39話 タヌキ

 翌日、プリシラたちは朝食をとり記者会見をテレビで見ていた。プリシラがテレビからの声がわからないため通訳しながらだ。昨日のうちにどう言ったことを発表するかは連絡が来ている。問題なかったためプリシラはそのまま通した。


 記者会見では店舗で起こした件なども説明があり質問されていたが問題はなかった。最後にプリシラがパーティメンバーを募集することが発表された。詳細は後日発表ということで記者会見は終わったが、女性限定という一言だけ残して退席していった。


 最後以外にはこれと言って荒れるようなことはなかったがマスコミに対しては厳しく対応すると笑顔で晶が言っていた。


 記者会見の終わった日の午後。プリシラと遥は日本ALICE FOODS社長の晶と秘書の樹里と一緒に高級マンションにやってきていた。今日はプリシラの住まいを決めるのとパーティメンバーを募集する際のどういった人材を求めるかの聞き取りだ。


「ここのマンションは私の父が所有しておりましてね。最上階全フロア分のペントハウスだけは相応しい人にしか売らないなどふざけたことを言っていたのですが、プリシラさんにと言うとすぐに了承してくれました」


「凄く高そうなマンションですけど……」


 15階建ての高級マンションを見上げるプリシラと遥。プリシラはよくわかっていなさそうだが遥はどれだけのお金を払えば住めるのかわからなかった。


「あの~最上階のペントハウスのお家賃は……」


「買うタイプのマンションですよ。ああ、スポンサーとして我々が出しますから気にしなくていいですよ。それに他にも候補はありますし、プリシラさんなら数回のダンジョン探索で買えるくらい稼いでしまうでしょう」


「そ…そうですか………」


 他にも候補はあったがここが第一候補だった。都心からも離れすぎずFランクだがダンジョンが徒歩10分の距離にある。マンションのセキュリティも都内でトップクラスと言われている。1階にはドラッグストアとコンビニもあり利便性に優れている。近所には駅に金融機関やスポーツジム、カフェ、スーパーマーケット、大きいスーパー銭湯等いろいろある。


「さっそく中に入りましょうか」


 晶に続いて中に入ると正面に入場ゲートのようなものがあり住民は必ずここを通って中に入るようだ。コンビニとドラッグストアはゲートの外にある。晶が警備員に話して全員で中に入るとホテルのロビーのような場所になっている。奥の方には芝生のような場所があった。


「ここがロビーになります。宅配ボックスなどもここになりますね」


「受付に預けることもできるんですね」


「その通りです。受付に話してきますのであちらのソファーでお待ちください」


「私自販機で飲み物買ってきますね~」


 樹里が自販機に走っていきお茶を買って戻ってきた。指定されたソファーに座って待っていると猫の鳴き声が聞こえてきた。聞こえてきた方を見ると丸顔の三毛猫がいた。


「に゛や゛あ゛あ゛~」


「………凄い鳴き声」


「本当ね。でも可愛いわね。ここで飼ってるのかしら? おいでー」


 猫はそのまま歩いて遥の膝に飛び乗った。


「に゛や゛ぁ」


「声は変だけど可愛いわね。人懐っこいし」


「………遥。もう一匹来た。私はこの動物を知らない」


 プリシラは猫が歩いてきた方を見て声を出していた。カシャカシャと音を立てて歩いているため犬だろうと遥は予想したが予想外の動物がいた。


「猫は知ってるのに犬は知らn……………タヌキ?」


「タヌキがいるマンションってここだったんですね~」


「クゥ!」


「………タヌキ?」


 そこには犬ではなくタヌキがいた。アライグマでもハクビシンでもなく歴としたタヌキだ。目元が黒く足も黒くて焦茶色の毛に短い尻尾はタヌキそのもの。すでに冬毛になっていて毛が長くモフモフしている。一時期マンションにいるタヌキとして有名になったため樹里は見覚えがあった。


 プリシラの前に座り目を輝かせて鼻息を荒くしながらプリシラを見ている。


「………可愛い」


「なんでここにタヌキがいるのかしら?」


 プリシラがタヌキを持ち上げて抱っこしていると晶が戻ってきた。


「私の父が言うにはどこかの運送トラックに紛れ込んで来たのではないかと。父がたまたま衰弱しているのを近所で見つけて保護したそうです。それ以来ここで飼ってるんですよ」


 このマンションのタヌキは晶の父である赤木建人が保護してここで飼っている。本当は家で買いたかったが家にはすでに犬三匹に猫四匹がいるためここで飼っている。三毛猫も同じ理由でここで飼っている。といっても清掃で来ているパートの方や従業員に世話は任せている。


「部屋の鍵を借りてきましたので行きましょうか」


 晶が歩き出したため三人とも立ち上がりついていくが、プリシラがタヌキを抱っこしたままだった。


「プリシラ。タヌキは置いていくのよ」


「………連れてく」


「ここで飼われてる子なんだから勝手に連れていっちゃダメよ」


「………むう」


 嫌だと言わんばかりにタヌキを抱いたままそっぽを向くプリシラ。飼われている動物を攫うのは犯罪なためなんとかしたいが遥は良い理由が思いつかなかった。そこに晶が口を開く。


「ここのマンションに住めばいつでも会いに来れますよ?」


「………じゃあここに住む」


「まだ部屋見てないじゃない……」


「ちなみに名前はポンコです。三毛猫はマルルです」


 タヌキのために住む場所を決めるプリシラに呆れるがロビーを見ただけでも良いマンションなんだろうとわかるため別に見なくてもいいのかもしれないと思ってしまう遥。おそらく自分も住むことになるため見てから決めたかったが諦めることにした。


 ここに住めばいつでも会えるとわかりポンコを降ろすプリシラ。降ろすとのそのそとロビーに戻っていった。

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