第8話 巨乳

 プリシラは折笠からジョブの資料を受け取り読み耽って夜遅くまで読んでいると折笠に寝ろと叱られた翌日。朝食と問診が終わり、ある程度ジョブのことを把握したプリシラはララベルと相談するのだった。


(基本的には私たちの知ってるのと同じっぽいねー。知らないジョブも多いけど。スキル関係はかなりお粗末っぽいね~。30年っていう歴史を考えればまあ妥当かなとは思うけど)


(うん。一緒にダンジョンに潜ることを考えると前衛のジョブになると思う。スキルは教えないといけない)


(ん? プリは前衛じゃん。後衛じゃなくていいの?)


(後衛じゃ私に付いて来れない)


(あ~せめて付いて来れないと困るもんね。監視だから振り切るわけにもいかないもんね。振り切ると自由にダンジョンいけなくなりそうだしね~)


(だから出来るだけ高位の前衛ジョブがいい)


(拳闘士系は無いとして………剣士系かなぁ。速さだけならアサシン系もいいかもね)


(それもあるのね)


(希望はそんなところだね。いつ来るかわからないけど、どんなのが来るかなぁ。最悪結界で運ぶとか育てるってことも考えないといけないかなぁ)


 その日の昼食後に折笠が女性隊員を5人連れてきたが、プリシラは全員却下するのだった。






 ◇






 夕刻、プリシラの居る自衛隊ダンジョン研究所に一人の自衛隊所属の女性隊員が訪れた。名前は一条遥。



 一条 遥

 年齢:24歳

 性別:女

 種族:人間

 ジョブ:剣王

 レベル:125

 SP:1150/1150

 MP:410/410

 力:223

 体力:200

 敏捷:250

 器用:220

 魔力:170

 聖力:275

 運:200


 スキル:剣術LV6 身体強化LV4



 一条遥は自衛隊に所属しダンジョンに潜っているのが不思議なくらい容姿が整っている。まさに『立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花』と言えるような女性で、体型も男の欲望を体現するような体型をしている。その容姿ゆえに自衛隊の広報でも活躍している。


 彼女のジョブは『剣王』。現在剣士系で最上位と言われているジョブである。彼女は自衛隊ダンジョン探索隊の期待の星だ。まだ自衛隊のトップチームではないがトップチーム入りすることは確実と言われている。


 彼女は現在研究室の一室に通されて、加藤からとある資料の説明を受けている。


「加藤さん。これ………本当ですか? 信じ難いのですが」


「残念ながら本当なんだよ」


「試したんですか?」


「そんな勇気はないよ。もし本当だった場合死ぬ可能性が高いからな」


「私が試しても?」


「俺にそんな許可は出せないなぁ。彼女に対してはそんな権限ないし」


「………そうですか」


 プリシラのありえないステータス予想資料を見せられ信じられないと言う一条。これまでの聞き取りや、MPの総量などからプリシラの力等のパラメータを数値化したデータは近いものだと研究所は考えている。


 しかし、実際にプリシラの実力は試したことはない。一条の疑問も当然のことだった。


「あとで所長たちに聞いて見るといい。今彼女はダンジョンに潜る際の護衛っていう監視を決めている最中だから、互いの実力を知っておくべきとでも言えば通るかもしれん」


「わかりました」


「失礼するよ~」


 そこへ、のんびりとした声で部屋に入室してくる者がいた。ダンジョン研究所所長田原と自衛隊ダンジョン探索科所属の坂本龍二一佐だ。


「あ~いいよいいよ。堅苦しいのはなしでいこう」


 立ち上がり敬礼しようとする二人を止める坂本。公式な場でない限り規則には緩い人物だ。そんな人物だからか問題もあるが探索者たちからは慕われている。よくダンジョンの入り口付近で探索者たちと話してサボっている。


「田原所長。お久しぶりです」


「久しぶりだねぇ~一条君。最近二尉に昇進したんだって? おめでとう!」


「ありがとうございます」


「いやはや、本当会うたびに「セクハラです」………いや~会うt「セクハラです」………いy「セクハラです」………喋らせて?」


「存在がセクハラです」


「ひでぇ!」


 上官である坂本龍二に対して喋らせない一条。その理由は会うたびに毎回「その容姿でなんで自衛隊いるんだ?」と言われるからだ。ボケているのかと言わんばかりに言われるため、一条はセクハラで訴えようかとも思っている。


