27話 焼肉

 二人でぐっすり寝てからの翌朝。遥がテントを出ると結界の周りに何人か人がいた。遥が出ると慌てて何人かは去っていった。残りの数名もすぐに去っていった。全員昨日とは違う面々だ。どうやら二人が寝ている間に探索に出たようだ。


 気まずい朝を迎えた遥はとりあえず朝食の準備をした。結界があるので周りを気にするのをやめ、調理道具を出して鍋にレトルトのミリ飯を温める用のお湯を作り出した。


 プリシラも起きてきて椅子に座った。プリシラが出ることでさらに注目を集めた。遥はヤケになり朝からカレーのミリ飯を選んだ。プリシラがカレーの色に戸惑っていたが遥が食べるのを見て口にしていた。気に入ったようでカレーをすぐに完食していた。


 視線のある中食べ終え、テントを片付けて再び探索を開始する、昨日と同じように結界の椅子に座らされる遥。仕事は道案内とドロップアイテムを受け取ることだけである。座っているだけなのに居た堪れない気分になるが仕事があるのでまだマシだと思い大人しく座っていることした。


 相変わらず魔物を一撃で倒していくプリシラ。階層が進むにつれて魔物が強くなり数も増えて一撃で倒せなくなってくるがプリシラを止めることはできなかった。精々進行が遅くなるくらいであった。


 そのまま三日間進み、29階層のセーフエリアまで来ていた。ここまで来るとセーフエリアとはいえ誰もいなかった。なので遥は調理器具を出してのんびり食事を作っていた。28階層と29階層で出くわした魔物、ミノタウロスがドロップした肉塊をステーキサイズに切って焼こうとしている。


「フライパンも買っておいて良かったわ~。まさかミノタウロスの肉がドロップするなんてね~♪」


「………ミノタウロスはこっちでも美味しい?」


「ええ。一回だけ食べたことあるんだけどすっごい美味しいわよ。なかなかドロップしないしかなり下の階層まで来ないといけないから出回らないのよね」


「………楽しみ」


「簡単な味付けになるけどね。こんなのなら保存用の容器も買って来ればよかったわ」


 ダンジョンで食用の肉をドロップする魔物がいる。代表例がオークだ。オーク肉はかなりの量が流通していてたまにスーパーにも並ぶほどである。他にはウサギの魔物の肉が数多く出回っている。


 だが、ミノタウロスなどの高ランクダンジョンの下層にいる魔物の肉はドロップ率も低くなかなか出回らない。さらにミノタウロスが強いので倒すのも一苦労である。出回っても希少性からA5ランク黒毛和牛よりも高価な値段だったりする。味も同じくらいに美味しい。


 肉塊から分厚めに切って焼いている。二人で焼けていく様を眺めている。ジュウウウウウという音と匂いがセーフエリアに広がる。二人しかいないので何も気にする必要はなかった。


「そろそろいいかしらね~」


「………私はもうちょっとだと思う」


(私はもういいと思うよ~)


「プリシラはしっかり火が通っているのがいいの? 少し蒸すようにするから大丈夫よ」


 フライパンに蓋をして弱火にして2~3分ほど待ってから蓋を開ける。焼けた肉の香りが二人の食欲をそそる。まな板に移してナイフでカットしていく。皿に盛り付けるのを省き塩を少量かけそのままフォークを刺して食べる。


「いただきま~す。………美味し!」


「………凄く美味しい」


「ご飯も用意しておいてよかったわ。二人だと物足りないからもう一枚焼きましょうか」


「………そうしよう」


 女子力のかけらもないワイルドな食事をする二人。美味しい食事の前に女子力というものは必要ないのだ。この場には二人しかないから視線を気にする必要もない。


 プリシラと代わったララベルが感想を漏らす。


「うわー美味しい~! 噛むと肉汁がジュワッて出てくる! ワインにも合いそうだし、このお米ってのによく合うねー!」


「お米とお肉の組み合わせは最強よね!」


「うんうん。本当美味しい。でもちょっとさっぱりしたものも食べたいかな。スープでなんとかなってるけどね」


「ダンジョンの中だからね。そこまでは出来なかったわ」


「十分だけどね。ところで残りの肉はどうするの?」


「保存容器があれば持ち帰るんだけどね。マジックバッグとはいえ中の時間は止まらないからダンジョンを出るまでに傷んじゃいそうなのよね」


 ダンジョンでドロップした食材を持ち帰る用の保存容器も販売している。小型冷蔵庫のようなもので人気がある商品だ。だが今回は遥はここまで来ることを想定していなかったため買わなかった。


「その鍋結構大きいからその肉塊入るよね?」


「入るけど冷やせないわよ」


「ほい」


 手をかざして魔法を発動するララベル。すると鍋いっぱいに氷が現れた。


「これで大丈夫!」


「これなら蓋をすればいけそうね。表面の方は少しダメになるかもしれないけど持って帰れそうね。いいお土産になるわ」


 2枚目を焼いているが肉塊はまだある。鍋に詰め込みマジックバッグへ入れる。2枚目の肉を堪能して睡眠を取る。グッスリ休み、起きて朝食を取って渋谷ダンジョンの最下層である30階層へと向かうことにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る