43話 後衛選考会

 十二月三日。書類選考が終了し選考会の予定が通知された。選考会は前衛と後衛で分かれており各三日ずつ予定されている。一日は予備日となっている。前衛後衛共に百五十人程度が選考会に通過した。


 SNSでは応募していた勇者と賢者が落ちたと発言し賑わっていた。


 そして選考会当日。先に後衛の選考会だ。会場は自衛隊の駐屯所兼研究所の訓練場。引っ越す前にプリシラがいた場所である。壁も高く周りに高い建物もないため選考会の会場としてちょうどよかった。場所を使わせてもらえないかを打診したところ所長の田原が二つ返事で喜んで快諾。ただ面白そうというだけの理由だった。当然見学する。


 選考の内容は実技試験と面接だ。実技試験はスキルの攻撃を数値で表してくれる大型の機械を使用する。機械に取り付けられたダンジョン産のミスリルの板に当てると数値化されるというものだ。当初はゲームセンターにあるパンチングマシーンのような娯楽目的で作られたものだが、今ではこうした探索者の実力を測るのに広く使われている。自衛隊の設備だがデータを取れるとのことで喜んで貸してくれた。田原が独断で。


 選考は一人ずつスキルを放っていく。スキルツリーの最初のスキルと2段階目のスキルを一つ放ち、3段階目のスキルと放っていき現在習得している最後の段階のスキルを放つ。これらを機械に放ち数値を記録していく。


 申告されたスキルレベルが合っているかを確認する。事前に研究所にあったデータでレベルとスキルレベルと魔力でどの程度の数値が出るかは把握しているためそれを基準に判定する。


 もっとも、この数値が高ければいいというわけではない。面接もあり何方かと言えばプリシラは実技よりも面接重視である。実技試験は嘘をついていないかを調べるためのようなものだが、変わった使い方をする者がいれば加点しようと思っていた。


 挨拶もそこそこに探索者として自信に溢れた表情をしている者たちが順番にスキルを放っていく。大半が魔法スキルを放っている。中には弓などの使い手もいて見ているだけでも飽きず、地球に来る前のプリミエール王国の兵の登用試験とは違った雰囲気でプリシラは楽しみながら見ていた。記録は日本ALICE FOODSの係員にお任せである。


 順調に実技試験は進んでいたが、研究所の方が騒がしい。


「ダメですって!」


「通るわよ!」


 大声で止める声と反発する声が訓練場に響いた。しばらくして訓練場に一人の女性が大声をあげて入ってきた。


「ちょっと! どうして私が不合格なのよ!」


 その声に会場は静まり返った。20代前半くらいの女性は皆の視線を集めている。


 プリシラは一緒にいる楓に訪ねる。


「………あれは誰?」


「う~ん誰でしょう~?」


 楓も乱入してきた女性が誰かわからなかった。おそらく書類選考に落ちた者だというのはわかるが顔写真を一人一人覚えてなどいない。


「いたエルフ! ちょっと! 賢者のジョブについているこの私が何で書類選考に落ちてるのよ!」


 プリシラを見つけた女性はプリシラの元に歩きながら説明する。離れた位置で聞いていた遥はわかっていたがプリシラと楓はまだわかっていなかった。『賢者』という単語に周りが騒ついた。


「………誰?」


「知らない方ですねぇ~」


「私は百瀬花蓮。ジョブは賢者よ! どうして私が書類選考に落ちているの!?」


「………賢者なんていた?」


「そういえば賢者の方落としてましたねぇ~」


 楓の発言にそういえばいたなと思い出したプリシラ。マイペースなプリシラと楓の発言に百瀬はさらに激昂する。


「何で賢者が必要ないのよ! どこに行っても引っ張りだこなのよ! この私を落とすなんて有り得ないわ。実力も見てないくせに!」


「………見る必要はない。スキルレベルの低さが未熟だと物語っている。だから落とした。あとあなたみたいな傲慢な性格の者はいらない」


「それに選考内容に関しては一切お答えしないことに同意されて申し込んでるはずなんですがね~。その点でも不合格ですよぉ~」


「なんですってぇ!」


 顔を真っ赤にして激昂する百瀬。試験も中断しているためどこかで落とし所を作らないといけないと思った楓はプリシラに提案する。


「茹蛸みたいになってますから~一度だけスキルを撃って貰えばいいんじゃないですかぁ~? プリシラさんより点数が高ければ考慮するってことで~」


「いいわね! 自信あるわ。まさか逃げたりしないわよね!?」


「………別に構わない」


 圧倒的小物ムーブをかます百瀬にプリシラは呆れつつも了承した。早く終わらせて試験を再開したかった。楓はスキルを撃つために並んでいた者たちを整理し始めた。


「じゃあ皆さ~ん。ちょっとだけ余興に付き合ってくださいね~」


 プリシラの実力は魔法よりも近接戦の方が目立っているせいか百瀬は自信満々で受けるのを見て、周りで見ていた遥はえげつないことをするなと顔を引き攣らせていた。楓は遥からプリシラの魔法の方の実力も聞いているので知っている。


