33話 田舎のショッピングモール
遥は刀の鑑定が出た日は何も手がつかなかった。プリシラと行ってきた渋谷ダンジョンの報告書を書こうと思ったが刀が気になりすぎて手が動かなかった。その日はプリシラにおっぱいを揉まれている間も刀のことで頭がいっぱいだった。
翌日になってようやく落ち着いたので報告書に手をつけた。刀の他にも風魔法のスキルオーブもあるが十億はするであろう刀に比べれば大したことはない。
遥が書類仕事をしているためプリシラは折笠と一緒にいる。検査を終えて研究所にあるダンジョンでハイキングだ。研究所のダンジョンはプリシラが使うようになってからは一般に解放されていないのでほぼプリシラ専用である。
午後になって書類仕事を終えた遥とハイキングから帰ってきたプリシラに探索者協会から人が来ていた。内容はダンジョンから取ってきた素材の査定が終わったとのこと。二人が応接室で査定額一覧を見た。合計金額に遥は驚いて聞き返した。
「あの………これ…八億?」
「すこしサービスしましてちょうど八億ですね」
「ナンデハチオクナンデスカ?」
完全に棒読みになってしまう遥。協会の女性職員は構わず理由を述べた。
「ランク4のキュアポーションが今凄く高騰してるんですよ。あと魔石もですね。元々最下層ボスの魔石は高価ですね。これだけで約五億。他にも下層の素材は高値で取引されます。いくつか武器があったのも理由の一つですね」
言われてみればそうだなと納得する遥。思い出すと確かに武器もいくつかドロップしたのだ。プリシラも遥も使わない武器だったため普通に買取に出した。その結果が八億である。
「プリシラ………八億だけどいい?」
「………高いのかよくわからない」
「…そうよね。まあ………とにかく凄く高値で取引されるわ。副会長に借りた分のお金を返してあとはプリシラの口座に入れてもらうわね?」
「………じゃあ半分は寄付して。スタンピードの災害復興に使うようにしてもらって」
「え? 寄付するの?」
「………スタンピードが起きた時の被害は大きい。それで足しになるなら使って貰えば良い」
「……わかったわ。じゃあ本人がそういうので半分は自治体に寄付してください」
「わかりました。そのように手配しておきます」
タブレットに打ち込み記録していく職員。振り込みの手続きをして作業を終えるとプリシラが一言追加したいと言った。
「何とつけましょう?」
「………”私腹を肥やさないように”と入れておいて」
「ブッフ! ……わかりました」
女性職員が噴き出した。予想外の内容に驚いたのだ。すぐに咳払いをしてタブレットに入力していく。他に何かないかを確認し終えてから職員は帰っていった。
「とりあえず金銭感覚を身につけることが必要なのはわかったわ」
「………私もそう思う」
「手っ取り早く買い物がいいかしらね。渋谷ダンジョンの周りにあったショッピングモールみたいなところがいいかしら。折笠さんにも相談してみるわ」
「………わかった。それと一つ聞きたい」
「ん~?」
プリシラはわからないことが多いからか自分のやりたいこと以外は受身なことが多い。社会勉強について要求があると遥は思っていたのだが予想外の内容だった。
「………パーティメンバーを募集するにはどうしたらいいの?」
「…ダンジョンに潜るパーティメンバーのことでいいのよね?」
「………うん」
「う~ん…いくつかあるんだけど……プリシラの場合大変なことになりそうなのよね。探索者協会で募集ってなると何万人も来そうなのよね」
「………そんなに来るの? でも今はどんな方法があるか知りたいだけだから人数はいい」
そう言われて遥はいくつか説明した。探索者協会で募集、もしくは野良のパーティ募集に入って勧誘、募集しているパーティやクランに自分から行くこと。他にも紹介してもらうなどを話した。インターネットを使った方法もあるがプリシラが理解できるかわからなかったためそれは省いた。他には今”お誘い”が来ている企業にやってもらうなどがあると話した。
「こんなところかしらね~。どれもこれもプリシラの場合は大変よ。絶対取り合いになるもの。ていうかもう取り合いになってるもの」
「………今はそれで十分」
「わかったわ。じゃあ私は折笠さんに相談してくるわ。プリシラは今日はどうするの?」
「………ジョブとダンジョンの資料を読む。まだ全部読めてない」
互いのやることを確認し、プリシラは部屋に戻り遥は折笠の元へと向かった。
遥と折笠の相談の結果、渋谷など人が多い都会のショッピングモールではなく田舎のショッピングモールが良いのではないかということになった。人が多いと落ち着いて見られないだろうという判断だ。スーパーなども考えたが田舎のショッピングモールならそういうものもある。向かうのに時間はかかるが道中も車の中で話しながらゆっくり出来る。
問題はマスコミだがカモフラージュで先に何台か出て別方向に行ってもらうことになった。手伝うのは研究所の職員。仕事という名目でマスコミをおちょくる仕事ということでノリノリで手伝ってくれた。
翌日、研究所から車で1時間半ほどの場所にあるショッピングモールにプリシラと遥がいた。幸いにもマスコミは大半を撒けたようで二人だけだった。さらに遥とよく話すことがある記者だった。むしろよく当てたなと感心したくらいである。当日になって時間差と別の目的地で他の人物を出すという二段構えだったのにも関わらずである。
「本当によく気づきましたよね」
「遥さんの取材に命かけてますので」
「私は運が良かっただけです」
「ストーカーはやめてくださいね。あとプリシラは極度の男性嫌いなのでストーカーさんは近づかないでください。あと、私たちの邪魔は絶対にしないでください」
「ストーカーじゃありません。邪魔はしません」
「遠くから見るだけにします」
ストーカーが混ざっていたが気にせずにプリシラを連れてショッピングモールにあるスーパーのほうへ歩いていく。プリシラはガントレット無しのダンジョンに潜る時のいつもの格好で遥は自衛隊の制服だ。プリシラは髪色もあって遠くから見ればコスプレイヤーでしかない。遥は女性警察官に間違えられるだろう。見方によっては女性警察官にしょっ引かれているコスプレイヤーだ。
こんな二人が目立たないわけはなく注目の的である。幸い平日の午前中ということで見ているのは大半は店員である。
遥は今回のショッピングモールでの社会勉強を楽しみにしていた。プリシラの服と一緒に自分の服も買ってしまおうと考えていたのだ。ここは有名ブランドの服屋がある。最近買えてなかった服を買うには良い機会だった。そしてプリシラというファンタジーの世界にしかいないエルフを着せ替え人形にできるのが楽しみだった。
(今日はついでに楽しむわよ~♪)
楽しむ気満々だが、それは叶わないのだ。これからプリシラが引き起こすことによって………。
スーパーで食材の類を見ていた時はプリシラはおとなしく値段を見ていた。そして億という単位がいかに高額かを理解していた。順調にいっていると思っていたがそれは簡単に崩れ去る。
スーパーでのちょっとした買い物を終えて二階に向かおうとしていた時だった。
「じゃあ食品とか生活用品とかは終わったから次は服とか見に行きましょうか。値段とかどんなのがあるかとかね。試しに着ることもできるから着てみると良いわ」
「………わかった」
次の内容を話して歩いていたのだが、遥はエスカレーターに乗る前に振り返った。そこにはプリシラはいなかった。
「え?」
振り返ると誰もおらず遠くに記者が見えただけだった。二人とも困惑している様子だ。
「ど………どこ行ったのよーーーーー!」
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