第3話 苦労する人たちがいっぱいいる
とある自衛隊駐屯所。ここではダンジョンに関連する研究所も兼ねている。時にダンジョンからは魔物が溢れ出し被害を出すため、その対策を研究する場所でもある。
だが、今はその目的とは違う『モノ』が実験場に隔離されている。
三日前お台場ダンジョン前に現れたとある少女がここの実験場に置かれたベッドに寝ているのだ。恐ろしく美しく人間離れした耳の尖った少女はこの三日間ずっと眠っている。
自衛隊所属の高レベル探索者が万が一のために控え、ダンジョン研究者と医者が少女を調べている。時折研究者が非人道的なことを発言するため医者は大変である。
そして、3日間のうちに医学的なデータとダンジョン関係の資料をある程度まとめ終わったため、会議室で防衛省副大臣の高木と職員、厚生労働省の職員への調査結果が報告されていた。
「お忙しい中お集まりいただきありがとうございます。彼女の調査研究のリーダーをしております底橋です。時間もないためさっそく本題に入りたいと思います。三日前にお台場ダンジョン受付前に現れた少女について報告させていただきます」
少女の調査研究のリーダー底橋が話を進める。
「何から報告したものか悩むところですが、まずは彼女のステータスをご覧ください。ステータスプレートによって読み取ったステータスがこちらです」
ステータスプレートは本人が持つ魔力、もしくは聖力を読み取り表示するものである。ダンジョンが現れてから30年。ステータスに表示される内容や項目も研究され、今ではステータスを表示できる道具も確立されている。自身だけが見ることができるステータスと比べてもほぼ差がないため現在では世界中で使用されている。極稀に文字化けがあるが、他のステータスプレート使うと表示されるため製造誤差による表記ミスとされている。
プ]cラ・@?[エ/ル
年齢:¥4歳
性別:女
種別:エルフ
ジョブ:聖魔拳王
レベル:495
SP:70>0/7000
MP:0/}2_0
力:S
体力:A
敏捷:S』|
器用:S
魔力:<S
聖力:S&’
運:C
スキル:聖拳`LV10 身(化L¥^0 全属Š魔^LV10 「ƒƒ法LV10 `『|法LV10 §ã理ã
プロジェクターから彼女のステータスが映し出されて会議室からは響めきが起きた。
「ご覧のように部分的に文字化けしていて上手く読み取れません。これは製造誤差も考え他のステータスプレートも用いて試しましたが同じ結果でした。参考までに我々のステータス例として、そこに居られます自衛隊ダンジョン科所属の加藤隊員のステータスをお見せします。比較してご覧ください」
加藤 拓海
年齢:36歳
性別:男
種族:人間
ジョブ:大剣術師
レベル:230
SP:990/990
MP:420/420
力:320
体力:300
敏捷:220
器用:200
魔力:160
聖力:300
運:80
スキル:大剣術LV4 身体強化LV5 ウェポンエンチャントLV3
「ご覧のように…え~…気になる点が多々あるかとは思いますが………私からはジョブから下の項目について少し報告させていただきます。種族の項目が気になるとは思いますが、それは後ほど担当医師である九嶋医師から説明がございますので、先にジョブの方からいきます」
響めきがおさまらない会議室だが、底橋は話を進めていく。
「まずジョブです。この『聖魔拳王』というジョブですが、ダンジョンが現れてから約30年。『聖魔拳王』というジョブは発見されておらず詳細は不明ですが、名称からして大体の想像はつくかと思いますが我々も同じ見解です。『聖拳王』と『賢者』といった魔法系のジョブが合わさったジョブかと思われます」
「すまない。確認させてくれ。たしか『王』と付くジョブはかなり高位のジョブだったはずだが合ってるかね?」
「はい。その認識で合っています」
高官の一人が確認のために声を上げて確認した。
ダンジョンの難易度や探索者のランク付は各国共通だがジョブの優劣ランク付けはされていない。だが各国も発表していないだけでジョブによる優劣はつけている。これを正式に発表してしまえばジョブの優劣による差別に繋がると予想されるからである。全人類が与えられているため人種差別以上にひどい差別が起きるだろうと予想されている。
だがインターネット上では非公式ながらもジョブの格付けは済んでいる。ジョブによってはステータスの成長の度合いも異なるため格付けは容易だった。そのため少なからず差別はすでに起きている。
このジョブの割り当てに関しては完全にランダムという説が有力である。中にはダンジョンのボスモンスターを倒し神々にジョブの変更を願う者も当然いた。だが神は無言だった。この情報が数多く出回り現在のCランクダンジョンまで検証されているがジョブを変更出来た者の情報はない。
