46話 納得の合格と意外な合格
選考会は面接も無事に終わり、あとは誰を採用するかを決めるだけとなった。
SNS上では書類選考を通り選考会に参加していた者たちが少しだけ情報を出して話題となっていた。中でも『賢者』である百瀬香織がプリシラに一方的に叩きのめされたことと、遥が『勇者』である西条茜に勝ったことが話題となっていた。
選考会の内容に関してALICE FOODS側は特に情報統制などしなかった。人の口に戸は立てられない。実際、乱入者がいたことからもそれは事実だったのだ。かといって隠すような内容でもないためALICE FOODSは選考会に参加していた者たちには何も言わなかったのだ。結果は予想通りであった。
マンションでは入浴を終えたプリシラがリビングでソファーに座りテーブルに置かれた4枚の書類を見て悩んでいた。キッチンでは楓が夕食を作っている。そこへ遥が自衛隊への報告業務を終えてリビングへと来た。
「その四人に決めるの?」
「……三人のつもり」
「誰か一人落とすのね~どれどれ~」
四枚の書類は前衛と後衛の二枚ずつに分けられている。今回の選考会を受けた者たちのステータスと選考会での評価などが書かれている。
「こっちは…後衛のほうね……一人は当然の結果と言えるでしょうけど………もう一人は…まさかこの子が選ばれてるとは思わなかったわ。この子は採用するの?」
一人は『聖女』のジョブについており魔法の威力で最高得点を出したイギリス人の女性だ。
エヴァンジェリン・ナッシュ
年齢:28歳
性別:女
種族:人間
ジョブ:聖女
レベル:180
SP:1500/1500
MP:1000/1000
力:216
体力:252
敏捷:252
器用:370
魔力:420
聖力:420
運:150
スキル:聖女術Lv5 光属性魔法Lv4 結界魔法Lv4
身長は180センチくらいあり金髪でスタイルの良い彼女は特に目立っていたため遥も覚えていた。
もう一人は『暗黒魔導士』のジョブについている日本人の女子高生。
風見桜
年齢:18歳
性別:女
種族:人間
ジョブ:暗黒魔導士
レベル:4
SP:100/100
MP:650/650
力:4
体力:5
敏捷:5
器用:8
魔力:9
聖力:7
運:500
スキル:闇魔法LV1 魔力強化LV1
長い髪で顔が半分ほど隠れており服も一人だけジャージで会場ではおどおどしていた。点数は最低の12点。それも当然で彼女はレベルがまだ4だ。参加者の中では一番レベルが低く使えるスキルも一つだけで悪目立ちしていた。
「……二人とも採用」
「こっちの聖女の人はわかるんだけどねぇ…暗黒魔導士の子は予想外だったわ。というか暗黒魔導士ってレアジョブよね? 世界的に見ても数が少なかったはずなんだけど……だから選んだの?」
「……理由はいくつかある」
まず一つにプリシラは『暗黒魔導士』の子で実験をしようとしている。プリシラとララベルのいた世界ではレベルが低い時のスキル修練が後から大きく関わるからだ。それを確かめることが一つ。
地球では闇魔法のデバフはほとんど効かないと言われていることが本当かどうかの確認。ララベルからすれば同じなのだとしたら使い方が悪いだけらしく検証したかったのが一つ。
『闇魔導士』ではなく『暗黒魔導士』という数が少ないレアジョブで将来性があるかもしれないという博打が一つ。
最後に面接で彼女はおどおどしながらも『自分は変わりたい』と言っていたことだった。
探索者界隈はジョブによる優劣が激しい。こういったパーティメンバー募集に関しては”戦力になる”ということが重要だ。即戦力になる者や将来性が感じられる者が採用されることだろう。今回の選考会では彼女以外は全員レベル80を超えていた。そんな中一人だけレベルが一桁。しかもジョブは『ハズレジョブ』と言われる闇魔法系。一般的にお呼びでない者が選考会に申し込んで参加し変わりたいと言った彼女をプリシラは評価した。
