第14話 プリシラの実力

「いったい……何が起きているんだ!」


 訓練場を見渡せる高い位置の観覧席からプリシラと自衛隊員たちの模擬戦を見ている政治家の一人が声を荒げた。


 そこへ模擬戦をしている隊員が吹っ飛んできた。


「うわっ!」「きゃあ!」「どわあああああ!」


 観覧席から悲鳴が上がり観覧席は軽いパニック状態だ。そこへまた一人吹っ飛ばされてきた。


「うわあ!」


 観覧席は騒然としたままだ。一人の政治家がつぶやいた。


「あれは……バケモノか………」





 ◇





(まず二人)


 プリシラのすぐ近くにいた剣を持った自衛隊員がプリシラめがけて剣を振りかざした。


「この!」


 振りかざしてきた剣を避けるとプリシラはそのまま移動した。先ほどの安藤目掛けて突っ込んだ。


「おちつごはっ!」


 先のガタイのいい男と同じように掌底を腹に叩き込み吹っ飛ばした。追撃するように追いかけ、通り抜けざまに他の後衛に蹴りを放ち倒していく。


「ぐっ!」


 蹴られた隊員は腕で何とかガードしたが腕の骨が折れるのを感じた。吹っ飛ばされている最中にこれではもう戦えないと感じ転がり、そのまま倒れているのだった。


 プリシラは安藤に追撃をかける。直感で安藤が指揮官だと感じていたから先に潰すことにした。転がる安藤に追いつき足を踏み骨を折った。


「ぐああああ!」


 そして鳩尾に一撃入れて気絶させた。


(これで指揮官は倒したからあとは楽勝かな~?)


(あとは偉い人たちが居るところに何人か吹っ飛ばして全員倒すだけ)


(簡単に言うねぇ~)


 こちらに向かってくる前衛と、魔法を撃ってきている後衛を確認すると、プリシラは自分の出した石柱目掛けて跳んだ。


(何で柱出したのかと思ったら足場に使うんだね~)


(手の内は出来るだけ見せない)


 柱を足場にして一番近い位置にいた後衛目掛けて超スピードで跳んだ。一瞬で目の前に移動し上に飛ばすようにして掌底を叩き込んだ。


「ごはっ!」


 ちょうど政治家たちのいる観覧席に飛んで行ったのでプリシラは満足だ。そのまますぐ近くの後衛の脚を掴み前衛たち目掛けて投げ飛ばした。


「うわあああああああ!」


 後衛はあと二人いるが一旦放置し投げ飛ばした方にいる前衛たちに攻撃するため駆け出した。一人を投げ飛ばされて体勢を崩しているものを容赦なく殴り飛ばしていく。観覧席目掛けて吹っ飛ばすために掌底を多用した。元々1対多では相手を吹き飛ばすことをよくしていたプリシラにとってはいつもの戦い方だった。


 集団の中で戦っているため後衛の魔法使いは魔法を撃てない。その状況を利用してプリシラは四人戦闘不能にし、すでに半数を倒してしまった。この間わずか1分にも満たない時間の出来事である。自衛隊はもう完全に崩れている。


「うわああああああ!」


 一人の後衛が無我夢中でプリシラ目掛けて圧縮した氷魔法をプリシラ目掛けて放った。長さ1メートルほどの尖った氷塊がプリシラ目掛けて飛んでいく。


「バカ! 模擬戦だぞ!」


 加藤が叫ぶがすでに魔法は放たれていた。プリシラにとってそれを避けることは簡単だった。だが、プリシラは避けずに裏拳で殴りその氷塊を粉々にしてしまった。


(避ければ良かったのに~)


(なんとなく砕きたくなった)


 そしてそのまま氷魔法を撃ってきた者目掛けて踏み込み、一瞬で距離を詰めてまた掌底を叩き込み吹っ飛ばした。吹っ飛ばされた者はプリシラの出した石柱に激突した。


(角度が悪いねぇ~)


(あと一人は観覧席に吹っ飛ばしたい)


 そこへ上空からプリシラ目掛けて攻撃する者がいた。プリシラの出した柱を利用して攻撃してきたのだ。それに気づかないプリシラではない。その者を無視してプリシラは他の者に攻撃を仕掛けに行った。何故なら上から襲いかかる者を吹き飛ばしても角度が悪く観覧席に吹っ飛ばせないからだ。


 ちょうど良い位置に一人いたので吹っ飛ばすために跳んだのだが、良い位置のすぐ横にもう一人いたため先に魔法を撃っておくことにした。


「サンダーショット」


 雷が二人に当たり動きが止まった。そこへ掌底を叩き込むプリシラ。狙い通り観覧席に吹っ飛んで行った。もう一人飛ばすことができてプリシラは満足だ。横にいた者を足払いして倒し、鳩尾に打ち込み気絶させた。


(あと六人だね~。魔法で終わらせちゃえば?)


