42話 書類選考
パーティメンバー募集の発表から一週間が経った。タヌキのポンコがいるマンションへと引っ越しして新生活を始めた。社会勉強も始まり田舎のおじいちゃんおばあちゃんくらいにはなった。
そしてALICE FOODSからパーティメンバー募集用のホームページが開設されて五日。女性限定にも関わらずすでに10万以上の応募があった。規定要項を満たさない者はその時点で落とされるが何か特筆すべき点がある場合は例外として通している。
プリシラへの確認もあるため、規定要項を満たす者の書類がプリシラの住むマンションのリビングに大量に置かれていた。プリシラはタブレットでは文字を読めないため全て紙の書類である。
「………これは何?」
「規定要項を満たす応募者の書類です~」
「………全部?」
「はい~♪」
話しているのは新たにプリシラの担当となった真田楓。料理好きなためプリシラの食事なども作るので一緒に住んでいる。巨乳のゆるふわ系の女性で日本で1、2を争う大学を主席で卒業しているエリートだ。社長である赤木晶の秘書を務める上野樹里の従姉妹である。決してプリシラが巨乳を望んだわけではない。たまたま巨乳だっただけである。
そんなゆるふわ巨乳エリートが持ってきた書類がプリシラの前にジョブの系統で別々の箱に入れられていた。約2000枚程度だが細かく分けられて箱が多いためさらに多く見える。
「………こんなにいっぱい募集が来たの?」
「はい~。これでも総数からすると少ないんですよぉ~。今も増えてて10万人以上の方から応募が来てますよぉ~。規定要項を満たすのは今の所はここにある方の分だけなんですよぉ~」
「………全部見ないといけないの?」
「はい~♪ ここからさらに厳選してくださいねぇ~。選考に通す人はこっちの白い箱に~。落とす人はこっちの黒い箱に入れてくださいねぇ~」
(これはさすがに予想外だね~…)
そう言われて渋々端の箱から書類を見ていくプリシラとララべル。何枚か見て選考に通す書類と落とす書類を分けていく。要望通りスキルレベルは全て書かれている。見る場所は決まるため早いペースで見ていくが数が多いため先は長い。
分けているとシャワーから上がった遥がリビングに来た。自衛隊からの出向で遥もすでにこのマンションに住んでいる。好きな時におっぱいを揉めるためプリシラは何の不満もない。むしろ満足している。
「真田さん。これ全部応募してきた方の書類ですか?」
「そうですよぉ~。一条さんも見ていいですよぉ~」
「これでも規定満たさない人は落としてるんですよね?」
「はい~♪ それでこの枚数ですぅ~」
書類を分ける作業をしているプリシラを見ながら苦笑いする遥。こんなにたくさんの書類に目を通したくないと思いながらプリシラが分けた書類に手を付ける。
「この箱の書類は採用の人?」
「……うん。白い箱は選考に通す」
「黒い箱は落とすのね。プリシラのお眼鏡に敵わなかった人は~っと………え? 嘘でしょ?」
遥は落とす人の書類を入れる黒い箱から数枚手に取り見ていくと普通では信じられないジョブに付いている者をプリシラが落としていたことに驚愕した。
プリシラは現在最上位ジョブと言われている『勇者』と『賢者』を落としていた。しかも二人ともレベル200前後と即戦力にもなりうるレベルだ。プリシラと比較すると実力は足りないかもしれないがステータスの伸びもトップクラスで将来的にも有望な二人の書類を落としていた。
「プリシラ……勇者と賢者が選考落ちしてるんだけど………」
「えっ?」
飲み物を準備しながら聞いていた楓も驚いて声を上げた。
「……要らない」
「勇者と賢者って最上位ジョブって言われてるのよ。将来的にも有望じゃないの。何で落としてるのよ」
「……確かに勇者は強いし幅広く対応できてスキルも強力。だけど勇者の強いスキルは隙が多いし対応力は中途半端。だから要らない」
「ええ~……」
遥は『勇者』というジョブは万能だと思っていたがプリシラからすれば中途半端で隙が多くて使えないジョブだった。他にもスキルなどの面で問題があるため落としていた。今関東で活躍している『勇者』のジョブについている者は前線で八面六臂の活躍をしていると情報があるためプリシラの判断には驚いた。
「……賢者も強い。全属性魔法スキルは有用だけどいらない。賢者はもう居るから」
「いるって……プリシラも確か全属性魔法のスキル持ってたから……でも賢者じゃないわよね?」
「賢者は私でーす!」
「うわっ!」
急にプリシラからララベルに変わり大声を出してきた。遥は二人の変化には慣れていたが驚いた。しかも左手でピースサインを作り目元に当てている。後ろでは楓が驚愕の表情をしていた。遥から知識として教えられていたがプリシラの無表情が激変し、喋り方もしぐさもプリシラとは似ても似つかないため困惑していた。
「賢者歴300年の私が負けるわけないでしょ? この国は15歳から探索者になれるらしいから…えーっとこの賢者は23歳だから高々8年くらいの賢者に私が負けるわけないよ」
「ララベルってそんなに長生きだったのね」
「生きてたら309歳くらいかな~。エルフだから普通だね。落とした理由他にもあるけど聞く?」
「参考になりそうだから聞くわ」
「上に報告するんでしょ? スキルレベルが低い! 以上!」
思っていた理由とは違うシンプルな理由に唖然とするが遥はすぐに立ち直り質問を返した。
「低いって全属性魔法LV4でスキルツリーも4段階目まであるわよ?」
「応募してきた勇者も賢者も基本がなってないよ。スキルツリーの最初のスキルレベルが低いままでしょ。その次も低いままだしこういう子は要らないよ。新しいスキルばっかり使ってる証拠」
「でもスキルツリーの3段階目や4段階目のスキルの方が攻撃力があるんだからそうなるものじゃないの?」
「基本が大事なの。こっちで主流の大人数で探索する気はないからね。詳しくはプリのパーティメンバーになる子たちが決まったら教えてあげる」
「え~教えてよ」
「ダーメ! 半端に情報渡す気はないよ。変に解釈されて取り返しつかなくなって欲しくないからね。パーティメンバーには実験も兼ねてもらうんだよ。私たちの世界と同じかどうかわからないからね」
プリシラとララベルのいた世界のレベルシステムと地球のレベルシステムは酷似している。神からは似ているから上手く適合したと言われているがスキルレベルも同じなのかがわからなかった。だからこそ試す必要がある。指導しようにもそのすり合わせから始める必要があった。
「……そういうことだから、遥にも実験に参加してもらう」
「…私はもうパーティに入ることが決定してるのね。スキルの情報は楽しみにしておくわ」
プリシラに戻り再び書類に目を通していく。ララベルはこういった作業をさせると寝るためプリシラがやる。プリシラも得意ではないが寝るララベルよりはマシというもの。その後も地道に作業を進めていった。
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