 しばらくして準備が整い先に百瀬が撃つことになった。撃つ場所に立ち構える。


「最高得点叩き出してやるわ!」


「じゃあどうぞ~」


 現在の最高点は745点。『聖女』のジョブについているイギリス人が出した数字だ。理由はいくつかあるが今回のためにイギリスからやって来た。


「フレアバースト!」


 炎魔法のスキルツリーの4段階目のスキルだ。爆発系の魔法で炎系の魔法では特に強力だ。また『賢者』や『炎魔道王』など上位のジョブに付いている者しか使えないスキルだ。下位のジョブではスキルツリーの4段階目を出すことすら出来ないため使える者は限られる。


 ミスリルの板に当たり大きな音が鳴り響いた。点数は720点。惜しくも最高点に届かなかったが本人はドヤ顔だ。以前にもこの機械で計測したことがあったのだろう。


「どうよ!」


「残念ながら最高得点には届かずですね~」


「何ですって!」


 最高点に届かずまたしても喚き出す。そしてプリシラが撃つ場所に立った。


「ファイアージャベリン」


「何を撃つのかと思えばファイアージャベリンなんて」


 プリシラの放ったファイアーランスがミスリルの板に当たりフレアバーストほどではないが大きな音が鳴り響いた。点数は984点だった。


「嘘……でしょ……」


「………次、水属性……アクアジャベリン」


「え?」


 自分が一番自信のあった魔法の点数を軽く超えられショックを受けているとプリシラはアクアランスを放った。点数は970点だった。


「………次はあなたが水属性を放つ番。それとも水属性は自信がない?」


「……上等よ! やってやるわよぉ!」


 プリシラの安い挑発に乗り特に得意でもない水属性の魔法をしゃかりきに撃つ百瀬。もちろんプリシラの点数には届かない。


 その後もプリシラは全属性を同じように撃たせては高い点数を出し上をいった。まるで格の差を見せつけるように。


「………これでわかった? あなたより遥か上をいく私がいる。だからあなたはいらない。手加減をする身にもなってほしい」


「う……うう」


 座り込んで泣きそうになるのを必死に堪える百瀬。今まで気づきあげた自信を全て木っ端微塵にされた。当然の結果と言える。プリシラのレベルは495。一方の百瀬のレベルは200。倍以上のレベル差がある。そして何よりも経験の差が大きかった。幼い頃から厳しい訓練に耐え常に実戦で戦い続けララベルに全属性魔法スキルの使い方を教わったプリシラと、『賢者』というジョブを持っただけでチヤホヤされながらレベルを上げた百瀬では経験の差がありすぎるのだ。


「う………うわあああああーーーーーーーーーー!!」


 百瀬は居た堪れなくなり叫びながらその場を走り去った。


 周りで見ていた者たちがドン引きするレベルのことをプリシラはした。参加者たちはなぜこのエルフが後衛を求めるのかがわからなかった。そう思うのも当然だろう。自分よりも遥か上をいく様をまざまざと見せつけられたのだから。


 そんな中一人がプリシラに声をかけた。最高得点を出していたイギリス人の女性だ。


「あなたはそんなに魔法を使えますのに何故後衛を求めるのですノ?」


 まだ日本語が完璧ではないのか少し変なお嬢様喋りで話してきたイギリス人の女性。身長が180センチ近くあるため自然とプリシラは見上げた。


「………私は前衛で戦うのが得意。だから後衛が必要。それだけ」


「そうですカ………」


 納得したのかわからないがイギリス人の彼女は去っていった。彼女はもう測定を終えているため明日の面接に来るだけでいいのだが残っていた。残っているのは彼女だけではないが、残らなけばよかったと思った者の方が多いだろう。実力の差を見せつけられすでに何人かは心が折れていた。


 一悶着ありはしたが、その後は問題なく試験は進んだ。だが翌日の面接では予想外のことが起きていた。昨日の実技試験を受けていたものは150名程度いたはずなのだが来たのは20名ほどだった。昨日プリシラの実力を見て自分ではついていけないと判断したのだろう。面接の待機用に借りている大会議室は空席だらけだった。


「………少なくて楽」


「それもそうですねぇ~♪」


「いや二人とも……これはこれで問題でしょう?」


 マイペースな二人に突っ込む遥。この二人は組ませてはいけなかった。


 しかしプリシラが目をつけていた者は来ているようで問題なかったようだ。五人での集団面接を予定していたが二人一組になった。そのおかげで面接は午前中に終わった。


 プリシラの中ではほぼ決まっているみたいだが少し時間をおいてからもう一度確認することとなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る