第30話 子心①
家族になってから幾年が過ぎ去っていった。
穏やかな時もあれば、怒涛の時もあった、それでもこうして幸せな時を過ごせていた。
様々な経験をしたからこそ、色々な事を受け入れる事が出来るようになった気はする。
「お母様でもそんな大胆な事をする時があるの?!」
とセレーネは母の昔話を聞いて驚いた。
「えぇ。でもあなたは絶対に真似しないでね」
「いやぁ無理だわ。でもどちらかというとお父様の方がしそうだと思ってたんだけど」
セレーネはうむむと唸る。
「私も負けないくらい好き。大好き過ぎて、諦めきれなくて、今でも誰にも渡したくないくらいよ」
はにかむ様子が可愛らしい。
実際の年齢よりも幼く見えるミューズは、未だに夜会などへ行くと声がかかる。
落ち着いた大人の女性の魅力と少女のような雰囲気があるから、特に年上の男性方に人気があった。
昔の悲劇も相まって同情されているのもあるようだ。
それとなくセレーネからも気をつけたほうがいいも言ったが、
「本気なわけないわ、からかわれているだけよ」
と笑い、重要視していない。
「そういう受け止め方だから厄介なのよ。そんなんだからお父様がいつまでも安心できないのだわ」
父が今でも母関連の事で嫉妬の気持ちを持つのも仕方ない事だと思う。
けして離れることをせず、常に目を光らせていた。
「ティタン様は大げさなのよ。もう二児の母で、シミもしわも増えたし、可愛いなんて言われる年でもないのに」
「いやぁどうかなぁ」
シミもしわも確かに増えたのだろうが、気持ちのゆとりというか、性格の良さがにじみ出ているから魅力的に見える。
幼い頃からミューズが怒るのを見た事がないくらいだ。
「あなたの方が可愛らしいし、魅力的だわ。私の可愛いセレーネ」
なでなでと頭を撫でられるが、そのような年でもない。
というか身長も既に母を越している。
「もう、子ども扱いは止めてってば」
そうは言いつつ、内心では嬉しい。
「つい、ね」
手を下ろし、セレーネを見つめる。
成長した娘の事が嬉しくもあり、寂しくも思う。
「今夜はあなたが婚約してから初めてのパーティね」
「うん。ちょっとドキドキするわ」
見知った相手ではあるけれど、公の場でのエスコートは初めてだ。
大人の男女として参加、皆の前での披露、色々な事を考えると緊張してしまう。
「本当に私で良かったのかしら」
何せ自分の方が年上だ。
それに母のようにおしとやかでもない。
もっと女性らしく、可愛らしい令嬢の方が合うのではないかと考えてしまう。
「あなたがいいと言って婚約を申し込まれたのよ。もっと自分に自信を持って、あの子の言葉を信じてあげて」
「でも」
「不安なら何でも話合うといいわ。言わないで後悔するよりもずっと良いもの」
かつての自分に伝えたい言葉だ。
「不安な気持ちを隠して仲違いするのではなく、何でも話すといいの。本当にあなたを想ってくれてるならば嫌いになんかならないし、寧ろ話してもらえた方が嬉しいはずよ」
「そうかな?」
「少なくともティタン様はそうだと言っていたし、エリック様もそう言っていたわ。気持ちを完全に察することは出来ないって」
「伯父さまがそう言うならそうよね」
セレーネは父であるティタンよりもエリックの言う事に信頼を置いている。
若干父の直情的すぎるところというが、素直なところが心配なようだ。
悪く言えば単純すぎると。
「だから気になるところがあるなら彼といっぱい話をしてみてね」
「えぇ」
ミューズはセレーネを抱きしめる。
「いつまでもあなたの幸せを願ってるからわ」
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