(う~ん…)


 脳内でララベルと悩んでいると加藤が大剣を振りかざしていた。裏拳で大剣を弾き、そのまま鳩尾に拳を叩き込んだ。


「おえっ!」(だから逃げたかったんだよ……)


(あと五に~ん♪)


(すぐ終わらせる)


 こちらに向かってきている三人に向かって駆け出すプリシラ。再びサンダーショットを三人に放ち動きが止まった瞬間に三人とも鳩尾に拳を放ち気絶させた。少し離れた位置にいた後衛も同様に倒してしまった。


 そして最後の一人。プリシラの出した柱を利用して攻撃してきた者が残ったのだが、武器を離し両手を上げていた。


「降参だ」


「………そう。気絶してるフリしてるあそこの人も?」


「え?」


 プリシラに蹴られて骨が折れ、もう戦えないと判断して気絶したフリをしていたが気づかれていた。指名されて慌てて起き上がり降参を宣言した。


(これで終わり~?)


(だと思うけどどうすればいいんだろう?)


(遥のところに戻ればいいんじゃない?)


(じゃあそうする)


 ララベルとの脳内会議を終えて一条の元へ行く。静まる訓練場を歩いていくと一条は口を開けて固まっていた。


「………遥。終わった」


「…ちょっと凄すぎて言葉が出ないわ」


「………これでも手加減した。遥はスッキリした?」


「なんとなくわかってたけどね。まあ安藤さんたちには申し訳ないけどちょっとスッキリしたわ。政治家たちの観覧席に飛ばしたのは狙ったでしょ?」


「………うん。狙った」


「良い仕事するわね」


「………頑張った。この後はどうすればいい?」


「そういえばどうするのかしら? もっと詳しく聞いておけば良かったわ。とりあえず折笠さんを呼ぶから」


 その後折笠が来てもう戻って良いと言われて研究所に戻る二人。遥は本当にこんなので良いのかと確認していたがそういう予定だったらしい。記者会見もないため不安でこの後探索者協会の副会長が来て何か話でもしにくるのではないかと心配だった。


 しかしその日はプリシラのMPを回復させるために折笠と一緒にダンジョンに入ってから就寝まで何もなかった。プリシラにおっぱいを揉まれただけだった。





 ◇





「いやー面白かったね!」


「所長………面白かったのは所長だけだと思いますよ」


「そうかなぁ~?」


 別室で見ていた田原たちは模擬戦が終わり感想を漏らしていた。九嶋は面白いと言うより恐怖を感じていたため田原には賛同できなかった。


「私は面白かったわ。こっちで見てて正解だったわよ」


「お! ほら。菫も面白かったって言ってるじゃないか」


「昨日家でこっちで見るように言ってきたから何かと思ってたけどああいうことだったんだね。観覧席にいたら怪我してたかもしれない。それにエルフにも会えたからね」


 探索者協会副会長の田原菫と、自衛隊ダンジョン研究所所長の田原義一は夫婦である。そのため守秘義務外のことは情報を共有していたりする。もっとも家では情報交換などまったくしない。棲み分けはしっかりしている。


「彼女どんな感じだった?」


「話したことないのかい? 聞いてたよりちゃんと受け答え出来る良い子だったよ。ちょっと天然入ってるけどね」


「話したことはないよ。だって男性嫌いだし」


「そういやそうだったね。だからあの無能じゃなくて厚労省の鈴木さんになったんだっけね」


「ダメだよそんなこと言っちゃ」


「学生の時の名残でどうしてもね」


「あの、お二人ともそろそろ…」


 夫婦で話し込む二人に割り込む底橋。底橋はプリシラの探索者登録の話をしたかったのだ。


「ああ、悪いね底橋。彼女の探索者証の発行だね。こっちは特に問題ないよ。国が何て言うか次第さ。まあ拒否したり制限かけようものなら世間が許さないだろ。あんな実力者を遊ばせておくなんてね。放っておいても勝手にドロップアイテム取ってくるだろ」


「ランクはどのくらいになるかな?」


「Cだ。それが限界。BやAはダンジョンでの実績がないと無理だね」


「確か1ランク上のダンジョンまで入れるんでしたよね? ではBランクのダンジョンまで入れるわけですか。随分大盤振る舞いな気がしますが…」


「さっきのを見てDとかEっていうやつは馬鹿だろうね。というかそんなランクにしてもすぐCとかBまで上がっちまうよ。わかるだろ?」


「まあ……確かにそうですけども」


「ならいいだろう? じゃあ私はこれから国の奴らと話さないといけないから行くよ。はぁ~……」


 嫌だという雰囲気を隠さずため息をつきながら退出していった。自衛隊の精鋭たちが何もできずに敗北したのだから政治家たちとの話は荒れるに決まっている。


「さーどうなるか楽しみだなぁ!」


「「所長………」」


 所長の田原だけは自分は蚊帳の外といわんばかりに状況を楽しんでいた。

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