デンドロビウム

23話 確認するために

 スタンピードは終息を迎えた。各地から探索者たちが魔物の掃討に参加した。遠方の地方から来た者たちが到着した頃には魔物を探し出すような段階にきており結果として徒労に終わる者もいた。


 被害は出たが都心近くのBランクダンジョンがスタンピードを起こしたとは思えないほど被害は軽かった。これは世界的に見てもスタンピードの被害としては軽いものだった。


 一夜明け事後処理に自衛隊と探索者協会は追われていた。そんな中一番活躍したであろうプリシラは研究所にあるGランクの平和なダンジョンで鮎の塩焼きを食べて昼寝をしていた。


「こんなのでいいんでしょうか……」


「いいんじゃない? おかげで復旧作業とか行かなくていいんだから」


「自衛隊員として……」


「これも仕事でしょ?」


「……むう」


 プリシラの世話役として一緒にダンジョンに来ている遥と折笠。プリシラのMP回復のため付き添いでダンジョンにいた。正義感の強い遥は自分だけ楽していいのかと疑問に思っていたが折笠にこれも仕事だと言われて黙るしかなかった。


「むしろ今はあなたにしかできない仕事でしょ? おっぱい揉ませてあげたりね」


「そういう条件でしたけどね………」


「今は楽でいいじゃない。きっとプリシラがダンジョンに行き始めると一緒に行くことになるわよ。それにもう行きたいって言われてるんでしょ?」


「はい……Bランクのダンジョンに行きたいと」


 プリシラは研究所に帰ってきてからBランクのダンジョンに行きたいと伝えた。理由としては確認したいことがあるとのことだった。他にもスタンピードでBランクダンジョンの魔物の強さを知ったが他のダンジョンも確認したいとのこと。ダンジョンの中も知りたいらしく五日くらいは潜って他にも確認するそうだ。


 プリシラは報酬として自由を求めた結果、総理大臣から一国民として迎えると言われており、国の機関に所属させることもないと言質を取っている。さらに探索者協会副会長の田原菫が証人としているため約束は守られるだろう。そのためいつまでも研究所に居座る気はないと本人から聞いている。


 世話役の遥としても都合が良かった。プリシラがダンジョンに潜るのならば探索者協会に登録しなければいけないし、生活に必要なお金の使い方等の社会勉強もさせたかった。他にも学ばせなければいけないことは多々ある。探索者協会からは準備はできていると聞いているがスタンピードの後なので少し時間を置きたかった。


「スタンピードの後なのですぐに行くというのも……」


「叩かれそうな気がするわねー。あと多分論功行賞で呼ばれる気はするわね。報告聞いた時はあまりの戦果に驚いたわよ」


「私も予想外でした。論功行賞…いつ頃になるんでしょうか……」


「それはあなたのほうが詳しいんじゃない? というか論功行賞なんて言ってみたけどあるのかも知らないわ。でもあるとしてもすぐには無理でしょ。復興作業とかがある程度片付いてからだと思うから一月くらいじゃないかしら?」


「上には言ってありますが……すぐに返答があるかどうか………」


「OKが出たとしてすぐ行くの?」


「気が引けますけどそのつもりです。出来るだけ早く社会勉強させたいですし、気になることは解消させておいた方がいいと思います」


「プリシラの性格からして気になることは解決させておいた方が良さそうよね。何か考えあってでしょうし」


 頻繁にプリシラと一緒にいる二人は何となくだが性格はわかってきている。決めたらやるし力ずくでもやろうとする時もあるがやろうとしたことがダメな時はちゃんとした理由があれば納得して諦める。そしてマイペースで結構頑固でおっぱいが大好きである。


 王族、高レベルの実力者、価値観の違い、異世界人ということを考えるとかなりの常識人である。暴走族や犯罪者等と比べるとよっぽど常識人だ。基本的にはおとなしい。その証拠にMPが戻って実力を出せる状況になってもおとなしかった。これが傲慢な性格の王族だったならこれほどおとなしくなかっただろう。


 ちゃんと言うことを聞ける性格なため社会勉強も上手くいくと遥は考えている。


「プリシラはわからないものでもちゃんと理解しようとしますから」


「そうね。そろそろ行きましょうか。プリシラを起こしましょう。まだ検査あるし」


「この調子なら問題なさそうですけどね。プリシラ起きて」


 昨日プリシラはかなり激しい戦闘をしたと思われるため念には念を入れて健康面を配慮して検査している。何せこの地球に一人しかない種族なのだ。なにかあっても対応しなければいけない。そしてこの実力が失われることは世界の損失だ。そのため健康面についてはこの研究所を出ても国が見ることになっている。


「………もうちょっと」


「もう~帰って検査よ」


「仕方ないわね。あと30分ね。私もちょっと寝るわ」


「折笠さん………」


 プリシラに便乗して折笠が寝てしまったため仕方なく遥は見張りをするのだった。


 二人が起きて研究所に戻るとプリシラは折笠と共に検査へ。遥は所長に呼ばれたため所長室へと向かい部屋をノックして返事が来てから入室すると、所長の田原と自衛隊の坂本一佐、それに探索者協会副会長の田原菫がいた。さっそく上官の坂本が声をかけてくる。


