45話 剣王VS勇者
「それじゃ~……はじめぇ~」
緩い開始の言葉と同時に西条が前に出る。剣を振りかぶり遥に向かって振り下ろす。
(早い! けど!)
振り下ろされた剣を受け太刀する遥。スピードとパワーの差を感じた。
そのまま西条は剣を振り回し遥を攻撃するが防がれている。防戦一方の遥は動きながら隙を窺おうとするが西条の猛攻が遥を襲う。
(やっぱりパワーもスピードも向こうが上だけど……防げないほどじゃない!)
(なかなかやる。でも私の方が上!)
遥は猛攻をなんとか凌いでいる。だがこれはただの剣での攻撃でスキルの攻撃ではなかった。西条はスキルを織り交ぜて来た。おおきく振りかぶってスキルを放つ。
「ブレイブスラッシュ!」
「くっ! パワースラッシュ!」
遥もスキルで応戦し互いのスキルを帯びた剣がぶつかり合う。互いに似たスキルだが威力は西条のほうが上だった。単純にステータスの差が出ているのだ。そして勇者のスキルは強力なものが多い。ステータスとしてもスキルとしても西条の方が格上だ。
威力の差で遥は吹っ飛ばされるが直ぐに体制を整える。だが西条はすでに眼前に迫って剣を振り下ろしていた。それをなんとか凌ぐも吹っ飛ばされる。
「くぅ!」
「そんなものじゃないでしょう! どんどんいきますよ! ブレイブウェイブ!」
下段から剣を大きく振り上げて地を這う斬撃の衝撃刃を飛ばす技。遥目掛けて一直線に飛んでいくが遥は避けることを選べなかった。後にはこの戦いを見学している者たちがいて自分が避けてしまうと被害が出る可能性が頭によぎった。プリシラの結界があり問題はないのだがそんなことは頭にはなかった。遥の頭からは結界のことは抜けていた。
「アースディバイン!」
飛んでくる斬撃に合わせて剣を大きく振りかぶり打ち下ろして相殺する。前方の地面に叩きつけるようにする威力の高いスキルで相殺したはいいが西条の猛攻は止まらない。
蹴りを放たれるが咄嗟に遥は横に飛び威力を殺した。それでも遥の防戦一方は変わらないが遥は落ち着いていた。
(確かにパワーとスピードは向こうが上だけど一振り一振りが大きい! このまま耐えてなんとか隙を見つければ……)
剣の技量は遥の方が上だった。自身の猛攻を凌ぎ続けられて西条は少し焦っていた。このままレベルとしては格下の遥を倒せなければ自分の評価は上がらないだろうと思っていた。少しの焦りは外からの言葉で大きくなる。
「あと30秒ですぅ~」
楓の緩い声で残り時間を知らされる。
(時間がない! あれで決める!)
西条の得意なスキルコンボ。スキルからスキルへと繋げ強力なダメージを与える。下段に構え遥に突進する。地面を抉るように剣を降り力を込めてスキルを発動する。
「ブレイブウェェェイブ!!」
先ほどのブレイブウェイブよりも威力が高いことは見ればわかるくらいに土煙を巻き上げ、さらに本人は前に突進して軽く飛んで剣を振り上げる。
だがここで遥は西条の予想外の動きをした。普通であればこれほどの威力のスキルをレベルが下の者が目にすれば避けるかガードしようとする。
遥はそれをしなかった。逆に前に出て来たのだ。遥は西条の動作を隙と判断した。紙一重でブレイブウェイブを避け剣を振りかざしながら前に出て、剣を大きく振り上げ胴がガラ空きの西条にスキルを放つ。
「グランドストライク!」
今遥が出せる最高の攻撃力を誇るスキルだ。その一撃は西条の胴をカウンター気味に捉えた。西条はそのまま後方に吹っ飛んで結界にぶち当たったところで試合終了が宣言された。
「そこまでで~す。この勝負一条さんの勝ち~」
「はあ…はあ…はあ…はあ……勝った!」
緩い楓の声の後に遥が残心を解き勝ちを宣言すると一気に周りが盛り上がった。
「すごーい!」「一条さんすごすぎ!」「格好良い!」「キャアアアアアア」「その姿に痺れる憧れるぅー!」
レベル差を覆す番狂わせに周りは盛り上がる。遥は急な盛り上がりに驚くが慌てたように振り返った、西条が放ったブレイブウェイブを避けたため後ろがどうなっているか気になったのだ。だが振り向いても被害は無いようで一安心するのだった。
「……ん。さすが」
「ギリギリだったわ。本当に紙一重だったわ」
「……その紙一重をものにしたのは遥。なかなか出来ることじゃない」
「ありがと! 素直に嬉しいわ」
「……あとは任せて休んでて」
讃えに来たプリシラに満面の笑顔で答える遥。プリシラも軽く微笑んで返した。遥ですらなかなか見れないプリシラの笑顔だったが見えていたのは楓くらいだった。すぐにいつもの無表情に戻ると吹っ飛んで結界にぶち当たった西条の元へと歩いていく。
「う……ぐっ」
「………ハイヒール」
回復魔法をかけて怪我を治してから声をかける。
「………剣を振り回すしか脳のないあなたは不合格」
「…はい。自分が驕っていました。一から鍛え直したいと思います」
「元から不合格ですよぉ~書類選考で落ちてるんですからぁ~」
「う……すいませんでした…」
楓がトドメを刺した。西条は申し訳なさそうに謝りながら帰っていった。当然研究所の職員に捕まった。所長の田原が「面白かったからいいよ!」と警察に突き出すこともせずそのまま帰した。
余談だが後衛の選考会に現れた百瀬も同じように捕まって田原に放流されている。
西条が帰った後は怪我人は出たもののこれといって問題もなく順調に進み、終わる頃には辺りが暗くなっていたが無事に全て終了した。
「皆さんお疲れ様でした~。明日は面接ですので~同じ時間に来てくださいね~」
マイクで楓が終了を宣言する。少数だがくじ引きで早々に終わった者は他のスタッフから説明を受けて帰っていた。大半は残って他の者たちの模擬戦を見学していた。探索者として何か吸収できるものがないかと真剣に見ていた。
全員が帰りプリシラたちもマンションに帰ることになった。
「あ~………疲れたわ~」
「……丸々一日は精神的に疲れる」
「年内に決めるためにかなりの強行スケジュールにしてますからね~」
現在十二月一二日。予定では十二月十七日に発表する予定である。試験は明日で終了の予定なので余裕があるといえばあるのだが、プリシラが余裕を持って決められるようにと配慮した結果こうなったのだ。プリシラが即断即決型だったためもう少し余裕を持ったスケジュールは組めたのだが、日本ALICE FOODS側でも準備等で余裕が必要だった。
「明日頑張れば終わりですよぉ~」
「………頑張る」
「プリシラのパーティメンバーを決めるんだから頑張ってね」
「……そうだ。遥」
「どうしたの?」
「……遥は合格」
「…ありがと!」
レベル差が大きい『勇者』を倒した遥は晴れてパーティメンバー入りが決定したのだった。
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