しかし、ジョブの変更に成功した者も少なからずいる。それは高難易度ダンジョン、現在Aランクに位置付けられているダンジョンの神に願った際に叶ったのである。その者は『剣闘士』から『聖拳王』へとジョブを変更した。その代償かレベルは1となっていた。
この情報からジョブを変えるには最低限Aランクダンジョンをクリアしなければいけないということが広まり、ジョブの変更は世界中でほぼ諦められている。
「続けます。次にレベルですが………現時点での人類の最高レベルである470を超えております………次に行きます」
何も言うことはないと言わんばかりに次の項目へといく底橋。会場にいる全員が気持ちを理解できるため何も言わずに静まり返った。
「ご存知かと思いますがSPとMPを一応解説します。SPは聖力を使うジョブにある数値です。武器を使ったスキル、例えば彼女の場合は文字化けしてますが『聖拳術』がこれに該当します。MPは魔法関係です。ご覧のように彼女はSPと……MPもおそらくですが莫大な数値です。どう言うわけか彼女はMPが回復していません。SPもMPも休むことによって回復するのですがMPだけが回復していません。これに関しては現在調査中です」
会議室にいる者たちは確認するようにうなづいている。この辺りまではほとんど確認作業のようなものである。気になるのは次の各種パラメータなのだ。
「力などの各種能力値ですが我々と共通だとわかります。ですがご覧のように彼女のステータスは我々と異なり段階別に分かれているようです。これを我々と同じようにレベルを元に数値に変換しました。ステータスは『聖拳王』のステータスを元として割り出しています。しかし、彼女のレベルと性別が女性であること、実際に動きから測ったものではないこと、そして『おそらくこの程度だろう』という認識でご覧ください」
力:900
体力:750
敏捷:1000
器用:800
魔力:950
聖力:1000
運:300
「先にも申しましたが実際に彼女の動きから測ったものではないため参考程度です」
会議室からはまだ響めきがあがり、口々に声を上げている。そんな中防衛省職員の一人が挙手した。底橋から「どうぞ」と言われ席を立ち発言する。
「その………実際にダンジョンで戦っている加藤隊員に聞きたいのだが…………彼女と戦って……勝てるかね?」
「…今の数値と彼女のステータスからの判断になりますが……何も出来ずに負けるでしょう。この後のスキルもありますので……」
「そうか…ありがとう」
加藤隊員の返答を聞いて納得したように席に座る高官。自身の考えと同じだということを確認した。
底橋が説明を続けるために、プロジェクターの画面を戻した。
「加藤隊員からもありましたが、次はスキルです。先に申し上げますと後半の3つはわかりません。予想ではありますが最後の一つは資料にいくつか候補を載せてありますので後ほどご覧ください。スキルにレベルがあることはご存じかと思いますので説明は省きます。一部文字化けしていますが現状確認されている最高位でしょう。スキル名は一つは全属性魔法と思われます。もう一つはおそらく身体強化でしょう」
底橋の説明に頭を抱える者が多数いた。頭に手を当てた者たちは受け止めたくない現実を実感したような気分だった。
「聖拳術は『聖拳王』と同じと考えています。身体強化は剣士などの前衛系のジョブで持っている方が多数おりますので省きます。そして全属性魔法を持っているジョブは確認されている中では『賢者』のみです。このことから彼女のジョブである『聖魔拳王』は『聖拳王』と『賢者』が合わさったジョブだと推測されます。簡単ではございますが…私からは以上となります。ご質問はありませんか? と言ってもあまり答えられませんが………」
「正直な話……わからない点が多すぎてツッコむ気にならんよ」
最前列に座っている防衛副大臣が底橋に声をかけた。底橋は軽い調子で答える。
「おっと。奇遇ですね。同意見です」
「はは………君の気持ちもわからんでもないよ。次にいこう。種族についてだったかな?」
「九嶋君。頼むよ」
「はい。担当医師の九嶋です。私の方から血液検査等から得られたことを端的に説明させていただきます。専門的な内容は避けて説明させていただきますのでご理解ください。といっても私もあまり説明することがないのですがね…」
医学的な面はこの会議室にいる者は九嶋医師を除いて素人のためこの内容には全員が理解を示したようにうなづいた。