「やあ、相変わら「セクハラです」……あいk「セクハラです」……あ「セクハラです」………いつものありがとうよ」


「毎回やるんだねぇ」


「まったく…飽きないのかい?」


「訴えられないだけマシかと?」


「まあ何回もやってるしな。とりあえず、昨日はご苦労さん」


「はい。皆さんもお疲れ様でした」


「本当にね。疲れたよ」


 互いに昨日の出来事を労う。特に田原菫は疲労が濃かった。


「つってもまだ仕事は山ほどあるんだけどなぁ。さっそく何か許可求めてきたりな」


「仕事ですので」


「わかってるよ。昨日のMVPがダンジョン行きたいっつってんだろ? 別に行ってきていいぞ。むしろ行ってきてくれたほうがありがたいまである」


「珍しく判断が早いですね」


「マスコミがなぁ……ここの駐屯地の入り口前に大量にいるんだよ。轢き殺せって指示したくなったぞ」


「私もそう指示しそうになったよ。ヘリまでいるしね」


「朝からひどかったよ。帰らず泊まって正解だった」


 二人とも研究所とダンジョンのあるこの駐屯所に来る際に入り口付近で大量のマスコミに囲まれていた。何故ならプリシラがここにいるからである。発表前からも来てはいたがテレビでかなり目立ってしまったためマスコミ陣が殺到しているのだ。あの開いた後部ハッチの中央で仁王立ちから飛び降りるシーンは今朝のテレビや新聞等のニュースで大々的に取り上げられていた。


 インターネット上でも各種SNSでトレンドのトップに上がっていた。さらに一緒に戦闘に参加した者たちがSNSでプリシラのことを話すなどして一日経った昼の今でも一部SNSではトレンドのトップになっている。


「あいつらを大人しくさせるためにダンジョンの中に行ってもらった方がいいんじゃねぇかってことだ」


「確かに……そうかもしれませんね」


「ちなみにどこのダンジョンに潜りたいとかわかるかい?」


「渋谷ですね。今回のスタンピードと同等のランクのダンジョンを希望しています。あそこもBランクの中位ですから」


「わかったよ。警備とか準備があるからね。何時潜るか決まったら連絡しておくれ。私じゃなくても夫にでもいいからね」


「僕は研究所にいるからいつでもいいよ」


「わかりました。早ければ明日にでも行くことになるでしょう。渋谷なので買い物などの社会勉強もさせたいですし」


 渋谷のダンジョンは入り口を囲むようにショッピングモールがある。ダンジョンのすぐそばということでダンジョンに潜るのに必要な物を扱っている店が数多くある。武器から食料まで一通りそこで揃うのだ。


「随分早いね。用意しておいて良かったよ。これがあの子の探索者証だよ。お金も入ってるし生体認証が済んだら暗証番号は消してもらいな。あと住む所が決まったら住所の変更もね。今は私の家になってるから」


「え? お金は自衛隊から出してもらうことになると思ってました」


「金に関しちゃ国は取るのは早いが出すのは恐ろしく動きが遅いからね。だから私個人でさっさと出しておいたよ。とりあえず1000万口座に入れてあるから稼ぎで返してくれればいい。あの子が渋谷のダンジョンに潜るならすぐだろ」


「ありがとうとざいます」


 探索者証のカードにはいろいろとデジタル技術が盛り込んである。その一つがキャッシュレス決済で俗にいうデビットカードやクレジットカードである。他にも会員制の店舗の会員カードにもなったりする。手続きは必要だがしてしまえば楽に使用できる。


 そして上位の探索者の稼ぎは良い。もちろん税金はあるがBランクのダンジョンに潜る者なら月に1000万以上稼ぐことも可能だ。下層の素材やポーションなどであればもっと稼ぐことができる。もっともその分リスクは大きい。賭けるものは自分の命なのだから。


 坂本が思い出したように声を上げた。


「あとこれ渡しに来たのもあったんだった。ほらよ」


「マジックバッグじゃないですか。貸し出していただけるんです?」


「ああ。最初だけな。五立方メートルサイズだから結構入るぞ。中身は抜いてあるからよ。何入れたかはちゃんと記録しておけよ。素材とか勿体無いからな」


「わかりました。ありがとうございます」


 マジックバッグ。説明不要。見た目以上に中にたくさん物が入る魔法の鞄である。これは現代の技術ではまだ再現できていない。現存するものはすべてダンジョンでのドロップ品や宝箱から出た物、もしくは踏破の報酬として神に願った物である。


「じゃあ俺は渡すもん渡したし戻るわ。あ~戻りたくない。もっとサボりてぇなぁ」


「私も協会に戻ろうかね。自衛隊ほどじゃないけどこっちも忙しいんでね」


 坂本と田原菫が嫌そうにしながら退室していった。遥も所長に一礼してから退室した。その後はプリシラの元に向かい何時ダンジョンに行くかを話すと明日ダンジョンに行くことになった。

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