第10話 管理ダンジョンへ

 翌日、朝食の後に管理するダンジョンに向かう。


 専用装備に着替えるプリシラ。黒のアンダーウェアにジャケット、内股が開いているハーフパンツに金属パーツがついたブーツ。そして両手にガントレットを装備する。


「………いじった後はない」


(昨日見て分かってたけど装備してなんともなくて良かったよ。魔力は少しずつ貯めていこうね)


「なんというか………絵になるわね」


 同じようにダンジョン探索用の装備つけた遥がプリシラの装備を見て感想を漏らす。遥にとっては見慣れない装備だったがプリシラが着ると絵になるのだった。


「………私の装備だから」


「そうなんだけどね。まあいいわ。行きましょう」


「………遥の武器は…その曲剣? 細いし扱いが難しそう」


「刀っていう武器よ。慣れるとそうでもないわ。一応ダンジョン産よ。皆まさか刀が出るなんて思わなかったらしいけどね」


 世界各国にあるダンジョンではその地に由来するような物がドロップする傾向がある。日本も例外ではなく刀を始め、日本古来のものが数多くドロップしていた。ダンジョン産の武器は付与効果が付いているものが多く重宝されている。


 さらに、『ミスリル』等のファンタジーの世界で出てくるような金属で出来ている物もあった。遥の刀も『魔鉄』という素材だった。


 互いの武器のことを話しながら歩いていると、二人と同じように装備をつけた折笠が待っていた。


「待ってたわ」


「………恵も行くの?」


「ええ。そう命令されたのもあるけど、プリシラが無理しないか見張るためよ。今日は歩くか軽く走る程度にするのよ」


「………別にいいのに」


「MPの回復が起きるかとかも調べないといけないの。あなたの体は分からないことだらけなんだから」


(プリ。調べてもらえるんだから我慢。こっちじゃ体の勝手が違うんだからね)


「………わかった」


 三人で研究所の一角にあるダンジョンへと向かう。ここのダンジョンはGランクと最低ランクのダンジョンで自衛隊が管理しており探索者になる者たちの訓練場としても使われている。申請すれば民間の者でも無料で使うことが出来る。


 フィールド型のダンジョンで中は多少起伏のある草原と湖がある階層が五階層ある。階層によって地形は変わるが大きな違いはない。魔物も簡単に倒せるスライムやゴブリンくらいしかない。入り口は黒色の大きい四角い枠。縦3メートルに横5メートル程度。入り口の大きさはダンジョンによって異なり高ランクのダンジョンほど大きい。


 三人揃ってダンジョンに入ると広大な草原と雲一つない青空がプリシラたちを迎えた。


「………」


「どう? こっちの世界のダンジョンは?」


「………魔力が満ちてる。ここなら回復する」


「よかったわ。景色も良いし少し歩きましょう。魔物は私たちで対処するわ。私は何年かダンジョン探索からは離れてたからほとんど一条さんにお任せになりそうだけどね」


「大丈夫です。ここなら何も問題ありません。湖を目指して歩きましょうか」


 折笠を先頭に草原を歩いて行った。


 どこのフィールドダンジョンも景観は素晴らしく、観光地扱いされているダンジョンもあるほどだ。気候も年中春先くらいでとても過ごしやすい。


 湖を目指して三人で歩く。道中スライムやゴブリンが出てくるが何の問題もなく遥が倒していく。湖について折笠がバックパックからタブレットを取り出しプリシラに問診していく。


「プリシラ。少し歩いたけど何ともない?」


「………何ともない。むしろ向こうにいるより調子が良い」


「MP…魔力はどう?」


「………回復していってる」


「わかったわ~。じゃあ次は湖に沿って軽く走りましょうか。私に合わせてちょうだい」


 タブレットに情報を入力し終えると折笠が走り出す。速さはジョギング程度で無理のない速さだ。舗装されていないため足場は安定しないが特に問題はない。走っていると湖から魚が一匹跳ねた。


