24話 新機能発見

 翌日、ショッピングモール内にある探索者協会渋谷支部の受付は騒ぎになっていた。何故なら今最も世間を騒がせている有名人であるプリシラがいるからだ。マスコミも多数いれば一般人もスマホを片手に見ている。


「ダンジョンに潜る時はここで受付するの。ここで何日くらい潜るとか目的を伝えてからでないとダンジョンには入れないわ」


「………管理のためね」


「そういうこと。昨日渡した探索者証も必要になるから出して」


「………はい」


「お預かりします」


 受付の女性に探索者カードを渡して手続きをしていく。今日は遥との二人パーティで様子見で十日ほど潜る予定になっている。実際には五日を目安として潜るのだが周りで聞いているマスコミたちを騙すために十日と伝えることにしている。


「これで手続きは終了です。どうかお気をつけて」


「これで受付は終わりよ。じゃあ次は買い物ね」


「………買ってあるんじゃないの?」


「プリシラにこの国での買い物を経験させるために何も買ってないわ。そういうのも勉強しないといけないでしょ? あ、この子の探索者証の生体認証登録をお願いします」


「…出来るんでしょうか?」


「出来なかったら暗証番号で済ませるからいいみたいですよ。試してみましょう」


「わかりました」


 探索者証に生体認証を登録するために試してみることに。機械に手を当て読み取れれば成功だ。結果は成功。これで暗証番号を覚えさせてなくて済むと遥は安心した。


「大丈夫みたいね。じゃあ買い物に行きましょう。食料とかテントとかね。ここの二階にいろいろ売ってるから付いてきて」


「………わかった」


 受付から二階へと移動する。マスコミが後ろからゾロソロとついてきている。プリシラがエスカレータに驚いていた様子だったが相変わらず表情は変わらなかった。歩いてダンジョン内での保存食等を売っている食料品店とテントなどのアウトドアグッズを扱っている店で買い物を済ませる。調味料や調理器具などもありダンジョン内で調理することも可能である。


「買い物の仕方はわかった?」


「………多分大丈夫」


「まあ何度か経験すれば慣れるわ。じゃあちょっとマジックバッグに入れた物の記録だけ取っておくからちょっと待ってちょうだい」


 プリシラの探索者証の購入履歴を見れば分かることだがまだ使いこなせていないため遥が記録を取る。スマホを取り出しわざわざ出してもらったレシートを写真に撮っていく。


「………どうして記録をする必要がある?」


「マジックバッグに何入れたかわからなくなるじゃない」


「………?」


「ん?」


 お互いに首を傾げて認識の違いがあることを察する。


「………一覧機能は?」


「そんな便利な物あるの?」


(プリ。こっちの世界のマジックバッグは一覧機能ないのかもしれないから試してみると良いよ)


 ララベルに地球と向こうの世界の違いを言われて気づいた。向こうの世界との違いを見るのも目的の一つだったと。


「………貸して」


「マジックバッグを?」


「………うん」


 マジックバッグを受け取ると手に魔力を少し込めて、マジックバッグの中に魔力を込めた手を入れて一覧と念じるプリシラ。すると半透明の画面がマジックバッグの上に現れた。


「うそぉ!」


「………これで何が入っているかわかる」


 遥も驚いたが周りに者たちもざわつき驚いていた。誰もがこの機能を知らなかったのだ。世界で初めてマジックバッグの一覧機能が使われた瞬間だ。マスコミたちはカメラのシャッターを切りまくっている。


「ど! どうやるの!?」


「………手に魔力を少し込めてマジックバッグに手を入れて念じるだけ。解除する時は手を出すだけ。やってみて」


「魔力……魔力……」


「………身体強化を使いながら念じれば良い」


「それでいいのね」


 遥のジョブが剣王だということを知っているプリシラは一番手っ取り早い方法を教える。すると遥もマジックバッグから一覧を出すことが出来た。


「うわー……今までの苦労はなんだったのかしら………ん?」


「………?」


 遥がマジックバッグに入っている物の一覧を見て首を傾げ、表情はどんどん眉間に皺が寄っていく。遥が見たのはマジックバッグの一覧にあるとある項目だった。



 生意気な美人部下はベッドで調教され俺の奴隷になる



 エロ本かアダルトビデオの類を見つけたのである。考えるのをやめた遥はそっと手を抜いた。そしてあのセクハラバカ上官に嫌がらせのように伝えることにした。社会的に抹殺してしまおうかと思ったが自衛隊なため自分にも被害が出るのでそれはやめた。嫌がらせだけにすることにしたのだ。


 もっとも、マスコミと野次馬もその一覧を撮っていた。遥がダンジョンに潜っている間に問題になるのだが、それを知るのはダンジョンから出てきてからである。


「ふー………とりあえずプリシラ。先にこの機能を協会に報告するからもう一回受付にいきましょうか」


「………わかった」


 どこか機嫌が悪くなった遥を察して声をかけようと思ったが理由がまったくわからないのでプリシラは何もしないことにした。脳内でララベルも同じ判断だったようでプリシラを止めていた。


 受付に来てマジックバッグの一覧を実演する。受付の女性はかなり驚いて口を空けたままで数秒固まってしまった。持ち直した受付の女性はすぐに自分でも試させてもらい確認していた。プリシラたちに詳しく聞くために応接室に行こうと思ったがこれからダンジョンだということで拒否。早くダンジョンに行かせろということだ。


「プリシラ。上に連絡だけさせてちょうだい。こればっかりはしておかないといけないの。自衛隊と探索者協会は違う組織だからね」


「………わかった」


 自衛隊には来る前に連絡してあるので問題はないのだが目的は別にあった。上司への嫌がらせである。上司の坂本へと通話をかけるとすぐに出た。


『もしもし。どうした一条?』


「一条です。これからダンジョンに入ります。それと一つご報告があります」


『ん? 何かあったか? ダンジョン行くのはわかるが………』


「マジックバッグにエロ本を入れておくのはやめたほうがいいですよ」


『は?』


「以上です。では」


 それだけ伝えて通話を切り、スマホの電源を切った。


「じゃあ行きましょうか」


「……………うん」


 急にスッキリしたような表情で話しかけてくる遥に少し動揺しつつ歩いていくプリシラ。何が何だかわからないけど遥の機嫌が戻ったのならいいかと考えないことにした。


 受付からも見えていた20メートル四方ある入り口前でもう一度探索者証を機械に通してからダンジョンに二人で入った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る