25話 渋谷ダンジョン

 エロ本のことを報告し終えて遥とプリシラは渋谷のダンジョンに入った。


 渋谷のダンジョンは難易度Bランク中位で30階層ある石造りの迷宮型ダンジョンとなっている。出てくる魔物はゴブリンなどの人型や狼系の魔物が多い。


 遥は再びスマホの電源を入れて探索者協会が提供しているダンジョン用の地図アプリを起動する。ダンジョン内に電波は入らないが事前にダウンロードしてあればオフラインでも地図情報は見れる。プリシラにスマホの画面を見せる。


「これがこのダンジョンの地図よ。スマホを使えば紙の地図を持ち歩かなくても地図を見れるわ」


「………便利」


「ここのダンジョンは最下層まで8割くらいは情報があるわ。最短ルートも示してくれるの。この赤い線が最短ルートね」


「………罠がどこにあるかはわからないのね」


「さすがにそこまではわからないわ。罠の場所毎回変わるらしいの。どういった罠があったとかの記録は見れるけどね。入ってすぐのここは1階のセーフエリアになってるわ。渋谷のダンジョンは五階層おきにここに戻ってこられる転移陣があるの。今ちょうど戻ってきたわ」


 遥が壁の方を指刺して転移陣の発動した場所を示した。地面に魔法陣が浮かび上がり、光がいくつも柱のように立ち上がり五人が魔法陣に現れた。


「あんな感じで戻ってこれるの。プリシラのいた世界にもダンジョンあったんでしょ? あんなのはなかった?」


「………同じのがあった。魔法陣に乗って魔力を流せば発動する」


「じゃあ同じね。それじゃあ私たちも行きましょうか。カメラのスイッチ入れてと…じゃあ最短ルートを通るわ」


 遥と一緒に歩いていくプリシラ。プリシラはいつも通りの装備だ。遥はスタンピードの時と同じように刀と防弾チョッキのようなベストに迷彩服だ。ブーツには鉄板が仕込まれている。さらに鎖帷子の進化版のような薄い軽量金属鎧のようなものを着込んでいる。自衛隊のアタッカーとしては標準的な装備だ。役割分担がしっかりされている自衛隊のアタッカーは身軽さを優先している。


 カメラは探索者活動の記録とともに犯罪に巻き込まれた時等の証拠などに使用する。探索者の多くがカメラを使用して探索しているし探索者協会も推奨している。証拠がなければ言った言わないの水掛論になるのを防ぐためと自身の潔白を証明するためである。


「………資料を読んだ限り五階層くらいまでは遥一人で大丈夫だから進む速さは任せる」


「ちゃんと援護してよね。私にはまだこのダンジョンはちょっと早いくらいなんだから」


「………死なない限りは治してあげる」


「…どういう反応をすればいいかわからないわ」


 プリシラの治癒スキルの高さに驚けばいいのか、最低限の援護しか来ないのかがわからない。遥は考えるのをやめて最善を尽くすことにした。事前に低階層では遥に任せるということを決めてはいたが不安な立ち上がりだった。


 1階層は魔物が出てもほとんど単体で出てくるためそこまで苦労はしない。しかしBランクのダンジョンということもあって魔物はかなり強い。ゴブリンエリートというゴブリンの上位種が出てくる。ジョブにもよるが最低レベル100以上でないと倒すのは難しいと言われている。


 エンカウントしたゴブリンエリートを倒してさらに進む。


「一体なら問題ないわ。多分三体になるときつくなるから援護してちょうだい」


「………危なそうな時にする」


「ちゃんとして!」


 どこか不安な言葉を返してくるプリシラ。遥は不安で仕方なかったが戦闘ではしっかりと援護をしてくれた。二階層からは複数体出てくることも多くなりゴブリンエリート以外にも体の大きなオークエリートや体長2メートル程度のグレイウルフが複数体など出てくる。プリシラはそれらに対して魔法で足止めをしたり引きつけなりなど遥が動きやすいように援護していた。


 プリシラの援護もあり魔物を倒すのにあまり時間はかかっていない。最短ルートを通っているため進行はかなり早い方で五階層まで来た。戦闘ではプリシラが援護しているが遥が1対1でも厳しくなってきていた。


「さすがに厳しくなってきたわね。私がメインでいけるのはここまでかしらね」


「………じゃあそろそろ代わる」


「お願いね。ちゃんと守ってよ。私足手まといなんだから」


「………私の用で付き合ってもらうのだから当然」


「といっても私監視みたいなものなんだけどね?」


「………気にしない。遥はここに座って」


「え?」


 進行役を交代して進んでもらおうと話すと座るように指示を出すプリシラ。そこには半透明の椅子のような物が出来ていた。


「何これ?」


「………結界で作った椅子。ちゃんと背もたれと肘掛けも足置きもある。座ったらさらに結界で蓋をする」


「座ればいいのね?」


「………うん」


 マジックバッグであるバックパックを前に持ち直してプリシラの作った椅子に座る遥。遥が座ったのを確認するとさらに椅子全体を半透明の結界で覆った。


「………そこに居れば安心。遥は道案内をお願い」


「そうなんだけどね? 私何もすることってえええええええええええ!?」


 プリシラが猛スピードで走り出すプリシラ。それと同時に椅子型の結界に座っている遥ごと移動した。プリシラが戦う時ほどの速さではないが時速50キロはありそうな速さで曲がり角まで来ると止まった。


「………このくらいの速さで進む」


「…わざわざ実演してくれてありがとう!」


「………? どういたしまして」


 その後もどんどん進んでいくプリシラ。道中の魔物はすべて一撃の元に倒していく。遥の役割は道案内とドロップアイテムを受け取るだけだった。


 道中各階層にあるセーフエリアで休憩を取り進んで10階層まで来たところで今日はセーフエリアで休むことになった。

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