「セクハラマンは置いといて、まあ座って座って」


「所長もひどいなぁ」


 田原に促されて座る一同。切り替えて仕事の話をする。坂本は切り替えて真面目に話し出した。


「さて、一条。加藤からある程度説明は受けたと思うが、お前には今現在ここで休養されているプリシラ王女殿下の護衛についてもらいたい」


「伺っております。しかし、すでに何人かと会い断られていると聞いていますが?」


「うむ。さすがに一条が断られると我々もお手上げになるからな。なんとか彼女に気に入られて欲しい」


「それは彼女次第かと思いますが………それに、ステータスの予想数値を信用するのなら必要ないのでは?」


「言いたいことはわからんでもない。上の言うことだ。なんとかして彼女を利用したいんだろうさ」


「わかってはいましたがね………何日か粘ってみようと思いますがよろしいですか?」


「構わん。上は私たちの方で誤魔化しておく」


「わかりました。ところで、彼女の実力を試してみてもよろしいですか?」


 一条の申し出に坂本は眉間に皺を寄せるがすぐに戻した。坂本自身も本当かどうか確認する必要があると考えている。先々に試す機会はもう予定されているが前情報があってもいいだろうとは思っていた。


「………まあいいだろう。好きにやれ」


「ありがとうございます。では、さっそく行きましょう」


「ははは。気が早いねぇ。我々はモニター室で見ているよ」


 所長の田原が面白そうに喋ると全員が立ち上がり部屋から退出した。






 ◇






 プリシラのいる実験場。プリシラは読み終えていないジョブの資料を読んでいた。


(向こうよりジョブが多い。多すぎる)


(違う世界だから予想はしてたんだけど………多いなぁ。でも知ってるジョブは同じで変わらないっぽいね)


 資料を読んでいくうちに知らないジョブが多々出てきたことで少し困り気味のプリシラとララベル。しかし、知っているジョブもあるため知らないジョブでもスキルなどから予想がつき応用は効くので対応出来ていた。


 あとはこの資料に書かれているジョブが同じかどうかの検証する必要があるが、現状ではどうしようもないため同じと仮定して考えることにしている。


 そこへ、認証式ドアがノックされ開くと折笠とは違う女性が一人、左手に刀を持って入ってきた。プリシラは警戒し立ち上がるが、女性は認証式ドアの前で止まった。


「ご安心を。あなたを襲いにきた賊ではありません。見られている状況で襲う賊もいないでしょう。自衛隊ダンジョン探索科所属一条遥と申します」


「………プリミエール王国第二王女プリシラ・プリミエール」


 賊ではないと言いつつもその雰囲気はやる気満々と言った感じの一条。プリシラは警戒を解かなかった。


「ご存知かと思いますが、あなたがダンジョンへ行く際の護衛を任されました」


「………さきに五人断ったのだけど?」


「もう対応できるのが私しかいないのです。どうかご了承ください」


「………そう………ステータスは?」


「そんなものよりわかりやすい方法があるでしょう?」


 一条は足を開き刀の柄に手をかけいつでも抜ける体制。抜刀術の体制で静止した。


「刃は潰してありますのでご安心を」


「………そう」


(なんか面白い子がきたよ! しかもおっぱい大きいよ! うほおおおおおおお!)


 ララベルが興味津々と言った感じで茶々を入れてくるがプリシラは相手をしなければいけない。プリシラもララベルの意見に同意だが乗るに乗れなくて若干困っていた。


「いつでもどうぞ」


「………そう。じゃあ……はい」


「!?」


 プリシラは一瞬で距離を詰めて右手で一条の刀の柄に手を当て、左手は拳を握り鳩尾に軽く当てていた。


(速すぎる! 一瞬だけ見ることはできたのに! 扉を背にして前からだけに集中していたのにまったく動けなかった!)


 一瞬だけプリシラの動きを捉えていた一条だが、捉えた瞬間には刀の柄を抑えられ鳩尾に手を当てられていた。しかも自分との距離は6、7メートルはあったのにも関わらずだ。捉えた一瞬では体が動くまでいかなかった。


「………続ける?」


「…いえ。失礼いたしました」


「………護衛の件だけど、あなたなら条件付きでいい」


「…条件………ですか?」


 今まで護衛につくと言う女性たちを断り続けていたというプリシラ。そのプリシラから条件付きならと耳元で囁かれて一条は困惑しながらも返事をした。離れようにも左手で肩を掴まれていた。


「………そう。条件は……………………」


「!?」


「………考えておいて」


 プリシラは条件を伝えて一条から離れ背を向けてベッドに歩きだした。


 一条は顔を真っ赤にして動けないでいた。10秒ほど経ち正気に戻った。「失礼します」と一言言って部屋から退出していった。







 ◇






 モニター室では全員がプリシラの動きに驚愕していた。


「加藤…見えたか?」


「ほんの一瞬なら………」


「………化け物だな」


 坂本と加藤は驚愕していた。仮にも自衛隊ダンジョン探索科のホープが手も足も出ないどころか一歩も動けなかったのだ。しかも相手の条件を絞った上でだ。さすがにこれは予想外だった二人。同席した田原とオペレーターの女性も同じだった。


