はやっぱり上忍の子が怪しかったからかしら?」


「……それもあるけど違う」


「他に何かあったかしら?」


「……おっぱいが大きかった。あれは良いおっぱい」


「…………」


 プリシラが自分の欲望丸出しの言葉を発したため言葉を失う遥。思えば後衛の二人もそうだ。イギリス人の『聖女』は背も高くスタイルも抜群に良かった。当然おっぱいは大きかった。『暗黒魔導士』の女子高生も思えば目立ってはいなかったが胸の膨らみが大きかった。


「ねぇプリシラ。まさかとは思うけどおっぱいの大きさで決めてないわよね?」


 自分も最初はおっぱいで選ばれたようなものだったためプリシラにストレートに疑問を投げつけた。


「……………そんなことはない」


「どうして答えるまでにいつもより間が空いたのかしら?」


「……気のせい」


「…………」


 無言でプリシラの顔を覗き込む遥。覗き込まれたプリシラは無表情のまま首を横に振った。すると遥がさらに覗き込んでくる。プリシラは反対側に首を振る。これを数回繰り返したところで楓が夕食を持って来たため終了となった。

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