「………ダンジョンの中に魚がいるの?」


「ええ。釣りが出来るくらいよ。潜って生態系を調べたらしいけど、稚魚が見当たらないらしいからダンジョンが生み出してる魔物と同じ扱いなのよね」


「………食べられる?」


「食べられるし美味しいわよ。どういうわけかここの魚は殺してもダンジョン内なら消えないの。しかも日本にいる魚が生息してるのよね」


 ドロップアイテムしかりその土地固有の生物が生息していたりする。森の中にも日本固有の虫などの生き物がいるが魔物として扱われている。ダンジョン外に生きたまま外に持ち出したがすぐに光の粒子となって消えてしまった。これが魔物と同じ扱いをされる理由である。


「ここは食べられる魚もいて塩焼きとかにすると美味しいらしいわ。今は釣る道具もないから出来ないわね」


「………私が狩る」


「どうやって?」


 遥は思わず聞き返してしまった。ただ純粋な興味だった。


「………こうやって。サンダーボール」


「キャア!」


 プリシラが湖に向けて手をかざすと湖面に電撃を放つ球体が現れた。すると少し離れた湖面に魚が五、六匹浮かんできた。


「…プリシラ。驚くから魔法を使うときは言ってちょうだい」


「………ごめん」


 折笠に叱られて力なく謝るプリシラ。表情が変わらないため悪いと思っているのかがわからない。


「あれ水の中に入って獲ってくるの? ちょっと距離あるわよ」


「一応昼食用にキャンプ道具を少し持ってきているけど、着替えは持ってきてないのよね」


「………私が獲ってくる」


 プリシラが歩き出し湖面を歩き出した。それを見ていた二人は驚愕のあまりに声を失った。プリシラが湖面から魚を一匹ずつ持ち上げ空中に置いていく。空中に籠があるかのように魚を取るプリシラを見て二人は開いた口が塞がらなかった。戻ってきたプリシラは二人を見て首を傾げた。


「………二人ともどうしたの?」


「…エルフって水の上を歩けるのね」


「………歩けない。今のは結界魔法で足場を作った。この魚も籠みたいな形をした結界に入れてるだけ」


 遥が確認するように手を伸ばして魚を触ろうとすると見えない何かに当たった。


「本当に籠みたいな形のものがあるわ。良く見ると水滴があってわかるわね。立派な鮎ね。美味しそう」


 結界のカゴの中には体長30センチほどの丸々とした鮎が六匹獲れていた。胸ビレの後ろに大きな黄色の楕円形の模様がありよく育っているのがわかる。


「折笠さん……」


 折笠に懇願する様な視線を向ける遥。食い意地が出てきたようだ。


「塩は持ってきてるけど串なんて持ってきてないわ。小さいナイフがあるから捌けるけどバーベキューセットなんてないわよ。あるのはスープを作る用の道具よ」


「そうですか………」


「………串があれば食べれる?」


「そうね。あと……焚き火?」


「………両方問題ない」


 プリシラは地魔法で魔法で60センチほどの串を六本作り、さらに足元に火の玉を出した。


「………これで食べられる」


「プリシラの魔法は便利ね」


「………魔法は生活を豊かにするための術。ダンジョンでは戦うための術という面が大きいけど、戦いに使うよりも生活に使うもの」


「いろんな人たちに聞かせたいわね………」


「同感です………」


 思うところがある折笠と一条は思わず感心し声を漏らした。


 世界中で起きている問題の一つとしてスキルによる犯罪がある。例えば殺人事件など道具を使わずに魔法などのスキルで行えば物的証拠は残らない。完全犯罪も不可能ではないのだ。他にもスキルを利用した犯罪は多々起きており、警察は対処しているが追いついていないのが現状である。


