第29話 第二の故郷
長期休暇を取って、風花亭に家族で遊びに行くこともあった。
自然豊かな村の雰囲気をスフォリア家の皆は気に入り、特に子ども達は気兼ねなく走り回れるのが嬉しいらしく、どこまでも行ってしまう。
「ルドやライカがいて助かった」
こういうのはお手の物だ、子ども達にぴったりと付き添い、どこに行っても振り切られることはない。
これなら見失う事はなさそうだ。
「そうですね。頼りになりますわ」
チェルシーが自分が褒められたかのように胸を反らす。
「ふふっ夫が褒められると嬉しいわよね」
「夫だなんて、恥ずかしくてまだ言えないですわ」
ミューズの言葉に先日婚姻したばかりのチェルシーは顔を赤らめた。
「ティタン様」
そっとマオがティタンに耳打ちをする。
「席を外す、ゆっくりとしていてくれ」
ディエスは風花亭の主ログと共に話をしているし、リリュシーヌはミューズと一緒にチェルシーの入れたお茶を飲んで会話に興じていた。
一人外に出て、少し歩く。
「久しぶりだな」
オーランドの姿に少々めんどくさそうに挨拶をする。
「今日こそは会わせてもらうぞ」
オーランドは懲りずにこうしてやってきてはルドやライカに追い返されている。
「取り巻きを連れてこなければ会わせてやるさ」
「ははっ、もしかして怖がっているのか」
今日はルドもライカもいない。
ティタンだけならどうとでもなると思っているようだ。
「普通に来たならば挨拶くらいは許そうと思っているが、そうではなさそうだからな。いつまでも人妻に手をだそうとするな」
鞘のついた剣を構え、ティタンは言い放つ。
「うるさい」
諦めの悪さにため息をついた。
「まぁ渡しはしないが、目の付け所が良いのは褒めてやるよ」
ティタンは踏み込み、男を一人ずつ鞘付きの剣で殴り倒していく。
「何でお前まで強いんだよ……」
いつもは戦いなどしないが今日は二人がいない。
「知らないのか? 俺の方が二人よりも強い」
もともとの体格がいいのもあるがずっと剣を学んでいた。
「お前もこんな事をする暇があるならもっと有意義な事をしろ」
全ての者を打ち倒し、オーランドに声を掛ける。
「そんな簡単に言うな……」
すっかり意気消沈する様子を見て、ふぅっとため息をつく。
「だからと言ってこのままでは駄目だろう。来い」
オーランドの首根っこを掴み、子ども達のもとへ行く。
「セレーネ、ヘリオス! このお兄さんと追いかけっこしてくれ。逃げきれたら家に帰った時に好きなものを買ってやる」
「本当に!?」
二人は喜び、すぐさま了承した。
「さて行ってこい。行かなきゃこれまで取り巻きをけしかけていた事をお前の父親にに報告するからな」
「てめぇ……」
今までは善意で黙っていたが、さすがにもうそろそろなんとかしたい。
相手するのがめんどくさいのだ。
「たまには全力で走り回るのもいいものだぞ」
そう言ってオーランドの背中を押して走らせる。
「俺も参加するぞ! 全力で逃げるんだ」
ティタンも子ども達を追って、駆け出した。
「お父様はダメー!」
セレーネは逃げながら拒否をした。
「きちんと加減するから、な?」
「僕欲しいものがあるのに」
ヘリオスも嫌そうだ。
「あのお兄さんから逃げられたなら買うから大丈夫だぞ」
そう言って追いかけっこを継続する。
へとへとになるまで走るのを止めてもらえなかったオーランドはとうとう倒れた。
「こいつら、化け物か……」
一番遅そうなヘリオスすらも捕まえられなかった上に、まだ追いかけっこは続いていた。
汗はかいているものの皆まだ余裕そうだ。
「大丈夫ですか? オーランド様」
その声に思わず跳ね起きる。
「ミューズ!」
暫くぶりの再会だ。
ティタン達もその声でミューズが来た事に気づき、近づいてくる。
「ティタン様の帰りが遅いから探しに来たです。丁度いいから皆で帰るですよ」
しっかりとマオがミューズとオーランドの間に入り、ガードする。
「あの、オーランド様ももしかして一緒に遊んでくれていたのですか?」
「ん、まぁな」
「このお兄さん、足遅くてね。ヘリオスにも追いつけなかったよ」
「うるさい。子どもの体力になんて追いつけるか」
セレーネの言葉に何だかはずかしくなった。
だが、
「ありがとうございます」
微笑み感謝され、何だか力が抜けた。
(こんな簡単に話しかけてもらえるのか)
気張っていたのが馬鹿らしくなるくらい普通だ。
あんな取り巻きを連れていなくても、ミューズはオーランドと普通に話をしてくれる。
臆病風に吹かれていたのはオーランドだ。
「また気が向いたら遊んでやるよ。今度は一人でくるからな」
「?誰か一緒だったのですか」
そう言われ、伸された連中を思い出す。
「用事を思い出した。今日はもう帰る」
急いで立ち上がり、ミューズに目をやった。
初めて見た時とは違う幸せに満ち溢れた表情だ。
とても綺麗だ。
「また来いよ」
「はい、また来ます」
ニコニコとする笑顔はとても眩しかった。
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