「基本的には我々人間に酷似しています。一番の違いは耳の形と構造の違い、そして寿命でしょう。耳は我々と違いおそらく動かせます。テロメアなど色々ありますが省かせていただきます。寿命に関してはおおよそ人間の五倍以上は生きられるかと思います」
「つまり………創作の中にいるというか……ファンタジーの世界のエルフ………ということですかね?」
厚生労働省の職員が困惑気味に九嶋医師に尋ねた。
「その認識で良いかと……………すいません。正直なところこの短期間では何もわからないんです。検体も彼女だけですし……実年齢もわかりませんから……」
「すいません……責めるつもりはないんです。未知の細菌などは持ち込んでいたりはしていませんかね? 感染症などは……」
「はい。その点は今朝方に問題ないことが確認されました。もう隔離する必要も防護服も必要ありません。ただ、我々の技術で調べた限り、という言葉がつきますがね……」
「そうか。十分だよ。それを聞けて一安心だ。ありがとう」
何せお台場ダンジョンという人が大勢いる場所に現れたのだ。未知の細菌によるパンデミックが予想されていたが起こらないことが分かり高官は安心した。
「私からは………まあ…以上です」
会議室に微妙な空気が流れるが全員が結果を何となく察していたため特に質問も上がらなかった。
「何もなければこれで終わりとさせていただきますが………よろしいでしょうか? ………無いようですね。ではこれにて…ああ、すいません。彼女が身につけていた防具については資料に載っております。類似したダンジョン産の防具も載せてありますので後ほどご覧ください。次回の報告は彼女が目覚めて何か聞き出せた時にさせていただきたいと思います」
投げやり気味に底橋が場を締めて一礼してから退出していった。説明不足が否めず高官たちは不満もあったが、結局のところ何もわからない、ということがわかっているので文句も言えずに黙っているしかなかった。
続々と会議室から退出し、防衛副大臣の高木は外にある喫煙スペースに来た。そこにはすでにタバコを吸っている底橋がいた。副大臣もタバコに火をつけ底橋に声をかける。
「やあ底橋君。急に大変なことになったね」
「どうも。もう投げ出したいですよ。代わって欲しいです」
「私もだよ。各国からの対応に、マスコミや一般からの問合せに大忙しだ」
「SNSで瞬く間に世界中に知れ渡りましたからね。あんなところに現れたら隠そうにも隠せませんからね」
お台場ダンジョンという人が大勢いる場所だったため瞬く間に『エルフの少女』はインターネット上に広がっていった。そのせいでダンジョンを管理する防衛省には問い合わせがひっきりなしに来ている。
他国からも数多くの問い合わせが相次いでいる。中には彼女を引き渡せと言ってくる国もあるほどだ。現状は何もわからないと答え、引き渡しは拒否している。
「はあ………やるしかないんだよなぁ……」
「お気持ちはわかります。ところで話は変わりますが、彼女、美人ですよね?」
「ん? ……確かに美人だな。SNSでも幼さが垣間見れるからか『眠り姫』『異世界の姫』など様々な呼ばれ方がされているな」
タバコを吸い終わりもう一本のタバコに火をつけてから話し出す底橋。
「将来が楽しみですね!」
「いや………底橋君。何を言っているんだい?」
「成長した彼女には是非踏まれたい! いや! してなくても踏まれたい!」
「………君の性癖はどうでもいいんだが………あまり外で言ってはいけないよ?」
「こうやって現実逃避しないとやってられないんですよ! 防衛省からもマスコミからも問い合わせの嵐でこっちはもううんざりしてるんですよ! この気持ちがわかりますか!? わかってくれますよね! 防衛省も問い合わせの嵐ですから! なぜ防衛省のお偉いさんからこちらに問い合わせが来るのかわかりませんがね! 踏まれたい気持ちもわかりますよね!?」
声を張り上げる底橋に両手を伸ばし上から下に動かす動作を繰り返してまあ落ち着いてというジェスチャーをする高木防衛副大臣。勢いに押されそうになっていた。
「気持ちは分かるよ。私も現実逃避したくなる。踏まれたい気持ちは………私はそう言う趣味はないからわからんが…とにかくお互い職務を全うしよう。ではこれで」
タバコを消して逃げるように喫煙スペースから歩いていく高木防衛副大臣。それを残念そうな顔をしながら見送る底橋。互いの境遇が理解出来るため底橋は仲間を失ったような気分だった。タバコを吸いまた現実逃避にふけるのだった。
その頃、隔離された実験場で1人の少女が目を覚ました。
(………知らない天井)
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