36話 連絡

 車内でドライブスルーで買ったハンバーガーを満足そうに食べるプリシラと落ち込みながらハンバーガーを食べる遥。食べていると研究所に着いた。プリシラはポテトを食べながら中に入っていった。


 中に入ると折笠が待っていた。


「おかえり。電話で聞いたわ。災難だったわね」


「…すいません」


「謝らなくていいわ。私の案だったしあなただけに任せた私たちにも責任はあるわ。私も一緒に謝るから」


「ありがとうございます………」


「………私は悪くない。モグモグ」


 ポテトを食べながら無実を主張するプリシラに二人は呆れるがいつも通りのプリシラになっているため少し安心した。プリシラが暴れると誰も止められないのだ。今止められるのは遥のおっぱいとアリスバーガーだけである。


 折笠についていくと所長室についた。ノックして中に入ると所長の田原と坂本がいた。坂本は非常に機嫌が悪そうである。


「おかえり。災難だったね」


「ただいま戻りました。このような事態になってしまい申し訳ありません」


「申し訳ございません」


「いいよいいよ。許可した我々も悪いんだ。強いからって君しか付けなかったのは我々だからね。それに死人が出なくてよかったよ」


「………私は悪くない。モグモグ」


 田原と遥のやりとりにプリシラはまたしても悪くないと主張。


「聞いた限りだけど、まあ悪くないよね」


「まあ……俺もそう思う」


 田原と坂本の二人も悪くないと言うが内心はプリシラのご機嫌取りである。ここでご機嫌をとっておかなければその力の矛先が自分に向きかねないのだ。幸い今回は死人は出なかったが遥が来るのが遅ければプリシラは確実に二人を殺していただろう。


「とりあえず、一条。お前の処分なんだがな……」


「………はい」


「今の所何もなしだ。これから何かあるかもしれんがな」


「……いいんですか?」


「厄介ごとを押し付けてる所もあるからな。先方が怪我してるわけでも何か言われたわけじゃねぇしお前が何かしたわけでもねぇ。強いてあげるならちゃんと見ておかなかったことくらいだがな………まあアリスバーガーの会社…ALICE FOODSが何か言ってくるとわからんがな。そん時は何かあると思ってくれ」


「…ありがとうございます」


「とりあえずこれ以上俺の胃に負担をかけないでくれ。じゃあ……帰るわ………」


 坂本はゆっくりと立ち上がり重い足取りで退室していった。


「彼女に関しては多分何もないだろう。今朝の寄付のニュースもあるしスタンピードを終息させた英雄だからね。ニュースで監視カメラの映像も流れるだろうから世間は味方するでしょ」


「そうだといいんですがね………」


「向こうが悪いって言ってるんでしょ? それで終わりだよ。何かあっても国が味方するよ。彼女に借りを作れるんだからね」


 田原の言うことに納得はするものの遥は不安だった。自分がどうなるかもあるがプリシラがどうなるかも不安だった。短い間だが一緒に過ごして情が湧いてると言うのもあるが、プリシラがいいように使われるのを見過ごすのは嫌だった。誰かが誰かの道具になるのを見たくないと言う自己満足でしかないが遥は嫌だった。


 自分の正義感を貫きたいが社会を生き抜いていくためには自分を殺さないといけないとはわかっている。だがプリシラは自分のために暴れると言ってくれた。それが嬉しかった。


 だからこそプリシラには自分を殺して嫌な思いはして欲しくなかった。


 そうして田原が解散しようと言おうとした時に内線が鳴った。


「はい。もしもし……あー大丈夫だよ………うん…………ああそう。随分早いねぇ。とりあえず伝えておくよ」


「所長?」


 折笠が気になり声を掛ける。折笠はなんとなく予想がついたが早すぎるとも思っていた。内線を切り折笠たちに顔を向けた。


「予想ついてると思うけど、ALICE FOODSの社長が彼女に面会希望だってさ。まあ来るとは思ってたけど早かったね。あそこからも”お誘い”は来てたんじゃないかな」


「…いろいろ言われますよね。お店に迷惑かけたわけですし」


「………私は悪くない」


「お店に迷惑かけたことには変わりないんだからちゃんと謝っておきましょう」


「………むう」


 納得はいかないが店に迷惑をかけたことはわかっていたプリシラ。そして店のものを壊したのは覚えていた。なので遥の言うように謝らないといけないとはわかっていた。


「ところでいつを希望されてるんですか?」


「明日の午前中だって」


「…随分早いですね。あんな大企業の社長さんが予定変えて来るんですかね」


「予定とか全部キャンセルしたんじゃない? 彼女が相手だからね」


 プリシラのほうを見る田原。プリシラはすでに時の人だ。探索者として実力も名声も両方兼ね備えている。すでに多くの”お誘い”が来ているプリシラと直接話せる機会が欲しい企業など数えきれないだろう。


 そんな中、良い出来事ではないが直接話せる状況が出来たALICE FOODS。世界屈指の企業の社長が見逃すはずがない。


「まああそこの社長さんなら彼女に合ってると思うけどね。確実に契約の話とかあるだろうから内容によっては契約しても良いんじゃない?」


「…たしかにあの人なら合いそうですけどね。マスコミにも強いですし」


「女性ですからプリシラとも合いそうですよね」


 遥も折笠も田原の意見に同意だった。


 ALICE FOODSの社長は1年ほど前に世間を騒がせた人物として有名だった。


 CMに出てもらった男性芸能人とその妻をCMのお礼として食事に誘い店に行った際にとある出版社に取り上げられた。都合のいいような場面だけ写真として取り上げられいかにも不倫をしているような内容で報道されたのだ。


 これにALICE FOODSの社長が激怒。出版社を訴え徹底抗戦したのだ。世界屈指の企業を敵に回した出版社は当然のように敗訴。さらに巨額の賠償金を支払わされ倒産寸前まで追い込んだことで有名だ。ニュースで取り上げたマスコミにも飛び火し今では触れてはいけない存在になっている。


 そんな企業がプリシラのスポンサーにつけばマスコミ関係も静かになるだろうと予想できる。今現在も研究所の前にはマスコミが張っている。


「じゃあ明日会います。時間は向こうに合わせます。いいわねプリシラ」


「………」


「い・い・わ・ね?」


「………わかった」


「じゃあそう伝えておくよ~」


 遥に凄まれ渋々了承するプリシラと内線を取り連絡する田原。そこで解散となった。


 プリシラと遥が泊まっている部屋に戻ると内線で明日の9時にALICE FOODSの社長が来ると連絡があった。早すぎる連絡に若干引き気味の遥はとりあえず了承の返事をしてプリシラに伝えた。

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