第21話 許可と実力
翌日約束通りに領主の元へと赴き、今までの経緯と騒動を説明し謝罪を行う。
「村を騒がせてしまい、申し訳ございません。まさかこのような事になるなんて考えもつきませんでした。そして厚かましい事とは承知していますが、許されるのであれば、もう少しだけこの村に居させてもらえませんか? せめて体調が安定するまでは、居させてほしいのです」
「身重の女性を放り出したりはしないから安心してほしい。それにしてもオーランドの話とはだいぶ違う女性で驚いた。村民達からも聞いてはいたが、実際に会うともっと違う。本当に穏やかで優しい人柄だ」
とても謙虚で奥ゆかしさを感じる。
けれど、自分の思いも発言できる女性だ。
オーランドからは貧相で可哀想な女が勝手に住み始めたと聞き、村民からは行き場のないボロボロの女性が来たと聞いていた。
ミューズの回復薬が村に広まり始めると、優しくて有能な人だという評判に変わる。
やがて誰が射止めるかの話になった時に、ミューズの懐妊がわかった。
オーランドが手を出したのではと疑われたが、こうして夫を名乗る男が迎えにきた為に疑いは晴れる。
けれど今度はそのオーランドがミューズに固執をしていて、領主はやや困っていた。
(村外からの女性は珍しいからだろうと思っていたが)
立ち居振る舞いが平民とまるで違う。
髪も肌もチェルシーがしっかりとケアをし、公爵家から持ち出した衣類を身に着けているので、その上質な生地から上流階級の者だったとはすぐにわかった。
ミューズ達の後ろで控えるルドとライカの立ち姿も普通ではない。
絶えずこちらの動向を伺い、何かあればすぐに動けるようにと隙もない様子だ。
ただの付き添いではないとすぐにわかる。
「助かります。本当はすぐにでも元の家へと連れて帰りたいのですが、生家はここからだいぶ遠いので道中が心配だったのです。子が無事に生まれ、体調が整うまでの間だけでいいのです。それまで俺達もこの村の為に尽力しますので」
ティタンの力強い言葉に、従者たちは頷く。
「恥ずかしながら気持ちのすれ違いにより、妻にはこうして逃げられてしまいました。ですが離れても忘れることなど出来ず、方々を探していたのです。再び会えるか心配していたのですが、こうして村の方に助けられ優しくされまた大事な人に巡り合う事が出来ました。本当に感謝しております。その恩も含め、村の発展に貢献したいと思います」
力はあるし、知識もある。
少しは役立てるはずだ。
「それは構わないですが、皆様はどちらの国からいらしたのですか?」
言葉の訛や髪の色からセラフィムではなさそうだ。
セラフィムは薄い色素のものが多く、ティタンの薄紫色の髪やルドやライカのような赤髪の者など、殆どいない。
「そこも追及せずにいてくれたら、助かります」
ティタンの言葉にオーランドが鼻で笑う。
「そんな怪しいものを置いておくわけにはいかない。なぁ父上」
「オーランド、お前は口を閉じていろ」
息子を言葉で諫めるが、それだけでは止まらない。
「そもそも国境を越えるには身分証が必要だがお前達は見せもしない。そうなると亡命者か犯罪者か。そもそも馬もなく、お前たちはどこから来たんだ?」
馬車や何かで来た形跡はないし、急に現れている。
「少なくとも犯罪者ではない」
ティタンの答えにオーランドは睨みつけてくる。
「そんな答えではお前達を村にはおいておけないと言ってるんだ。寝首をかかれたら困るからな」
「寝首をかこうなぞ思わない。仕留めるならばいつでも出来るからな」
剣を持ったオーランドの手下よりも、剣を持たないルド達の方が強い。
「その気になればいつでも支配出来る。それをしないのはその気がないからだ。俺達はミューズが安全に過ごせる環境を作りたいだけだ」
「大した自信だな。いつでも村を支配できるなんて、大口叩けるんだからな。余程腕前があると言いたいわけだな?」
「事実を述べただけだ。だが、このままではまたらちのあかない話し合いになる。だから力で示そう。うちの二人とお前ご自慢の手下たちと力比べをして、お前の手下が勝ったら大人しく村から出ていく、こちらが勝てば置いてもらう。それでどうだ?」
「後悔するなよ?」
武器も持たないし、二人のみだ。
ティタンほどの上背もない。
「二人に任す、殺すなよ」
「承知しています、動けなくなるくらいにしておきますから」
「お任せください、叩きのめしてきますから」
ルドもライカもやる気になっていた。
「うるさいのが出て行ったので、話の続きをしますか。ちなみに本当に村に何かをする気はありませんが、領主殿にだけ、これを見せておきましょう」
ティタンは己の身分証を提示した。
「これは……!」
アドガルムの王家の紋入りのものに驚いている。
「他言はせずにお願いします。そして本当に他意はありません、潰そうと思えば潰せる、という言葉も信じてもらえますか? 何もなければ何もしませんが、ご子息のやんちゃだけはその都度対処させて頂きます。言って聞くタイプでもないでしょうから」
屋敷の外から悲鳴と大きな物音が聞こえる。
ティタンはそっとミューズの体を抱き寄せた。
「うるさくしてすまないな。じきに終わるよ」
その言葉通り静かになった。
「終わりました」
そう言ってルドとライカ、そして呆然としたオーランドが戻ってきた。
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