29話 女神
『ようこそ。異界の者よ』
顕現した女神が口を開くとプリシラを待っていたかのような内容だ。
「………私のことはもうわかっているのね」
少し距離があったため女神に向かって歩きながら返答するプリシラ。
『この星に存在しない種が現れ派手に暴れたのならば気づきます。本来ならばこうして話すことなどしないのですが、あなたはこの星には居ない存在でありながら我々のレベルシステムに適応している。どういった影響が及ぶかを調べねばなりません』
「………それは私も望んでいたこと。むしろ調べてもらいたい」
『では、こちらへ』
互いに目的が一致しているため話はすんなりと進む。プリシラが女神の前に行くと、女神は手をかざしてプリシラに掌から光を当てている。
『しばらくかかります。少し待ちなさい。その間にあなたがこちらへきた時の状況を話しなさい』
プリシラは大人しく指示に従う。一方の遥は唖然としてやりとりを見ていた。記録でも本人の経験でも神々がここまで話してくることなどなかったのだ。神々としてもプリシラの存在は異常だということだと結論づけた。
見守っているとかざした掌から出ていた光が収まった。
『ふむ。問題はいくつかありますが、あなたは奇跡的に我々のレベルシステムに適合しているようです』
「………問題は…ジョブ?」
『それとステータスの表記です。おそらくですが、これは予想になりますが徐々に我々の表記に変化するでしょう。しばらくは様子見をしなさい。ジョブに関しては『聖魔拳王』というジョブは我々のレベルシステムでは確認していません。これも現段階では様子見です』
「………わかった」
『よろしい。では報酬といきましょう。願いを言いなさい』
やりとりが終わったがプリシラとしてはモヤモヤとした感覚だ。結局は『今の所問題はないが何もわからないから様子見』なのだから。そう思っていても仕方ないと考え、プリシラは聞きたいことを聞くことにした。
「………あなたの力で、私を元の世界に帰すことはできる?」
『
「………………そう。わかった」
わかっていた事実を突きつけられたが、希望が残っていることもわかった。自分が前に進む理由はまだ残っている。それを確認できただけでも十分だった。
『他の願いを言いなさい』
「………遥。何かない?」
「え? プリシラが好きなのをお願いすればいいじゃない」
「………思いつかないから遥が言って」
「ええ~………」
いきなり願いがないかと言われても返答に困る遥。プリシラの目的に何らかの願いもあるのかと思っていたため何も考えてなかった。
誰かの役に立ちそうな物はないかと考えた時に脳裏によぎったのはプリシラの健康面を管理している折笠だった。プリシラは地球に唯一存在するエルフだ。人間に酷似しているが人間の医療をそのまま適応していいかがわからないと言っていた。もしプリシラが病気になった時を考えると不安だとボヤいていた。
そのことを思い出した遥はランクの高いキュアポーションを要求することにした。
「可能な限り多くランク5キュアポーションをください」
『……………』
返ってきたのは沈黙。これはこのダンジョンの踏破とは釣り合わないと言われているのに等しい。今までも叶わない願いには沈黙が返ってきている。プリシラの問いに答えたのはプリシラが相手だったからの特例だろう。
「では可能な限り多くランク4キュアポーションをください」
『よろしい』
遥の前に光の粒子が集まってくる。集まった粒子はポーション瓶の形になっていく。光が収まるとそこには三本のランク4キュアポーションがあった。
『では、またお会いしましょう。異界の者よ』
そう言い残して女神は消えていった。消えた場所には帰還用の魔法陣があった。
「…聞きたいことは聞けた?」
「………うん。まだ希望があることがわかっただけで十分」
「そう。じゃあドロップアイテムを回収して帰りましょうか」
「………わかった」
最下層ボスのオーガキングとミノタウロスのドロップアイテムを回収する。ドロップアイテムは大きな魔石とスキルオーブが一つと刀が一振りだった。
「武器とスキルオーブが出るなんてかなり良いドロップね。これは風魔法のスキルオーブかしら? それに刀も私が使ってる物よりも良さそう」
渋谷のダンジョンから出るドロップ記録からするとかなり良いドロップだった。中には魔石のみの時もあったと記録にはある。遥の経験からこれはかなり良いドロップだった。
「………風魔法のスキルオーブと刀は遥が使えば良い」
「え? プリシラが倒したんだから売るなり好きにすれば良いわよ」
「………じゃあこの二つは遥にあげる。剣王と風魔法は相性が良い」
「う~ん……嬉しいんだけどちょっとね。素直に受け取るわけにはいかないのよ。自衛隊との関係もあるから」
「………そう。じゃあ帰ってからどうするか決めればいい」
「そうするわ。あとこのキュアポーションは一本はプリシラ用だからね」
「………何で?」
「あなたが病気になったらマズいのよ。この国の医療技術で治せるかわからないわ。あなたはこの地球で唯一のエルフだもの。人間の病気は治せてもエルフが病気になった時どうすればいいかわからないからよ」
(言われてみるとそうだね~)
プリシラに説明すると納得したようだ。ララベルも抜けていたようでプリシラと一緒に納得していた。
「ランク4のキュアポーションのあと二本は売っていいかもね。これかなり高値で売れるのよね」
「………どのくらい?」
「1億円くらいだったかしら。オークションならもっといくわね」
「………よくわからない」
「金銭感覚も勉強しないとね」
ランク4のキュアポーションは世界中で求める人がいる。キュアポーションは病気などに聞くポーションだ。何の病気が治るかは正確にはわかっていないがランク4となると大体の病気は治る。ステージⅡの癌が治ったという報告もあるため世界中の富豪が求めている。
回収し終えて二人で転移陣に乗った。
「じゃあいくわよ~。魔力を通してからちょっとかかるからね」
「………わかった」
プリシラの肩を掴みながら転移陣に魔力を流す。魔法陣が光を出してから約20秒後に一瞬の浮遊感の後に最下層を後にした。
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