「いやはや、凄いねぇ」


「一応録画はしていますが……」


「俺が見てもわかんないからデータだけ回しておいて」


「わかりました」


「ん? 一条君が固まってるね?」


「どうしたんでしょうか?」


「ああ、動いたね。部屋出たからこっち来るかな」


 しばらくして一条がモニター室にまで来た。さっそく坂本がさきほどの報告を催促した。坂本はつい先ほど起きたことが信じられなかった。


「一条君。正面から見ていた君の目にはどう映っていた?」


「一瞬だけ見えましたが、気が付いたら拳を鳩尾の位置に置かれ刀の柄を抑えられていました」


「そうか………」


「自分が浅はかでした。どうせ偽りだろうと油断してしまいました」


「いいじゃないか。油断慢心大いに結構。今回の経験で君はより躍進出来るだろう」


「所長……」


「ありがとうございます」


「いいってことさー。若者を導く……いや、前に進むための手助けをするのは老人の役目だよ。落ち込む時間や悩む時間は少ないほうがいい」


 即座に場の空気を変える田原。この中で一番の年長者が田原だ。言っていることも本心だ。だが空気を読んではやく報告をして欲しいと思っていることは言わなかった。


「切り替えましょう。一条。護衛の件はどうなった?」


 落ち着いたところで加藤が口を開いた。本来この件で一条はプリシラの元に向かったのだ。これがわからなければただプリシラの実力を試してきただけである。


「あ…その………条件付きでならと………了承してくれました」


「む? 彼女が条件を出してきたのか? 内容にもよるが、よほど無茶なことでない限り対応する。さすがにあのステータスを遊ばせておくのは惜しい」


 一条は坂本の言葉に少し苛立つが、プリシラの出してきた条件を思い出しすぐに苛立ちは霧散する。それほどまでに驚く条件で恥ずかしい条件だったからだ。


「その………私個人への条件でして…自衛隊などへの条件ではありませんでした」


「個人へか? う~む………」


 顔を伏せながら一条は説明する。坂本もさすがに個人へ条件を出してくるとは思っておらず悩み込んでしまう。さらにプリシラは王族ということもあり多少政治的な要素が入ってくると思っていた。聞き取り調査からも軍の指揮系統に深く関わっていたことはわかっている。そんなプリシラが個人に条件を出すのは予想外だった。


 これでは一条にその条件を了承してもらうしかない。一条は自衛隊でも先々有望だ。ジョブも最上位クラスの『剣王』で本人に剣の技量もある。自衛隊としてはプリシラにはそんな彼女と一緒にダンジョンに潜り成長させてもらいたかった。


「どんな条件かわからないけど~…そんな難しい条件なの?」


「いえ…難しくはないんです……その………」


「………もどかしいな。一体何を言われたんだ!?」


 一条がはっきりしない態度のため苛立ち声を荒げる坂本。


「こらこら坂本君。今度はパワハラって言われるよ」


「………すまん一条。だが…どんな内容かわからなければ対応しようがない」


「…………ここだけの話にしていただけると……」


「難しいな。まあ内容によるが……最低限には留めよう」


「………わかりました。では………」


 モニター室にいる全員が固唾を飲んで一条が口を開くの待った。その時間は妙に長く感じられた。

























「おっぱいを…揉ませて欲しいそうです…………毎日…30分………」


「「「「………………………」」」」


 顔を真っ赤にして口を開いた一条の言葉にモニター室にいる全員が口をあんぐり開けて言葉を失った。


「ごめん………よく聞き取れなかった。もう一回言ってもらえるかな?」


 いち早く正気に戻った田原が声を上げる。自分がボケてしまったのかと思うほどに信じられない内容に確認が必要だったのだ。


「………………おっぱいを揉ませて欲しいそうです! 毎日30分!」


 顔を真っ赤にしながら叫ぶように声を荒げる一条。もうどうにでもなれと言わんばかりの叫びに驚く一同。そしてどう対応すればいいかわからないためとりあえず落ち着かせようとする田原。


「お…落ち着いて一条君!」


「これが落ち着いていられますかぁ!」


 モニター室での騒ぎはしばらく落ち着かなかった。



 ◇



 プリシラ・プリミエール

 好きなもの:巨乳


 ララベル・ジニアスフィー

 好きなもの:巨乳


 二人の仲が良好な理由である。


(楽しみだねプリ!)


(うん)


 二人は期待に胸を膨らませていた。

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