「とりあえず、ちょっと早いけど昼食にしましょう。捌くからちょっと待ってて」


「………私の結界の上で捌くといい」


「色まで変えられるのね」


 黒色の板状に出来た結界を折笠の前に現れた。確認する様に結界に手を乗せ体重をかけたりしている。ナイフを取り出して鮎から鱗をとり内臓とエラを取り出す。湖の水で洗って串に刺して塩をまぶして地面に刺していく。プリシラに火の玉を出してもらい焼いていく。


「まさかキャンプを楽しむ様な感じになるなんて思いませんでしたね」


「ええ。でもプリシラのおかげで美味しいものにありつけるわ。これ絶対美味しいわよ。ここの鮎食べるの初めてなのよね」


「私もここの鮎を食べるのは初めてです」


「………楽しみ」


 串に刺して焼いている鮎から水滴が数滴落ちている。しばらくしてこんがりと焼きあがった。


「そろそろ良さそうね。プリシラが獲ったけど確認するために一口食べてみるわ」


 そう言って折笠が鮎が刺さった串をとり息で少し冷ましてから背を一口食べた。


「うん。ちょうど良い焼き加減ね。外はパリッとして中はふっくらとしてて身も柔らかくて美味しいわ。塩はもうちょっと多くても良かったかしら。二人とも食べてみて。六匹だから一人二匹食べられるわね」


 折笠に催促されプリシラと遥も串を手に取り鮎に口をつける。


「ただただ美味しいですね。鮎ってこんなに美味しいんですね」


「海の魚よりも好きって人もいるものね。休みの日に専門店に食べに行ってみようかしらね。プリシラも美味しい?」


「………美味しい」


「…顔が変わらないからイマイチわからないわね。ほぼ棒読みだし」


 三人はとても美味しいと鮎の塩焼きを食べるのだが、プリシラは表情が変わらないため感情が読めない。そのため本当に美味しいと思っているのかがわからないのだ。


(プリ。それ美味しいの?)


(凄く美味しい)


(私にも食べさせて?)


(もう一匹はララにあげる)


(やったー!)


 脳内でララベルにあげると約束し黙々と食べ続けるプリシラ。遥と折笠も美味しいからかどんどんと食べ進めている。


「あ~………ビールが欲しいわ」


「折笠さん。おじさんくさいですよ」


「あなたも30になればわかるわ」


「分かりたくないです」


「うわー! これ本当美味しいね」


「ビックリしたわ。今日はララベルが出てきてなかったわね。というか感覚は共有してないのね」


「常に共有してるのは視覚だけだよ。体の主導権が移るとわかるんだけどね~」


 プリシラが二匹目に口をつけたと思うとララベルだった。ララベルはプリシラと違って表情がコロコロ変わるため美味しいというのがよく伝わる。


 三人とも完食し戻ることになった。プリシラの魔力も7割程度元に戻った。装備への貯蓄分はまた今度貯めに来ることとなった。


 ダンジョンから自衛隊の研究所に戻り休んでいると一条に呼び出しがかかった。呼び出しがかかった部屋に行くと所長の田原、自衛隊ダンジョン探索科の坂本一佐、プリシラの調査研究チームリーダーの底橋と担当医の九嶋がいた。


「相変わらず「セクハラです」………あいか「セクハラです」………あ「セクハラです」………喋らせて」


 いつものやりとりをする坂本と一条。最早恒例行事である。


「お疲れ様一条君。報告があってね」


「報告…ですか? 彼女に関してですよね?」


「詳しくは坂本君からだね。私も軽く聞いただけで詳細は知らないからね」


 田原とは普通に話す一条。


「そういうわけだ。ちゃんと聞くように」


「いつものをなくせばいいだけでは?」


「………まあそうなんだが…それは一旦置いとけ。進まん」


 自分に非があることはわかっているため罰が悪そうにする坂本だが仕事モードに切り替える。


「さて、報告なんだがな。彼女の一般公開日が決まった」

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