44話 前衛選考会に来た二番煎じ
今日は前衛の選考会。選考は一対一の模擬戦を二回することになっている。組み合わせはくじ引きで順に呼ばれたもの同士がプリシラが結界で覆った場所で模擬戦を3分間行う。訓練用の武器を使用し致命傷となるような一撃が入るか気絶するか3分間時間が過ぎるまで続く。また、途中での降参もありとなっている。
後衛の選考と同じように挨拶もそこそこに始まった。人数が多いため一試合ずつではなく二試合同時に行っていく。
序盤だが遥が一戦終えていた。遥は後衛の時はスタッフとして手伝ってもらっていたが今回は選考に参加している。槍などの長物使いを多くしているため遥はどうしても間合いで有利を取られるがそれでも遥は勝っていた。遥の技量の高さが伺える。
「ふう」
「……ん。このくらいはやってもらわないと困る」
「剣道三倍段なんて言うからやっぱり長物相手はキツいわね。ステータスも私の方が上だったみたいだからやれなくはないかな」
「……ケンドウサンバイダン?」
「今度教えてあげるわ」
わからない単語を出されて意味が気になるが今は選考会の途中のため気にしないことにした。
順調に選考会は続いていたのだが、またしても研究所の方が騒がしい。数日前にも似たようなことがあったなとスタッフは思っていると、一人の女性が訓練場に大声を上げて入ってきた。ご丁寧に防具をしっかりとつけている。
「私が選考に落ちた理由を教えてください!」
その声に会場は静まり返った。20代半ばくらいの女性は皆の視線を集めている。数日前の女性よりも礼儀正しい喋りである。
「二番煎じですねぇ~」
「………変なのはいっぱいいる。でもどうしてここで選考会をやっているとわかるの?」
「う~ん。きっとどこかから情報が漏れてるんでしょうねぇ~。あれどうしますぅ~? 前は賢者でしたからきっと勇者ですよぉ~」
二番煎じの乱入者をどうしようか悩む二人。とりあえず話を聞くことにした。プリシラが乱入者の元へと向かう。
「………あなたも文句があって来たの?」
「あなたもって………百瀬も来たのでしたね。初めまして、私は西条茜と申します。ジョブは勇者です。何故私が書類選考で落ちたのかを聞きにきました」
「二番煎じですけどまだマシですねぇ~」
「二番煎じって……なんですかそれ!」
「選考内容に関しては一切お答えしないことに同意されて申し込んでるはずなんですがね~。その点でも不合格ですよぉ~。やっぱり最上位ジョブの方ってわがままな方が多いんですねぇ~」
「ぐっ……」
百瀬にも言った同じ台詞を西条にも言う楓。まだ相手をしているだけマシというものである。言われて自分に非があることはわかっているのか西条はたじろいだ。
「………どうせこの子も何かしないと納得しない。面倒だけど仕方ないから一戦だけやってもらう」
「面倒ですけどそれがいいでしょうねぇ~」
「あ…ありがとうございます!」
百瀬よりは常識がある西条。だがプリシラは選考に参加させるとは一言も言っていない。プリシラの中では邪魔なのが来たと思っていたのだが、ふと良い案が思いついたので実行することにした。
「……遥」
「何?」
「……相手してあげて」
「え? 私がするの?」
「……うん。私がやっても面白くない」
プリシラが思いついた案。それは遥に勇者と模擬戦をやらせることだった。
今日の選考会には遥と同じ『剣王』のジョブについている者も来ているが、模擬戦はくじ引きのため『剣王』対決が見られるかはわからなかった。そこへ『勇者』というカモがネギを持って登場。まさにカモネギ。これはちょうど良い対戦になるとプリシラは思った。どうせなら面白い組み合わせにしようと無駄にエンターテイメント性を出して来たのだ。
「……もう決定だから」
「…も~! わかったわよぉ!」
「一条さんと対戦できるなんて光栄です」
「そ…そう……はあ」
西条は表では良い顔をしているが中身は違った。遥が相手なら楽勝だし良いアピールになると思った。はっきり言って遥を舐めているのだ。
遥は自衛隊所属でステータスを公開している。俗にいう”公開組”だ。自衛隊の一部の者たちは世間にステータスを公開しているのだ。
西条茜
年齢:23歳
性別:女
種族:人間
ジョブ:勇者
レベル:205
SP:1300/1300
MP:1300/1300
力:350
体力:350
敏捷:370
器用:370
魔力:390
聖力:390
運:150
スキル:勇者剣術Lv4 身体強化Lv2 光魔法Lv4 雷魔法LV3 風魔法LV3
一条 遥
年齢:24歳
性別:女
種族:人間
ジョブ:剣王
レベル:125
SP:1150/1150
MP:410/410
力:223
体力:200
敏捷:250
器用:220
魔力:170
聖力:275
運:200
スキル:剣術LV6 身体強化LV4 風魔法LV1
遥のレベルは125。一方の西条はレベル205。80レベルの差はステータスの差に大きく出る。遥もジョブは『剣王』でステータスの伸びはかなり良いが80レベルの差は大きい。レベル差だけで言えば誰もが遥が負けると思うほどだ。
だがプリシラは違った。研究所にいた時にダンジョンに行った際に遥とは何度か模擬戦をしている。遥の技量ならば覆せるレベル差かもしれないと思ったのだ。相手の『勇者』である西条の技量がわからないため賭けになるが遥を試すにはちょうど良かった。これで勝っても負けてもレベル差を感じさせないような内容であれば遥をパーティに入れる理由に出来る。無様な結果になったとしても遥の欠点を指摘して育てることが出来る。
どのような状況でもプリシラにとってはプラスだった。当然ララベルの入れ知恵もあった。
「それじゃ~二人ともこちらへ~。西条さんは武器を選んでくださいね~。ルールは3分間の間に致命傷となる一撃を与えるか降参、もしくは気絶すると終わりです~。致命傷の判定は私たちがしますので~。危ないと思ったら止めますが怪我してもプリシラさんが治してくれますから思いっきりやってください」
「わかりました」
二人が所定の位置に移動し対峙する。二人とも剣を使うため構えも似たような構えだ。両手で剣を持ち足を大きく開き半身で右足を前に出し切っ先を相手に向けて構える。違いがあるとすれば遥は中段で構えるが、西条は少し上段気味なくらいだ。
「それじゃ~用意はいいですかぁ~?」
「「はい」」
楓の緩い声に気が抜けそうになるが対峙している二人はすでに集中しているためそんなことはなかった。緩い空気の中二人だけが張り詰めていた。
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