面接では終始おどおどしていた彼女。だが『変わりたい』ということだけははっきりと口にしたのだ。その後に自身なさげに「出来れば……」と続けたが変わろうとしていることは伝わった。これがプリシラにとっての決め手となる要因だった。
「なるほどね~。変わりたい…ね。能力よりも精神面を取ったのね」
「……うん。あと自分のために動いているのが良い。変わるために私を利用しようとしている方が信用できる」
「何か思惑があるって感じの子より正直に利用しますって言ってくる子のほうがマシよね」
「……何か思惑があるって感じの子がいっぱいいた。何が目的かはわからないけど信用出来ない」
世間にはどうにかしてプリシラとコンタクトを取りたいと思う者たちが山ほどいる。参加者の中にはそう言った者たちと繋がっている者もいただろう。
そして『暗黒魔導士』の子はまだ高校生だ。しかも性格はコミュ障気味で碌に話すこともできない。演技という線も考えられるがかなり低いだろう。であればもっと高レベルで経験のある女性が選ばれるであろう。
例えばもう一人の採用者の『聖女』のジョブについている女性など適任だろう。彼女の経歴は元イギリス軍のダンジョン攻略隊所属だったのだ。しかも都合の良いことにやめて来たばかりである。
「スパイにするんだったらこっちの聖女の人よね。元イギリス軍所属だしね」
「……うん。軍所属だったのなら今回の場合はスパイに適任と言える。だけど話すとそうじゃなかった。信じられないことだったけど嘘を話しているとは思えなかった」
「あれは信じられないわよね。聖女なのに追放されるなんて……」
『聖女』のジョブについているイギリス人女性は軍の部隊を追放されて辞めて来たのだと言った。その発言には一緒に面接を受けていた者が驚いて声を上げていた。
本人は『聖女』のスキルを活かして必死に部隊の者を支援し光魔法で攻撃と援護をして活躍していたと思っていたが、部隊の者たちの意見は違った。いわく「回復が遅い」「支援が切れて感覚が変わる」「援護で獲物を横取りするな」などなど散々なことを言われていたそうだ。挙句の果てに「居なくても変わらないし支援が邪魔だからクビだ」など言われて除隊されたらしい。
本人の言い分は「前衛の者たちが後衛を気にせずに好き勝手動くため連携が取れない」だった。好き勝手動く前衛に合わせるために必死に支援と援護をしていたが彼らは彼女の苦労をわかろうとしなかった。会議で言っても聞き入れてもらえなかったのだとか。
もちろん彼女は上官に抗議したが聞き入れてもらえずそのまま除隊となった。良家の生まれの彼女は両親にも話したが両親にまでお前が悪いと言われた。実態は彼女に嫉妬した者が軍などに裏で根回しして追い込んだのだ。能力ではなく嫉妬で彼女は追放された。
両親にまで自分を否定された彼女は激怒して家を出た。そこへちょうどプリシラのパーティメンバー募集が発表。これ幸いと日本に来た。元々日本好きな彼女は活動の拠点を日本に移そうと決めた。書類選考も通り選考会に参加した。
申し込んだ理由は”見返すため”だった。実にシンプルで分かりやすい理由。見返した後は特に戻る気もないようで不採用だったとしても日本で活動する予定と面接で聞いていた。
「……普通であれば聖女は部隊の要。そんな者を追放するとは思えなかったけど、あの話ぶりは嘘とは思えない」
「物凄く怒りながら話してたものね。愚痴が止まらなくて途中で真田さんが止めたのよね」
「……だから本当だと思う」
「私もそう思うわ。それでこの二人はもう決定として……後の二人で悩んでいるの?」
「……うん。といってもほぼ決まっている」
遥は残りの前衛のジョブに付いている者の二枚の書類に目を向けた。
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