第28話 繋がる

「縁を切ったとはいえ、娘のしたことは僕の責任だ。本当に申し訳なかった。特にミューズ様には酷い苦労を掛けてしまった。こんな言葉だけでは足りないとはわかっているのだけど、謝罪の言葉を受けて欲しい」

青い髪に緑の目、些か第三王子に雰囲気が通ずるものがある。


国王アルフレッドの実弟、ユリウスだ。


「勿体なきお言葉です、ありがとうございます。ですがユリウス様が頭を下げることはありません、悪いのは全て」

私だと言おうとしたらティタンが前に出る。


「全ては俺が悪いのです。魔獣の出る森に入った俺が発端です」

ミューズの言葉を遮ってまでもティタンは主張する。


「ですがあそこでミューズの会えたことは後悔していません。いち早くミューズの優しさに触れて、好きな人が出来たのですから。それがなければなし崩しに婚姻が進み、俺は人を愛するというのが何なのかもわからなかったでしょう。ですから、ユリウス様が謝る事はないのです。寧ろ外交の面などでたくさんの手助けをしてくれた事感謝しています」

皆が驚くような声量だ。


「ですから今後の謝罪はいりません。親族としてお付き合いしていきたいのです」

ミューズの肩を抱き、セレーネをユリウスに見せる。


「改めて紹介をさせてください。妻のミューズと娘のセレーネです」


「ユリウス様、これからよろしくお願いします」

ミューズは頭を下げた。


セレーネはただキョトンとしていたがユリウスと目が合うとにこっと微笑む。


「あぁ、こちらこそ。とても可愛らしい子だ」

ユリウスの目が涙で滲む。


色々と思い出すことがあっただろう。






月日が流れようやく穏やかな日々を送れるようにはなった。


ただ、娘が暴れすぎて困る。


「セレーネ、もう少し待って!」

ミューズの制止も振り切り、セレーネは廊下を駆けていく。


「待てないよ、早くお祖父様のところに行こう」

お祖父さまとは国王アルフレッドのところだ。


あそこで出されるお菓子が美味しすぎて、セレーネはいつだっていっぱい食べてお土産を貰って帰ってくる。


従兄弟と遊ぶのも楽しみだ。


弟のヘリオスはやや気弱なので遊ぶなら従兄弟との方が面白い。


階段を駆け下りようとしたところを父に掴まった。


「母様のいう事は聞かなくては駄目だぞ」

片手で軽々と抱えられ、セレーネはむぅっとする。


「だって、待つの飽きたんだもの」

ミューズの身支度は子どものセレーネには長いのだ。


「そうか? 綺麗になる為なのだから、俺はいくらでも待てるが。もちろん普段からミューズは綺麗だけどな」


「いつもそればっかり」

いつも褒める言葉しか言わないし、ミューズのいう事なら何でも聞いている姿しか見ない。


こんな風なのに剣の腕前では負けた事がない程強いなんて、たまに信じられなくなる。


「本当にそう思うのだから仕方ないだろ。ヘリオスも母様がもっと綺麗になるのは嬉しいだろ?」

息子にもそう話を振ると小さな声で返してくれる。


「うん、母様は綺麗で優しくて、好き。姉様ももう少し見習ってほしい」

薄紫の髪色と黄緑色の目をしたヘリオスはルドの後ろに隠れながらそう言う。


「何ですって?!」

ティタンに抱えられたままそう言うとヘリオスは更に隠れてしまう。


「いつも賑やかだね」


「お祖父様」

にこやかな笑顔でヘリオスをそっと支えたのはディエスだ。


「大丈夫、きっとセレーネも年頃になればもう少し落ち着くよ」


「本当に? だって母様に全然似てないよ」

穏やかなミューズと違い、セレーネは元気いっぱいだ。


性格的に言えばヘリオスの方がミューズに似ている。


「そうだなぁ。セレーネはリリュシーヌ似だから、気が強いんだろう。でも12、3歳くらいには落ち着くから安心なさい。それか恋をすれば」


「恋?」

子ども達にはピンとこないようだ。


「そう恋。恋をすると、人はその人の為に何でも出来るし、何だって頑張れる。素晴らしいものだよ。僕も昔リリュシーヌに恋をした時は死に物狂いで頑張った。結婚したくて、認めて欲しくて、頑張ったんだ」

ディエスはいち文官で爵位も低いし、何も持たない三男坊だった。


魔力もなく、剣の才能もない。


リリュシーヌの父であった前スフォリア公爵は二人の交際を最初は認めてくれなかった。


それでも頑張って功績を出すために一生懸命に仕事に打ち込み、気持ちを伝えるために手紙も何通も出した。


ようやく認められ、こうして今に至るわけだ。


領地経営に関しては実は前公爵よりも評判はいい。


「お父様もそうなの?」

抱えられたままのセレーネがそう聞いてきた。


「そうだな。恋をして、それが叶って、こうして幸せな日々を送れるようになった」

優しい義両親と綺麗な妻、可愛い子ども達に囲まれて幸せだ。


領主としての仕事を教わりつつ、領地の警護にも当たっている。


ルド達も一緒に巡視しているおかげで、犯罪を企てるものは減っている。


もと護衛騎士という肩書きは抑止力としての効果が高いようだ。







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